第34話 双月刀
私が近くに居た上位個体を殺して帰ると、甲高い音が辺りに響いていた。
その音はこの場所を知らせてくれた時よりも何倍も大きく、魂に響く音だった。
「これは⋯⋯期待が嫌でも高まっちゃうな」
当然モンスターもその音に引き寄せられてくる。
だけど、彼女の邪魔をされるのはとても不愉快だ。
だからここは私がやる番だろう。
周囲にいるモンスターを全て殺す。
今の私なら簡単な事だし、そこまでの苦じゃない。
レベルも一上がったので、糸使いのレベルが10になる。
これで進化が可能になるのだが、それにはまだポイントが足りない。
とりあえずは武器の完成を待とう。
中に入ると、既に一本の漆黒色の刀が鞘と共に飾られていた。
私の存在なんかに気づく様子はなく、もう一本の刀を打っていた。
その目には迷いがなかった。
最初に出会った頃の、どこか虚ろとした瞳に感じた目とは百八十度も違う。
「お姉ちゃん、おかえり」
「ただいま。もう体は平気?」
「HPは八割回復したよ。体の方は少しだるい程度かな? それより伝言だよ」
「なに?」
「名前を与えろってさ。作成者ではなく使用者に名前は付けて欲しいらしい」
「そこは作成者が名付けする所だと思うんだけどな」
自分の作品に名前を付けるのは当たり前だ。
しかも自分が造ったと証拠を残す上でも必要だし、その武器に似合う名前は作成者にしか分からないのだ。
だと言うのにそれを私に託すのは何かの狙いか? それとも信頼の証か。
とりあえず、なるべくこの子に似合う名前を考えないとな。スズちゃんには頼らない。
私の武器までユリシリーズにされてはたまったモノじゃない。
そしてスズちゃんを頼って出て来た名前を私は断れない。
頼ったからとかそんな理由では無い。スズちゃんの決めた事にあまり抵抗感がないのだ。
なので私の意思で真剣に考える。
呑み込まれそうな程に漆黒の刀身。
見ているだけでも見惚れてしまう。
「シャー!」
「アオさん?」
アオさんの何声と共に柄の方にも目をやる。
蛇の体のような模様⋯⋯刀として完成度の高いそれは私の家にある、私の造った刀とは次元が違う。
アオさん。そして今は夜。この場所は満月が照らしている。
そういえば今日は満月か。こんな世界になっても月は綺麗だな。
月、蛇。そして今造っている刀と今の刀は同じ日で月の下で造られる。
この二本は私の愛用武器と必ずなる。
「そうだな。君は『双月刀【黒蛇】』だ」
二本で扱うから双刀、そしてその片割れ。
ここは月の下で完成した刀だから月の名前も入れた。
尚且つ、柄や刀身に刻まれた蛇の模様、これは多分アオさんをイメージされている。
アオさんが印象に残ったのか、それともそうする方が良いと思ったのか、真相は分からない。
でも、どこか『蛇』の単語を連想させるのでどうしてもこれは入れたかった。
さらに深淵の刀身。
そう考えて完成したのが『双月刀【黒蛇】』である。
刹那、私の新たな片腕が怪しげな黒色の光を放った。
《妖刀契約が完了致しました。
光が収まると、黒蛇の刀身に名前が刻まれていた。
そしてその名前を絡み縛るように蛇の模様も浮かんでいる。
これが妖刀⋯⋯なにか分からないけどオーラを感じる。
刀に意思が宿っている⋯⋯確かにその通りかもしれない。
《解説。妖刀は使用者が対象のステータスを閲覧する事が可能となっております。そして妖刀の意思は主をしっかりと判別、判断します。補足として製作者には絶対的な忠誠心があります》
お、おう。
詮索さんが私が求めてない事を解説してくれた。
しかも多分、この世界のベースとなった世界の詳細をこと細かく言わずにだ。
これは詮索さんも成長したと言っても過言では無い。
きっと詮索さんは否定するだろうけど、私から見たら大きな成長だ。
「それじゃ、黒蛇のステータスを見ようかな?」
「待ちなよ。その前にこの子も残ってるよ!」
「玲奈さん」
そして突き出して来たのは黒蛇とは対象的に、心を浄化させるこのような純白の刀だった。
蛇などの模様は似ている。
「名前、どうする?」
分かっている様にはっきりと、確信めいた笑みを浮かべている。
彼女のこの顔はなんとなく昔の自分に似ている。
技術を覚えて、それをひけらかして、ドヤ顔していた時の自分と。
その中身は違えど似たように感じたのは確かだ。
「当然、『双月刀【
同じようなアナウンスが世界の声から聞こえてくる。
刀を作ると同時に専用の鞘も出現するらしく、虚空から純白の鞘が出現した。
「どはぁ! 疲れた〜」
「おつかれ。何も手伝ってあげれなくてごめんね」
「いやいや。守ってくれたでしょ? 具体的には言えないけど、守られた気がする。さすがに疲れたから短刀は明日で良い?」
「ああ」
「ありがと。君が使っていたナイフを預かって見てても良い?」
「もちろんだよ」
コンバットナイフを玲奈さんに渡して、私は双月刀を確認する。
スズちゃんは私の横に座る。
「さて。気になるステータスとやらは?」
双月刀【黒蛇】
レベル:1
スキル:【
解説:我妻流の刀鍛冶技術を引き継いだ後継者が鍛えた宝刀。名前を得た事により意思を確立した妖刀となった。
その名に相応しい働きをするだろう。
詮索さん!
《詳細解説。妖刀レベルとスキルレベルは比例します。レベルが上がると性能や能力が向上します。【幻影刃】は幻影の刃をMP5消費して一本生み出します。レベル分だけ同時に召喚出来ます。その性能は使用者の筋力と敏捷パラメーターに依存します》
《【双月】は『双月』の名前を持ち同じスキルを持った武器と共に使う事により性能が上昇し、使用者をサポートします》
《【黒蛇】は『黒蛇』に宿った黒蛇を解放して操る事の出来るスキルです。性能は使用者と妖刀レベルに依存されます。使用者のステータスを越える事はありません》
《【フュージョンニズム】一定量の攻撃をモンスターに浴びせる事により条件達成となり発動可能のスキル。一定時間『白蛇』と合体します》
何そのロマン!
双月刀【白蛇】
レベル:1
スキル:【
似たり寄ったり。
《解説。【幻影刀】はMP5を消費して幻影の刀を生成します。レベル分だけ同時に生成出来ます。性能は筋力と敏捷パラメーターに依存します》
その性能を玲奈に伝える。
すると嬉しそうに笑った。
「良い武器だ。きちんと使って欲しい」
「もちろんだよ。その為に頼んだんだから」
「それとこれもありがとう。この子には名前はあるのか? かなり使い古されているし大切にされているナイフのようだけど⋯⋯一体どこで手に入れたんだ?」
「名前はないよ。私が鍛冶の師匠と一緒に造ったナイフで、ずっと持ち歩いているんだよ。学校に居る時にこんな世界になってね」
「へー。へ?」
さて、私は玲奈さんにナイフを返してもらい、断りを入れて試し斬りへと出かけた。
月の下で造られたんだから、初めて使われる時も月の下が良いよね!
二本の刀を持ってモンスターを探す。まだ先になるだろうが、奴は必ず殺す。
首を洗って待っとけ、ヴィペール!
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