第44話 上出来の成果

 「あーもうめちゃくちゃだよ」


 糸を使った方が走るよりも速い。

 だけどMP管理の為にも時々使っている程度に収めている。

 殆どは蛇を使っての移動だ。

 後ろからは巨大な蛇が追って来ている。虚空から斬撃を放って来るので油断出来ない。


 「いやああああ!」


 「なんだあの化け物!」


 あ?

 そこそこ人が多いな。なんで?

 子供が多いイメージ。気配を探れば大きな建物の中にも人が多い。

 もしかしてここ、小学校か!

 こんな所まで走って来たのか。


 「てかまずいな」


 ここで大虐殺でも起こされたら困る。

 私は急いでこの場所から離れた。

 餌を食らうよりも邪魔者を排除するのが優先なのか、嬉しい事に私を追って来る。

 基本的に私の攻撃は有効的な攻撃には成らない。


 「どんだけMPあるのかな〜」


 そろそろ追いつかれそうって所で糸を使って一気に離れる。

 それは相手も分かっているのか、毒が口から放たれた。


 「あっぶねえな!」


 アオさんが器用に私を動かして毒を回避させる。

 その毒は緑色で酸なのか、建物がポコポコと音を出しながら溶けている。

 着地と同時に毒霧が地面を覆い隠す。


 「まずいまずい」


 耐性スキルを持っていてもアイツの毒は別格だ。

 詮索さんの力で毒への対策が不十分だと分かったのだ。


 『ジャー!』


 「おいおい。頭が良いね!」


 毒霧を避けたら回り込まれて逃げ道を塞がれた。

 巨大な体を利用して囲い込むようにして、頭を上に持って来て私を見下ろして来る。


 「はは。追いかけっこは終わりかい?」


 スリリングで全く楽しくない鬼ごっこは終わりを告げたようだ。

 黒蛇と白蛇を構えながら相手の出方を伺う。


 予定としては後一分は走りたかった。

 小学校がきちんと避難所として機能していたのが驚きだ。


 『ジャー!』


 相手の体が紫色に発光する。


 「これを地面に放つとかばっかじゃないの」


 ここら辺が吹き飛びそうな気もするけど、ま、良いか。

 ちょっとだけ人の気配もするけど逃げないソイツらが悪い。

 流石にコイツ程の存在を気づかないとか無いからな。


 「そらっ!」


 放たれる前に避難だ。


 私は地面を蹴り砕いて瓦礫を【心影】を使って上に飛ばす。

 それを足場に上へと避難し、ヴィペールの上を取った。


 「なっ!」


 しかし相手はそれを読んでいたかのようにスラリと上に顔を向けた。

 空中に居て近くに瓦礫は無い。それよりも、避ける為の時間も、無い。


 無防備な私に向かって極太の光線が放たれ⋯⋯なかった。

 ドンッ、そのような大きな音が響いたと同時に周囲の物を薙ぎ払いながら閃光が走りヴィペールの左目に衝突した。

 反動で攻撃はキャンセルされて目からは血を流す。

 予定場所や時間よりかは少し速いけど、相手が体勢を上げてくれたおかげで見えたのかもしれない。


 「ナイスだスズちゃん。愛してるぞ! 行くよアオさん!」


 斬撃ではなかなか攻撃が通らない。

 斬撃がダメなら何をするか。電柱杭はチャンスを作ってからじゃないと意味が無い。

 こんな世界になる前の物で作られているからだ。

 そう考えると私に残された手はかなり少ない。そもそもメインウェポンがナイフだったのだから。


 それでもない訳じゃない。

 今着けているグローブもそうだし、焼け石に水だろうけどメリケンサックもある。

 それに様々な事に補正が入るスキル【武芸師】がある。

 これは刀やナイフの為に用意されたスキルじゃない。

 様々な武芸に関する技術を上げるスキルだ。今の私の武術は武術の先生よりも勝る⋯⋯筈だ。


 実戦は何回も積んだ。死にかけた事もあった。

 今までの人生、こんな世界になってからの人生。

 その全てを掛けて私は強くなってるんだ。


 「くらえや! アオさんナックル!」


 右拳を強く固め、その拳にアオさんが絡まる。

 アリアントとの時とは違う。

 あの時は貫くように尻尾を出していたが、今回はそれが意味を成さない。

 だから拳の部分を胴体で強く固めた。


 メリケンサックのように打撃の力を強化したのだ。

 一点集中の火力ではなく、内部に響くような衝撃を与える攻撃。

 今の私の筋力パラメータは500を超える。アオさんの【メタルボディ】はダイアモンドよりも硬い!

