第4話「サーヤのお願い」
「ど、どうして? い、いや、久しぶり?」
……サーヤとは、孤児院を出て以来会っていない。
そもそも、あの日……。
属性診断の日以来疎遠になってしまった──。
彼女が今どうしているのか、風のうわさ程度にしか聞いていないけど、孤児院をやめたネトーリ先生と冒険者をして、そこそこに名を挙げているんだとか。
……なんでネトーリ先生と一緒なのかは聞くまい。
そんなことより、なぜここにサーヤが?
「あは! やっぱりライトだ! 全然かわってないねー!」
どふっ!
「ごふ!!」
火属性魔法使いらしい、排熱を考慮した際どい魔導服のまま、ライトに飛びつくサーヤ。
そのスキンシップは昔と変わらなかったが、胸の圧力ががががががが──。
「ライトさん……」
どき!
なぜか冷たい視線をむけるメリザさんに、思わず背筋が伸びる。
「えっと、コイツは幼馴染で──」
「べっつにいいんですよ~? ギルドの風紀とかあるっちゃあるんですけどぉ──……っていうか、その人ですよ。依頼人は」
へ?
「正確には、依頼人と同じパーティメンバーですね」
へー…………。
…………って、
「え、えええええ? い、依頼人と同じって、まさか──」
「にひひ」
ライトの胸で顔を上げてかわいらしく微笑むサーヤ。
……うそ。
依頼人と同じパーティってことは──……。
「あぁ、君がライト君だね?」
コツコツコツ。
上品な足音を立てて、朝日の逆光を浴びながらやって来た人物。
「──初めまして。『
そう言って、慇懃に礼をしてライトに手を差し出した人こそ、今話題の新進気鋭の冒険者パーティ『銀の意志』リーダーその人であった。
※ ※ ※
「え、ええええええええ! だ、大賢者アグニール──様?」
ライトの背筋がさらに伸びる。
このままでは、いっそ仰け反りそうなほどにビシィ! と──。だって雲の上の人どころか、ライトたち冒険者が目指すトップに一番近い人だ。
いや、都市伝説クラスのSランクを除けば実質本物のトップと言える人物だろう。
そんな人がライトに握手を求めてきている。
──大賢者アグニール。
王都にある魔術研究の最先端、『魔塔』出身の魔術師だ。
若くして才能を発揮し、活気的な魔力補充の方法を生み出して、一躍魔術師界の麒麟児──いや、寵児となった人物。
もとは、魔法使い系統で、ハズレに近い【無】属性を診断された人物であったという。
その名の通り【無】属性は、4大属性にとどまらない。
しかし、そのかわりに、どんな魔法でも習熟できるという特性があった。
もちろん、その分、熟練度が上がりにくという特性があるため万能ではない。
そのうえ、Lvが上がっても魔力所得量が低いということもあって、なかなか熟練度が伸びない属性でもあったのだ。
だが、貴族出身のアグニールは魔塔に入るや否や、その豊富な資金を背景としつつも、その天才性を発揮し、魔力を瞬時に回復させる方法を見つけ、【無】属性でありながら、熟練度を大幅に上昇させ、
なんと
【無】属性の最高熟練度に到達し、さらにその属性を
今や彼の属性は、世界で唯一無二の【全】属性という超レア属性をもっているという。
その属性は名の通り、全属性を操り、かつ、新しい属性を生み出すこともできる無敵の属性という話だ。
そして、アグニールはその功績をもって、『魔塔』の最高権力『
それが、ここにいる銀髪の美しい青年──大賢者アグニールであった。
「ははは、アグニでいいよ。そんな大層なものじゃないし」
そう言って気さくにライトの手を取りブンブンと上下に振る。
長身で細めの体つきなのに、意外と力強く、数々の雑用で鳴らしたライトのそれよりも頼もしかった。
もちろん、そんな謙遜をされてもライトをして気安く「アグニ」なんて呼び捨てで呼べるはずもない。
身分も違えば、冒険者のランクも、なにもかもが違うのだから!
