第43話 電柱杭
「くらえ、電柱杭!」
そこら辺にへし折れて倒れている電柱の先端を尖らせて作り出した質量を兼ね備えた武器だ。
一度使ったら大抵砕けて使い物に成らなくなるが、その火力は黒蛇達を振るうよりも高い。
ヴィペールもそれを察知してか後ろに引こうとしたが遅い。
電柱が相手の口の中に入る。
「頼むぜ相棒!」
その電柱に向かって心影を投擲する。
仕込んである手榴弾に突き刺さり爆裂する。
爆裂は相手の口の中で行われ、電柱が砕けて破片も合わさりダメージを加速させる。
ヴィペールの口の中からは煙が出ている。
「戻れ!」
心影をすぐさま回収する。
ヴィペールはその一撃で完全にキレたようで、目を赤く輝かせる。
口の中に毒をチャージして一気に放って来る。
確かに速い一撃だけど避ける事は簡単だ。
「『クイックチェンジ』」
グローブの中に仕込んである指輪と黒蛇達を切り替えて前方に潜り込むように進む。
毒霧を躱しながらヴィペールの懐に入り込んだ。
『ジャー!』
「ちぃ! 素早いな」
ヴィペールは【光学迷彩】で隠れてどこかに消える。
だけどあの目は私を逃がすような目では無い。どこかで様子を伺っている筈だ。
スキルでの索敵も出来ない。殺気も感じない。本当にいるのかも怪しくなる。
だけど、アオさんの本能はそれらの比じゃない。
「シャー!」
「上っ!」
一気に強く地面を蹴って後ろに下がる。
そのまま高く跳ぶ。
攻撃の際にはスキルが解除されるからその姿がしっかりと見える。
「【幻影刃】!」
黒蛇に黒色の光が纏わり着く。
それを放つ事はしないでキープさせると一撃の火力が上がる。
黒と白の二本の斬撃をヴィペールの背中に叩き込む。
「硬い!」
こんな世界に成る前でナイフで鉄を切ろうとしているかのような感覚。
刃は通らなくても少しだけはダメージを与えられている気がする。
その証拠に弾かれてない。
「と」
尻尾が私を貫くように襲って来る。
普通に防いだら当然負けるのは私なので避ける。
「自由だなおい!」
純白の鱗が紫色に変色して行くので、近くの建物に糸を放って脱出する。
そのまま壁面走行をしながらヴィペールの位置をしっかり把握する。
次の瞬間、ほんのわずかな時間だけどヴィペールと目が合った。
それは今の私と同じ目。つまりは同じ考えを持っている。
『お前を殺す』
当然的な考え。
私は子供達を奪われた。アイツは攻撃を口の中で受けた。
怒りのベクトルは違えど結論は同じ。殺すまで絶対に引かない。
刹那、無色の斬撃が数枚飛んで来る。
見えないけど、【光学迷彩】とは違い空間が揺らぐので分かりやすい。
あれが【無形斬撃】のスキルか。
糸を駆使して加速して避ける。
私の背後を切り裂く斬撃はバターを切るようにあっさりと建物を破壊する。
崩れる建物の瓦礫が私へと迫って来る。
「アオさん!」
「シャー!」
アオさんが黒蛇に絡みつく。
それを思いっきり振るう。
生み出される風圧によって瓦礫はヴィペールへと襲いかかる。
当然そんなのは意味が無いと言わんばかりに避ける素振りすらしない。
「そのまま油断しておけよ」
攻撃のつもりで飛ばした訳では無い。
足場として飛ばしたのだ。
いくつもの空中を飛来する瓦礫を足場にヴィペールの上空を取る。
「のわ!」
だけどそれに超反応を相手は示した。何らかの感知スキルを持っているのは確かだ。
体から紫色の光を放って口に溜め込む。
「詮索さん!」
《回答。【毒光線】一直線に毒性のある光線を放ちます》
それが分かれば良し!
相手が口を開くタイミングに合わせて糸を適用な場所に貼り付けて体を引っ張る。
緊急回避は間に合った。そのままヴィペールへと距離を詰める。
簡単には斬ることは不可能だ。
でも、少しだてもダメージは与えられる筈だ。
「【幻影刃】【幻影刀】!」
二本の純白の刀を虚空に出現させて、黒蛇が黒い光を纏う。
同じ場所に向かってそれを下半身の力を利用して強く攻撃する。
《一定の熟練度に達しました。スキル【一撃強打】が獲得可能になりました》
「世界の声急に喋って来んなゴミ!」
私の最大の集中力を掻き乱すな!
