第38話 ホームセンターレベリング
「アタイを仲間に入れて欲しい」
私はスズちゃんと目を合わせた。
「ユリザリアを強化したら鍛冶場も増やせる⋯⋯うん。こっちもよろしくお願いします」
握手を交わす。
スズちゃんも目で同意してくれた。
そもそも私から仲間に加わって欲しいと願い出るつもりだった。
今後の武器のメンテナンスなども含めて、彼女がないと成り立たない。
この願いではありがたい。
「⋯⋯あ、でも少しだけ待って欲しい。私達の戦いが終わるまで」
「ああ。待ってるよ。絶対に勝ってね」
「負けるなんて選択肢はありませんよ」
絶対に子供達の仇を取る。
それが終わったら玲奈さんと一緒に私達が住んでいた場所に向かい、奴を殺す。
とりあえずはレベル上げを行う。
武器達を収納して、私はグローブの下におもちゃか本物か分からないけど、どこかの家から借りた(返さない)指輪を嵌めておく。
これで『クイックチェンジ』を発動させる予定だ。
心影は左腕の方に着けておく。これでも装備判定になるので、【心影】を扱う事が出来る。
黒薔薇の方はアイテムボックスにしまっておく。
そして私達はホームセンターへと足を運ぶ。
中からは沢山の敵の気配がする。つまり、経験値が豊富にある。
玲奈さんは鍛冶場に残っている。
「スズちゃん。手分けしよう」
「うん。分かった」
そして中に侵入した。
隠れるなんてのはしない。片っ端からモンスターを探してぶっ殺す。
最速で効率よくレベル上げを行うなら、相手からも戦闘意識を持たせた方が良いらしい。
中にある物資もちゃんと調達する予定だ。
スズちゃんは私とは真反対の方向に走って行く。
広い空間だけど、所々漁られている。
地震の影響か、天井から物が落ちた形跡があったり、人の死骸がある。
別に人間の死骸に怯える程の精神力は持ち合わせていないので、踏んでも進む。
「いた」
目の前にいるのは良く見かけるゴブリン⋯⋯ではなく骸骨だった。
骨だけで体が動いているようで、不思議な感覚にある。
だけど、この世界はそれが許された世界なので、気にする事はない。
相手も私の存在に気づいて鞘から錆びた剣を抜いた。でも、そんな時には私は奴に肉薄している。
戦闘意識を持った時に私に殺気が向けられる。
それを瞬時に感じ取り全速力で接近したのだ。
「時間が惜しいんだ。悪いな」
弱点は分からないけど、心影なら問題ないだろう。
一瞬で抜いて首の骨を切断するように薙ぎ払った。
シュパン、そのような音が鳴り響いて骸骨の首は床に転がる。
しかし、魔石に変わらなかった。
「詮索さん!」
《回答。スケルトン。アンデッド系モンスターです。物理で倒すのはとても困難であり、現状水川百合の持つ攻撃方法で倒すには、再生出来ない程にボコボコにするか、弱点である露出している魔石を破壊するかです。魔石を破壊した場合は魔石はドロップしません》
そう。でも、強さをランクで分けるならこいつはゴブリンと同じなので魔石は必要ない。
心影を投げナイフのように投擲して魔石を破壊する。
「戻れ」
そう念じながら呟くと、心影は独りでに浮遊して私の元に戻って来る。
「はは、便利」
便利でありながらなんとなく可愛いと思ってしまう。
とうとう私もスズちゃんの領域に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
だけど、頼もしいのは実際にその通りだ。
「さて、次だ。上位種か亜種が居るとあがたいんだけどね」
気配の数が多くてどれが強いのかがいまいち掴み取れない。
これはまだ私の感知能力が低い事が影響しているのだろう。
再び歩き出す。
今の状態で双月刀を構えてもヴィペールの鱗を貫けるイメージが湧かない。
刀以外にももっと強力な火力が出せる武器が欲しい。
まぁ、そんなのは現状一つしか思い浮かんでいないけど。
玲奈さんの鍛造では限界があるし、私のレベル上げにも限界がある。
確かに時間を気にしなければいくらでもレベル上げ、勝てる確証が出来てから戦えば良い。
だが、相手も生きるモンスターだ。
餌が無くなれば当然場所は移動するし、奴もそれは同じ。
二つのターゲットの為にも成る可く時間は使いたくない。
「と、ホブゴブリンを見つけた」
最高に良い獲物が居た。
前のような素手ではなく、大きな刃物を持っているけど。
何かを見ているように顔を床に向けている。
何を見ているんだろうか?
