第3話 ~とあるメイドの視点~

 最近、ロイ様の様子がおかしい。

 つい一週間前までは努力という言葉から一番遠かったはずのロイ様が、突然狂ったように鍛錬をしている。


 事の始まりは一週間前。私はいつものようにロイ様を起こしにロイ様のお部屋に行くと、いつもは起こしても起きなかったロイ様が、ベッドの端で腕を組んで何かを考えていた。

 普段の様子を知っていて尚、いや逆に普段とのギャップと当主様の血をしっかり受け継いでいる整ったお顔で思案する姿を見て、様になるなぁ、なんて思いながら、驚きの声を上げていた。

 そのあとは、さらに驚きの連続だった。あの、訓練場という言葉を聞いただけで吐き出していたあのロイ様が、自ら訓練場に行くと言い出し、口調もあぁ、ボンボンのおぼっちゃまだなと思うようなものから一転、理知的に、そして柔らかいものになったり。もう驚きすぎて困ります。


 そして、そのまま食事のとき、お手洗いのとき、お風呂に入るとき以外はすべて訓練場にこもりきりになって、四日目についにロッシュ家の方々の全員から何かしらの病気を疑われ医者を呼ばれた時はさすがに笑うところでした。でも、ロイ様の「さすがにひどすぎない?」という言葉で我慢しきれず噴いてしまいました。


 そして、今日。ついに朝食の時になってもやってこなくなってしまい、当主様から呼んできてほしいと言われ、訓練場にやってきたのですが………


「肉体強化、解除…少ない違う。肉体強化、解除…多い違う。肉体強化、解除…まだ少し多い、違う。肉体強化、解除…また少ない。肉体強化、解除…おしいけど違う。肉体強化、解除…あぁ遠のいた。肉体強化、解除…あ、今のじゃん。肉体強化、解除…あぁ離れた。肉体強化、解除…あぁおしい。肉体強化、解除…きた。肉体強化、解除…よし。肉体強化、解除…あ、ほんのちょっと離れた。肉体強化、解除…よし。肉体強化、解除…よし。肉体強化、解除…3回目。肉体強化、解除…よし、ミスんなかったらノンストップで行こう。肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除、肉体強化、解除…」


 訓練場の隅で《肉体強化》魔法を掛けては解除して、を延々と繰り返しています。その様は、まるで何かに取り憑かれ狂っているかのようで。


「肉体強化、解除、肉体………ん?どうした?アリア」


「い、いえ、その、朝食を知らせに……」


「え、もうそんな時間なの?ありがとう」


 変わられた後の、いつもの調子で話されていて、少し恐怖を覚えました。

 普通になられたと思っていたけど、むしろ、前よりやばくなっておられませんか…?

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