相手の反撃が来る前にすぐさま移動する。
また空を舞う瓦礫を利用して様々な場所に移動しては相手を攻撃する。
地面に足が着いていないので、遠心力などを利用してなるべく火力は上げる。
MPの為にスキルは控えめで使う。
「来た来た!」
私の体が青色の光に包まれる。
【剣の舞】の発動条件が満たされたらしい。
これで剣類の装備中の火力が上昇する。
【刀剣属性】は使わない。使った所でMPの無駄だ。
『ジャー!』
「ただの食らいつきが当たるかよ!」
相手の体を走っていた時に口を開いて顔が迫ってくる。
私の飲み込めるデカさを持つヴィペールの顔は圧巻だ。
ギリギリで跳躍して避け、反撃に相手の頭に向かって双月刀を振り下ろした。
当然金属音を出して火花を散らすだけで終わる。
大したダメージに成って居ないことは明白だ。
「【黒蛇】【白蛇】!」
刀からそれぞれの蛇を生き残っている建物に向かって放つ。
蛇は壁を貫通して体を固定する。それを利用して壁に体を動かして走る。
壁を伝って走るとそれを追い掛けるようにヴィペールも迫って来る。
姿は消えてるけど、建物を這うので分かりやすい。ヴィペールの体重でヒビが入っている。
「自ら自分の長所を削るってバカだろ」
【黒蛇】【白蛇】アオさんを使って建物を移動し、建物と建物の間の移動は糸を使う。
時たまヴィペールが斬撃と毒を飛ばして来るが、そんなのは当たらない。
どれもがバカげた火力を誇っている。羨ましい欲しいね。くれよ。
お前の持つステータスとスキル。全部欲しいぞ。
「感知スキルあるなら意味無いかな?」
私は地面に向かって壁を蹴って加速して迫る。
タイミングを合わせて地面に踵を突き落として破壊する。
その衝撃によってアスファルトの地面は盛り上がり、土煙を上げる。
それも相手には意味がないのだろう。正確に毒を放って来る。
「残念だったな」
しかし、それすらも飲み込む程の膨大な量の水が吹き上がる。
水道とか使えないけど水はきちんと通っている証拠だろうな。
その勢いを使って高く飛ぶ。
「まだまだ!」
さらに飛んだ瓦礫に糸を使って接近し、足場にして高く跳ぶ。
どんどん高所へと迫る。
「次!」
各々の双月刀に絡まっている蛇達が体を離し絡まる。
それを私は強く蹴る。
「戻れ!」
足場の役目が終わったら蛇達は刀へと戻る。
そして場所は雲の上だ。
「ヴィペールの気配が分かる。隠れてないのか」
ならちょうど良いや。
私は双月刀を収納して電柱杭を限界まで上に向かって取り出した。
それを糸で巻き付ける。
「大ダメージは受けてくれよ」
回転する。
回転する度にその速度は増して行き、地面に向かって進む。
目まぐるしく変わる視界の中でも私は電柱から力を感じる。
引っ張られそうになる。糸が切れそうになる。
それでも必死に抑えて遠心力を最大まで加える。
「くたばっとけやクソ蛇がああああ!」
杭の先端をヴィペールの体に叩き落とした。
その火力は私の踵落としで削った地面の範囲を遥かに凌駕する。
相手の体が曲がるが、鱗を貫けたかは分からない。
でも、かなりのダメージは与えたのだろう。相手の目が血走っている。
「⋯⋯アオさん!」
相手の高速の尻尾が迫る。
アオさんを間に挟んで吹き飛ぶ。建物を数回貫通して止まる。
「ダメージはかなり抑えられた」
受け身の方も【武芸師】の効果範囲内だ。
そして今着ている制服は私の糸を使って作成している。それに関するスキルは獲得段階にも成らなかったけど。
玲奈さんも流石に専門外過ぎて、スキルの範囲内でもなかったので、制服をベースに糸で補強したって感じだ。
お陰様で少しばかりは耐久度が上がっている。
「今のでHPが31減ったのか。でも痛みは感じないし、これなら六秒あれば全回復しそうだな」
ヴィペールが来る前に私は距離を離すように走る。
建物を貫きながら私を追って来る。
流石にもう縄張りとか関係なさそうだな。詮索さんの想定範囲外にいるのに全然普通に追って来る。
隠れる必要もないのか、【光学迷彩】を使ってない。
「人間に遊ばれるのは好きかヴィペールさんよ。うちのアオさんは好きだぜ」
「シャー!」
『ジャアアアアアアア!』
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