第39話 ゴブリンシーフ
「俺は龍馬。よろしく」
「よろしくするつもり無いから自己紹介とか無しで良い?」
そう私が答えると後ろの面子が鋭い目を向けて来た。
強気に出る事は良い事ではないと思う。少しは実力差を分かって欲しい。
目の前で上位個体を屠った女に対して、人数が多いから問題ない、なんて考えには至らんだろ。
「出来ればよろしくして欲しいな」
「なに? 私が強いと判断したら守って欲しいの? それだったらお断りだ。仲間に成らないか、と言う質問をするなら答えはノーだ。君からは仲間以外を信用しないって意志を感じるからね。それじゃバイバイ」
「そっか、残念だよ」
「うん。あ、物資は残しておいてあげるよ。その代わりここに居るモンスターには手を出すな。ここに居る奴らは全員、『私達』の養分だ」
その言葉と同時に離れた場所から銃声が鳴り響く。
「警察! それとも自衛隊!」
「そんじゃ」
答えはただのJKなんて言っても信じないだろう。
何よりも今は時間を無駄にしたくないので、不良っぽいけど仲間意識の強そうなチームから離れて狩りに向かう。
あの龍馬って男、私を利用しようと考えていた気がする。あの目はよーく知っている。
うちの生徒会長と同じ目だうん。まぁ、あの人程黒くはなかったけど。
それに大きく違う点は仲間を仲間と思っている事だろう。生徒会長は人を道具だと思っているからね。
さっきのホブゴブリンでレベルが二つ上がっている。まだまだ上げないといけない。
ステータスなんて弄っていたらスズちゃんに全部奪われてしまう。
「と」
矢が背後から迫って来たので横ステップで回避する。
《一定の熟練度に達しました。スキル【危機感知】を獲得可能になりました》
「そりゃあどうも。スナイパーはどこに居るのかなぁ」
放たれた方向を見るけど特に何かがいる訳じゃない。
今は双月刀を握っている状態で、腕には心影が、アイテムボックスには黒薔薇が入っている。
一瞬奥で何かが光る。
「そこかっ!」
放たれた矢を黒蛇で薙ぎ払って突き進む。
気配をソイツだけに向けて感知する。どこに向かっているのかかが一目瞭然だった。
これがスキルの使い方か。意識次第で色々と変わる。
スズちゃんに言われたから試してみた。名ずけるなら、マーキングだ。
【気配感知】を一体にだけ集中させて精密に探る。赤色の光が視界に入るようになった。
「逃げんなよ!」
『ギャア!』
心底驚いたように弓矢を持ったゴブリンが叫んだ。
糸を使えば一瞬で制空権を奪いながら接近出来る。
双月刀のスキルはMP消費が激しいから使いたくは無い。
「だから普通に斬る!」
着地と同時に蹴る。その威力は床を剥がす程だ。
一瞬で生み出された爆発力は瞬発力を大幅に強化して一気に加速する。
ステータス上昇効果の影響で体に感じる風圧が凄い事になっている。
今のパラメータだと、私が支配されている感じがする。自分の体がまるで自分の体じゃないような感覚。
この辺も考えどころだな。ステータスの急激アップに体が追い付いてないや。
『ギャア!』
相手の背中を十字に袈裟斬り、魔石を回収して次の気配に向かって進む。
とにかく近くの奴を感知してマーキングする。その後は最速で殺す為に移動するだけだ。
ゴブリンなんて数のうちにも入らない。そんじょそこらのウルフも同様だ。
影を操るウルフは今回は居ない様子。
「⋯⋯ッ!」
ちょうどゴブリンを倒したタイミングで一瞬間近に気配を感じたと思ったら、頬を裂かれた。
再び気配が消える。私の【気配感知】でも感知出来ない妨害スキルを持っているモンスターが居るようだ。
「もしかしてヴィペールと同じか?」
《否定。ヴィペールの潜伏スキル【光学迷彩】は爬虫類系モンスターのみ獲得可能のスキルとなっております》
「ああそうかい」
私は双月刀を収納して黒薔薇を取り出し、心影を抜き取る。
今回の敵は機動力重視のモンスターだろう。そして私が大ダメージを受けてない事からそこまでの火力は無い。
攻撃のタイミングで【気配感知】が反応したと言う事は同程度の妨害スキルと言う事だ。
攻撃時にはかなりの至近距離になるし、一番殺気が出やすい。
だけど、それが分かったってどうしようもないけどさ。
「いや。あるか」
【熱源感知】が残っている。
「⋯⋯あれ、そう言えば感知スキルってパッシブだから反応してない時点で意味無いのか」
そんな当たり前の気づいたので、目を瞑る。
神経を研ぎ澄まさせて、空気の流れだけを感じる。
そうして数秒後。
「ここだ! 頼むぜ【心影】!」
私の足元の影から刃が伸びてゴブリンの短剣を弾く。
ゴブリンだったのか。
《ゴブリンシーフです》
再び気配を消して逃げようとするけど、私は踏み込む。
煙玉のような物を投げて来るが関係ない。煙玉が爆ぜて煙が視界を奪う。
ある程度の位置が分かったのなら⋯⋯行ける!
「ここら辺だろ!」
心影を投擲する。
煙を切り裂いてゴブリンシーフの頭にぶっ刺さる。だけど、倒れない。
当たり所が悪かったか、深く刺さらなかったか。
「戻れ!」
【帰属】の力で心影を回収する。
そして背後から感じる何かに従い黒薔薇を構える。そこに重なる短剣。
他のゴブリンシーフが居たのか。
「一体何体に囲まれてるんだよ。⋯⋯ありがたいね」
そう思ったけど、そうじゃない事を証明された。
やはり勘はあくまで勘であるがために、上手くいかない事が多い。
服が裂かれて、皮膚が切れる。
鮮血が床にポタポタと垂れて行く。
血が減るとHPも減るので、死が間近に見えてしまう。
「はは。もう、慣れたぞ!」
次の攻撃を弾いてバランスを崩させる。
すかさず畳み掛けて深く相手の腹を心影で切り裂いて、黒薔薇を脳天にぶっ刺す。
魔石に変わったので、他の奴らも殺す。
全員殺して数秒すると煙が収まった。
スキルによって煙が漂う長さが長くなっていたらしい。
「⋯⋯スズちゃんの銃声が鳴り止まない。このままじゃ全部奪われる! 玲奈さんとの武器制作が成功し過ぎているよおお!」
ちなみに再生スキルあるのですぐにHPは回復するし傷は塞がる。
そしてホームセンターのモンスターを狩り尽くしてスズちゃんと合流して出る。
「アオさんも三レベル上がったよ。やっぱり私がメインで戦っているから上がりにくいね。私自身は四レベアップ」
「アタシは五だよ」
「はは。やっぱりスズちゃんが狩りまくってた」
取り敢えず、ヴィペール対策のアイテムを考えながらレベル上げを続けよう。
「⋯⋯どうしたの?」
「いや」
一瞬あの人達の視線を感じたけど、私達に危害を加えるつもりは無いだろうしどうでも良いか。
次はどこで経験値を獲得しようか。それだけしか頭には無い。
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