 鋼色の蛇を武器に私は全力を尽くす!


 「少しは残れよ理性! 【バーンアップ】」


 紫色の粒子が迸る。私の体を蝕むような鎖が縛り着く。


 「ああああああ!」


 体が急激に活性化していくかのような感覚!

 痛みは感じないけどどことなく息苦しい。

 アナウンスが聞こえない。

 目の前の敵を衝動的に襲いそうになる。気を緩めたら意識がスキルに侵食される。

 ギリギリのラインで理性は保っているようだ。


 『ジャー!』


 相手が体勢を直す前に地を蹴った。

 今の私の筋力パラメータは1000を超える。

 大地はあっさり砕け風圧によって遠くに飛ばされる。

 人が後ろに居ようが居なかろうが関係ない。今の私が出せる力を出す、それだけだ!


 「まだまだ! 【怒り】」


 攻撃の瞬間で【怒り】を発動させてさらに火力を上げていく。

 本の僅かに視界が真っ赤に染まる。

 さらに【オーラ術】でオーラを使って拳の力を上げる。


 「いっぺん死んどけやあああああ!」


 相手の顎に向かってアオさん拳を突き出した。

 鈍い音、鉱物を殴る感覚、激しい衝撃。

 この一撃は相手の頭を揺らす程には強力だった。

 でも分かる。この攻撃には相手のHP二十分の一も削る火力が備わってない


 「何らかのスキルで守ったか」


 相手の体が微かに透明の壁に覆われていた。

 何かしらの防御スキルで身を守ったのだろう。ダメージはあまり与えられなかったけど、相手に脅威と思わせる攻撃は出来たって事だ。

 ポジティブに考えよう。


 「解除!」


 すぐさま【バーンアップ】と【怒り】を解除する。

 一瞬しか使ってないけどかなりの倦怠感を感じる。

 それでも長時間使っていた訳じゃないから反動は少ない。

 【自然治癒】の効果でそれもすぐに収まるだろう。


 「アオさん!」


 一瞬の怯みの内で私はヴィペールから距離を離す。

 地上は私達の戦闘余波のせいか知らんが、ボコボコ過ぎたので大きな建物の壁を走る。

 ガラスとかが割れていたので走りにくい事この上ないが。

 だけどモンスターが手を加えたのか、上の方は窓の所が何かで埋められて壁として使われていた。


 「そりゃあ追って来るよな」


 ヴィペールも壁を登って追って来る。

 私はアオさんの協力ありきでようやく壁を走れるのだ。忍者のように自力では壁は走れん。

 蛇であるヴィペールなら出来るのだろう。


 「と」


 アオさんが壁から離れた事によって落下し、ヴィペールから放たれた毒を回避する。

 そのまま壁を蹴破って中に侵入して反対側に向かって走る。

 今の私の突進なら壁も関係なく、破壊しながら進める。


 「追って来ない?」


 反対側の壁を突き破って外に脱出。

 そして右側の虚空から影が出来る。ゆっくりと純白の体を顕にして行く。


 「速すぎだろ!」


 回り込んだヴィペールの口が真横で開かれている。

 超反応を示したアオさんが私事地面に強く落下した事により緊急回避は間に合った。


 「ナイスアオさん!」


 落下は受身を取って地面にクレーターを作るだけでHPは減っていない。

 すぐさま走って距離を取る。


 「まじで再生系統のスキルがなくて良かったぜ」


 目からはまだ血が流れている。

 詮索さん。予想としてはどんぐらい削らてる?


 《回答。十分の一程度です》


 上出来だ!

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