第四話

 門をくぐると、広い石畳の道が続き、その両側には整然とした庭園が広がっていた。中央には大きな池があり、その周りには苔むした石や流れ落ちる小川が。

 池のほとりには石灯籠があり、夜になると柔らかな光で庭を照らす。池の中には錦鯉が泳ぎ、穏やかな水面にきらめきを。


 庭の一角には、伝統的な茶室がある。

 茶をたてることを好む訪問者のためだけに建てたそうだ。茶室は木造であり、その屋根は緩やかな曲線を描いていた。茶室の周りには竹垣が設けられ、屋敷の雰囲気を感じさせない配慮がしてあった。

 室内はこだわることを徹底的に排除したことで、茶道具が並べられているだけなのに、美と静謐な時間を堪能させられた。


 建物の内部に足を踏み入れると、壮大なホールが。天井は高く、ドーム型をしており、その中心には豪華なシャンデリアが吊り下げられ。反射光で大理石の床に神秘的な演出をしていた。天井や壁にも芸術的な装飾が施されてあった。

 ホールの四隅には、石造りの彫刻が置いてあった。力強さと洗練された美しさで、目を引く。そのなかでも木彫りの彫刻は、精巧でひと際存在感があった。


 廊下は木材で作られており、足を踏み入れるたびに柔らかな音が響く。壁には障子が取り付けられ、柔らかな自然光を包み込みようにして室内に差し込む。それがまた見事に内部の空間に、温かさと静けさをもたらしていた。


 初めて親友である晴明はるあきらに姉を紹介すると、この屋敷に案内され。そのとき執事である一文字いちもじから、伝説の大王の都市を造ったディオニソス建築術を会得した建築家に無理言って建ててもらったと説明された。




道満みちたるを呼んできますので、こちらでお待ちください」


 博雅ひろまさが居るのは客間。

 広々とした部屋には、上品な家具と調和の取れた装飾が飾られ。柔らかな色合いの壁紙が貼られ、絵画は日光が直接当たらないよう、工夫して飾られてあった。

 大きな窓からは光が差し込み、部屋全体を明るく照らす。窓の外には先ほど歩いてきた、庭の風景を楽しむことができた。

 中央には大きなテーブルがあり、その周りには椅子が配置されいた。テーブルの上には美しい花が飾られ、訪れる人々に安らぎと心地よさを感じさせた。

 部屋の隅にはアンティークの棚があり、その中には高級そうな食器が綺麗に収められていた。

 ここの主とは違い、執事は几帳面な性格。


 博雅が座っているそばには小さなテーブルがあり、上には温かいお茶とお菓子が用意されていた。

 一文字のもてなしに抜かりはなかった。

 ここを来る都度。如何に自分の知っている世界が狭く、世界は広いということを知らされる。

 ティーカップは骨董品である、が。手に取り観ると繊細な模様に感嘆しながら、香り高いお茶を一口含み、目を閉じて味わう。

 心がほっと安らぐ。リラックス効果と呼ばれる作用がある茶葉を使用しているらしい。

 慎重にお菓子を一つ手に取り、造形を眺めた後、口に運んだ。上下の前歯で噛み砕くと、ほろほろと崩れ、バターの風味と控えめな甘さが口の中で広がり始める。残り半分を口の中に入れて味わっていると――無意識に表情がほころんだ。


「あら。手作りクッキー、好評でなにより」

「……、……。ごっくん」

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