だけど、そんな隙だらけなら容赦なく私は攻撃する。
ホブゴブリンなら数撃は耐えられるだろうしね。
糸を出して天井の貼り付けて、一瞬でホブゴブリンの真上を陣取る。
それを行って消費されるMPはなんと、たったの2だ。
今のMPは100を超えているので糸の方は問題ない。
「『クイックチェンジ』」
【アイテムボックス】のオプションシステムである『クイックチェンジ』を使って指輪を双月刀に切り替える。
鞘からは既に解き放たれており、刃が剥き出しになっている。
「背中ががら空きだ!」
肉切り包丁のような武器を掲げたのと同時に相手の背中を落下の勢いを乗せて斬り裂いた。
回転もしたので遠心力も乗っている筈だ。
『があぁぁぁぁ!』
「やっぱ武器が強くなると戦闘が楽だな」
痛みに苦しみながらも私を遠ざける為に武器を振るった。
当然、そんな適当に振るわれた攻撃に私が当たる訳ない。
スライドステップですんなり避ける。
「なに?」
そして私の視界にはホブゴブリンの奥にいる数人の高校生が入った。
なぜ高校生か分かるかと言うと、制服を知っているからだ。
この辺では有名な不良校⋯⋯だった筈だ。
まさか高校生集団がこんな所に居るとは夢にも思わなかった。
と、気を取られている場合では無いようだな。
ホブゴブリンが立て直して私に向かって来た。
いくら強くなったとは言えど、今回は殺傷能力の高い武器持ちである。
油断していたら死ぬのは私だ。
ちなみに今の私は気慣れた制服の上にパーカーを羽織っている。
成る可く高いのを着ているのだが、モンスターの攻撃を塞げる防御力があるかと問われたら、答えに詰まる。
元の世界の服がこの世界でどれ程有効なのかは不明だ。
「よいっしょっと!」
ギリギリまで刃を引き付けて皮一枚で避ける。
そして反撃で右手に持つ黒蛇で脇腹を抉る。足のスナップを利用した回転斬りでさらに削る。
断末魔を出しながら振るわれる刃。
「今の私なら!」
白蛇を逆手持ちに切り替えて床に突き刺し、その攻撃を防いだ。
正面から防がれた事に驚いたホブゴブリンには大きな隙が出来る。
「攻撃してくれって言ってるもんじゃん。【幻影刃】」
黒蛇のスキルである【幻影刃】を使って黒い光の斬撃を放った。
それは相手の体を斬り裂いて深手を負わせる。
それでもまだ倒れない。だけど、もう限界は近い筈だ。
相手の目からはまだ敗北を感じない。何かを伺っている。
「カウンター狙いか」
私は敢えて直線的にホブゴブリンに接近する。
私が相手の間合いに入ったのと同時に横振りの大薙で肉切り包丁が振るわれた。
だけど、それは空を切るに収まる。
「残念上だよ」
糸で上に一瞬で上昇したのだ。そもそも手加減して走って跳躍の準備はしていた。
「【幻影刃】【幻影刀】!」
黒蛇に黒い光が纏わり着き、一撃の火力を大きく上げる。
白蛇のスキル【幻影刀】によって生み出された白い光の刀はホブゴブリンの体を貫く。
そして二本の双月刀で最後の攻撃をホブゴブリンに浴びせた。
断末魔が店内中に響き渡り、魔石へとその姿を変えた。
討伐アナウンスとレベルアップアナウンスが脳内に流れる。
「す、すげぇ」
同時に高校生達の感嘆の声も聞こえる。
【あとがき】
ようやくだ。ようやくレベリングに入ったぞ!
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