第45話 瀕死

 「そらっ!」


 強化系スキルを一瞬使ってアオさんナックルを放つ。

 相手を一瞬怯ませたら相手に背中を見せながら速攻で逃げる。

 その時にはスキルを解除している。

 辺り一帯がボロボロで建物がだいぶ崩れている。

 もしかしたら瓦礫の中に人が居たかもしれない。


 『ジャー!』


 「と、新たな行動パターンって言うか使うスキルを増やして来たな」


 でも飛ばされたのは毒の斬撃なので避ける事はさほど難しくない。

 だが、今回はただ飛ばされた斬撃は地面を切り裂かれる無色の斬撃とは違った。


 「なんで追って来るんだよ!」


 地面に当たる事無く斬撃は軌道を変えて私を殺しに向かって来る。

 ギリギリステップして避けるが、それでも追って来る。

 生きているように追って来るな、全く。


 「詮索さんなんで! 『クイックチェンジ』!」


 適当な瓦礫を拾って『クイックチェンジ』を使い、双月刀を取り出す。

 毒の斬撃に向かって【幻影刃】を放つ。

 それは斬撃と相殺して周囲に毒を散らした。


 《回答。斬撃のスキルレベルが高いと思われます。よって遠隔での操作が可能となっていると予測します》


 「クッソやな!」


 しかも毒なので簡単に弾く事は出来ない。

 スキルを使って弾くにしてもいずれはMPの限界に至る。

 さて、どうしたモノか。


 逃げながらそんな事を考えている。

 狭い道を通っても建物を壊しながら進むので妨害にも成らない。


 『ジャー!』


 「また斬撃か」


 私は壁に背中を着ける。

 当然そんな私を襲うのは毒の斬撃である。

 ギリギリまで引きつける。


 「ここ!」


 限界まで引き付けて横に向かって跳んだ。

 斬撃は軌道変更が間に合わず壁に衝突して毒の水溜まりを作り出した。

 だけど、斬撃に集中し過ぎたせいでヴィペールに追いつかれた。


 「まずいな」


 糸も間に合わない。

 また殴るか。


 『ジャー!』


 「今度はそれっ!」


 殴られるのを分かったのか地面を這って迫って来る。

 でも、これなら上から迫れば全く問題がない!


 「とりゃ!」


 跳躍して相手の上を取る。

 だけど、相手はそれを折込積みと言わんばかりに目の前に毒の斬撃を出して来る。


 「なっ!」


 斬撃は自分の視界に入ってないと出せないんじゃないのか!

 なんで見るからに無色の斬撃よりも素が強いのに性能が高いねん。

 と言うか、これ回避が間に合わない!