「と、とととと、とんでもない!」
「え、えええ、そうですよ!」
なぜか受付のメリザも交じって、ブンブン首を振る。
「はは、まぁいいか。……それよりどうかな? 受けてくれるかい?」
そう言いて少し困った顔のアグニール。
「え? 受けるって……え?」
「ほらぁ、パーティ募集の件よ!」
いまだにくっついたままのサーヤにようやく気付いたライトが、顔を赤くしたり青くしたりで、飛びはねる。
「う、うわ! いつまでくっついているんだよ!」
「えへへ」
小悪魔のような笑みを浮かべるサーヤ。
どうやら確信犯らしい。
「はは、聞いた通り仲良しだね」
「うん! だって、幼馴染ですもん!」
え、ええー……。最近、疎遠だったじゃん。
ちょっと、釈然としない思いを抱きつつも、そういえばと、メリザの言葉を思い出す。
「……え、アグニール様と一緒ってことは、え。えええ──もしかして、サーヤって」
「ん? そうだよ? へへ、昇格しましたー」
ペロッとかわいらしく舌を出しながら、豊満な胸の間からゴールドの冒険者認識票を取り出す。
……うげ、本物じゃん?!
っていうか、む、胸が……。
男の性を無理やり押し殺し、なんとか目をそらすライト──だって男の子ですもの。
「そ、そうか。出世したんだな……」
ちょっと寂しげな思い。
昔は自分も並び立ち、
可能ならば、そのアグニールの位置に自分がいたかったのだが……。
結局、あれ以来サーヤとは、人生が交わることもなく、彼女はライトを置いてさらなる高みに行ってしまったようだ。
そこだけは、どうしてもやっぱり寂しい。
しかも、その……。
なんというか、アグニール様と一緒のパーティということは、やっぱりその──。
「へへ、アグニ様のおかげだよ」
「サーヤの実力ありきさ」
ぎゅっ
(あ、あぁ……やっぱりそうだよな)
ライトから放れると自然な形でアグニールと手をつなぐサーヤを見て、
まぁ、数年も離れていればそういうこともあるだろうさ。
だけど、そうすると──。
サーヤと一緒に孤児院を出たネトーリ先生は?
「やぁ、久しぶりだねライトくん」
う……いた。
アグニールの背後に隠れるようにして現れたのは、かつての恩師「ネトーリ神父」だ。
もっとも、恩師というほどお世話になったおかげではないけどね。
「はは、二人は顔見知りだろう? このネトーリ師の勧めで君に声をかけんだよ。凄い魔力の持ち主なんだって?」
「え? い、いえ……それほどでも」
正直、あまりネトーリ先生にはいい感情がない。
属性診断を受けるまではライトの魔力の高さを褒めていたくせに、【光】属性を得たとたんに掌を返されたのだ。
おまけに、サーヤが孤児院を出ると同時に、
さっさと自分までもが孤児院を引退して、「昔取った杵柄だよ」とかいって冒険者に戻ったというのだから、なんともはや……。
「どうかね? 急な話で迷うこともあるだろうが、私の顔を立てて、依頼を受けてくれないかな?」
ニコニコ
昔と変わらぬその笑顔。
だけど、今となってはうすら寒いだけ──……。
ここは断ったほうが無難かもしれな──
「──お願いライト! 一緒にクエストを手伝って!」
う……!
むぎゅー! っと、
胸を押し付けながらサーヤに頼まれれば、ライトには断るという選択肢がなかった。
「わ、わかったよ。お、俺でよければ……だけど」
渋々了承するライト。
……もちろん、それが初めから胡散臭いと知りつつも──。
それでも、サーヤならライトを裏切らないだろうという思いがどこかにあったのだ。
そう、サーヤなら……。
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