 刹那、大量の銃声が響く。

 それは斬撃を粉砕して毒をヴィペールの背中に撒き散らし、ヴイペール本体にも銃弾の雨を降らした。

 余り意味は無さそうだったけど、それで助かったのは事実だ。

 でも、この音的にスズちゃんの力じゃない。


 「なんじゃありゃ」


 視界に入ったのはタレットのような武器が設置してある一軒家だった。

 なんと言うか、普通の家に見えるのに要塞に感じる不思議な家。

 無言で『近寄るな』と言う気配を感じる。

 ま、あの方角には元々行く予定は無かったけど。


 「助かったぜ」


 双月刀を収納して糸を使い距離を稼ぐ。

 今は攻撃よりも移動を優先しよう。

 ヴィペールは私を追って来る選択を選んだようだ。


 「毒の斬撃に毒のブレス⋯⋯避ける対象が増え過ぎだろ」


 しかも斬撃に関してはホーミング機能が用意されている。

 余裕を持って躱していては斬撃はずっと追って来る。

 斬撃のせいで簡単に背後を取っても油断出来ない。巨体を完全にカバーしてやがる。

 正面からは不利だ。


 無色の斬撃やブレスが飛んで来る。

 相手の得意分野で戦おうとしているのだ。そんなの自殺行為だ。

 なるべく胴体部分を攻撃するのが良いんだけどな。それも難しいか。

 再生系のスキルがないから回復は遅いだろうけど、何時間も戦っていたら回復するだろう。


 さすがに潰れた目は治らないと思うけどね。

 アイツは潜伏して狙いを定めて食らう、そのようなスキル構成に成っている。

 だからと言って戦えない訳じゃないけどね。

 要は気配を探る力よりも隠す力の方が秀でているのだ。

 相手のもう一つの目も奪えば戦いはさらに有利に進む。


 私の潜伏系スキルじゃ簡単にバレそうだけど、精密には分からない筈だ。

 詮索さんの力でわかるのは種族的に持っいるスキルであり、ヴィペールとしてのスキルは分からない。

 だからこそ斬撃と毒のスキルが合わさったような毒の斬撃には驚かされた。


 「お、良い場所じゃん」


 大きな道路に近くには高い建物がある。

 これならまた出来る筈だ。

 糸を使って上空に向かって進む。ヴィペールは姿を消して壁をよじ登り追って来る。

 建物にヒビが入るので大まかな場所は分かる。


 「ここじゃ!」


 これだと上空からの攻撃は余り効力を発揮しない。

 寧ろ下手をしたら反撃を受ける可能性だってある。

 余り危険は犯せない。だから私は壁を蹴って横に跳んだ。

 感じる浮遊感。


 「【バーンアップ】【怒り】『クイックチェンジ』」


 一気に強化し、親指に着けていた指輪と電柱杭を切り替える。

 それを四桁を超えた筋力パラメータを使ってぶっぱなした。

 空気を揺らしながらそれは見事に外れた。


 「え」


 確かに姿は見えなかった。

 それでも場所は完璧な筈だ。

 しっかり追って来るのを確認したし、それに合わせて杭を飛ばした。

 なのに、なのになんで!

 杭は壁を貫いて建物を貫通して地面に突き刺さった。

 周囲を吹き飛ばしながらも強く刺さり、粉砕した。


 「え」


 そしてヴィペールは私の横に居た。

 その体は建物に巻き付けており、縛っているように感じた。

 あの追って来ているように見えたヒビはコイツが建物に絡まって体を固定していたから出来たのか。

 それがたまたま追って来ているように見えただけ。

 そして姿を表していると言う事は⋯⋯完全に攻撃態勢。


 「アオさん!」


 避ける事も盾を出す事も不可能。

 アオさんと共に防御体勢に入り相手の攻撃に備える。

 ヴィペールは口を開けてその舌を伸ばした。

 本来ならそれで獲物を捕まえて食らうのだろうが、簡単に飲み込めるような奴にはその力が退化していたのか、強い打撃によって吹き飛ばされた。


 「かはっ!」


 鈍い衝撃が全身を襲い、私は数十メートルは吹き飛ぶ。

 一瞬ゴキリと腕が折れるような音が聞こえた。

 今の一撃で完全に腕が使い物に成らなくなった。

 急いで再生させないと。MPの消費は考えるな。動けないと、死ぬぞ。


 「なんつー一撃だよ」


 なんか視界が揺らぐ。


 「おぇぇえええ」


 そして久しぶりに食べた飯が逆流して吐き出してしまった。

 あの一撃は確かに強力だけど、ここまでの損害は無い筈だ。

 目眩が強くなる。体がすごくだるい。立つのが無理になり座り込む。

 いや、正確には倒れた。


 「かはっ!」


 口から大量の血を吐き出す。

 体が紫色に変色して行く。

 舌の攻撃を受けた箇所は服が破れ、折れたので痛々しい痣と成っている。

 再生させているけど、一向に治る気配がしない。

 MPをただ消費しているだけに感じている。


 「これは、毒か」


 そりゃあそうだよな。

 毒を吐き出せるんなら舌にも毒があっても不思議では無い。

 ヴィペールの毒、これ程の力を持つのか。

 ダメだ。意識を保つのにもやっとに成って来た。

 詮索さん。私、死ぬかな。


 《生存確率⋯⋯測定不能》


 クソ、意地でもなんかしておけば良かった。

 完全に油断した。

 舌にも毒があると、そのような効果があると、簡単に想像出来ただろ。

 詮索さんにヴィペールの種族としてのスキルは全部聞いた。それでも舌に関するスキルは無かった。

 ま、それは単にヴィペールとしてのスキルってだけか。


 「ごめ」


 仇が取れなくて。スズちゃんを一人にして。

 ごめん。こんな弱い私で、ごめん。

 多分これはもう助からない。

 だって回復が間に合ってないもん。だんだんと意識が遠のいていく。


 「にげ」


 アイツには勝てない。

 アオさんだけでも逃げて。逃げてくれ。

 その意思はきっと伝わっている筈だ。

 だけど、アオさんは私の前に来て、逃げる様子は無かった。

 アオさんは無事のようだ。少し傷ついているけど。


 「にげ⋯⋯あい」


 逃げてアオさん。愛してるよ。


 その言葉すら出せなかった。

 アオさんは小さく鳴いた⋯⋯かもしれない。音が聞こえない。

 世界の音が全く聞こえない。そこまでヴィペールが来てるのに。

 そしてアオさんは顔を私の頬に擦り付けて、口の中に入って来た。

 中を無理矢理進んで行き体内へと侵入して行く。不思議と苦しさは無かった。

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