第33話 side:鍛冶師
「これを見てくれ」
アタイは大きくなったら見せてくれると約束していた物を取り出した。
本来は金庫に厳重に保管されていたのだが、パスワードは知っていたので開けれた。
それは古い書物だ。
「これは?」
「これは我妻家に伝わる伝統的な刀鍛造の技術だ。我らの祖先は戦国時代で名の通った刀鍛冶だったらしい。その時に独占していた技術がこれには詰め込まれている」
「え、ちょ。そんなの見ても良いの?」
それがどれ程の価値があるのか百合は理解してくれたらしい。
嬉しい限りだ。
「もちろんだ」
正直、今のアタイだけでは難しいと思っている。
今は完全に自分の目指すべき場所が分かった。でも、今までのスランプが存在する。
全力を持って武器を造るのは多分、今回が初めてとなる。
百合達の為にも最善を尽くしたい。
「何よりアタイはこの中を全く知らない。今から解読して理解し、そして行う。大丈夫か?」
「当たり前です。最高の武器を頼みますよ」
「期待に応えて見せよう」
アタイが教わったのは基礎技術や達人級の技術だ。
我妻の技術は教わってない。
代々引き継いだようだが、それを使っている所を見た事がなかった。
お父さんはこう思った筈だ。
『平和な時代に戦の技術は要らない』
でも、今はそんな平和な時代⋯⋯世界では無い。
モンスターが人を脅かし殺す世界。そして人もモンスターを殺す世界だ。
それは全く違う形の戦争と何ら変わりは無い。
ならば今こそ、我妻家としての真骨頂を発揮するところだろう。
アタイがモンスターを狩る為に使っていたのは家宝の刀。
祖先が最期に造りあげた人生を通した最高傑作とまで残される程の逸品。
これを見てさらに技術の理解を深める。
《理解度──20%》
《一定の熟練度に達しました。スキル【観察眼】のレベルが9から10に上がりました》
《スキル【観察眼】が【鑑定眼】に進化しました》
《【鑑定眼】の効果により、目に入るアイテム情報を任意で瞬時に読み解く事が可能になりました》
それから一時間、二時間、時間はどんどん進んで行く。
《一定の熟練度に達しました。スキル【集中】のレベルが7から8に上がりました》
一冊、また一冊と完全理解した本が積み重なっていく。
百合も同様に理解を深めてはいるが、達人レベルの技術を知らないので途中から理解出来ずに集中力を切らしていた。
それでも一緒にああでもないこうでもない、そのような会話と共に手伝ってくれる。
私の集中力は途切れる事はなく、理解を深める。
寧ろ時間が進む事に集中力は増していく。
刀の形状、そして独特な打ち方。
《スキル【集中】がスキル【超集中】に進化しました》
《【超集中】の派生により【心眼】を獲得しました》
そして全てが終わった時には10時間もの時間を費やしていた。
《理解度が100%に成りました》
《貴女は完全に我妻の技術を習得しました》
《職業、鍛冶師が名工鍛冶師に進化しました》
《貴女は武器の作成を何たるかを理解しました。報酬として、職業、
名前:我妻玲奈
レベル:6
職P:2
能P:0
HP15/15
MP66/66
筋力:53
敏捷:13
防御:15
知力:34
器用:85
職業:名工鍛冶師Lv1
第二:魂匠Lv1
技術スキル:【我妻の極意】【名工鍛冶術Lv1】【魂込Lv1】【悟りLv6】【超集中Lv3】【心眼Lv2】【鑑定眼Lv3】【鍛冶の心得LvMAX】【鍛冶の極意Lv2】【鉱物変換Lv30】【名工鍛冶具変換Lv1】【宝刀化】【妖刀化】
耐性スキル:【恐怖耐性Lv2】【熱耐性Lv5】【高音耐性Lv2】
魔法スキル:【火魔術Lv2】
強化スキル:【筋力強化Lv3】【器用強化Lv2】
ステータスが色々と変わっている。
特に目を見張るのは【鉱物変換】だ。レベル2から一気に上がっている。
上位スキルに上がるのではなく、レベル分に強力な鉱物と魔石を交換出来るらしい。
そして技術スキルも確実に上がっているし、【鍛冶の極意】のスキルが増えていた。
百合に聞いてスキルで確認してもらった。
【宝刀化】は全身全霊で刀を造った際に発動されて、宝刀レベルの武器が出来るらしい。
【妖刀化】は造った武器に名前を与える事によって、自我が芽生えて妖刀になるらしい。
『刀』に関してはかなりの強化補正が入るようだ。
「魔石を集めて来て欲しい。今出せる最高の鉱石で、百合の刀を打つ!」
「それは頼もしいね」
「自我が芽生えるなら百合にも最大限協力して貰うよ」
「もちろん」
そして魔石を求めて外に出ようとした時だった、少しだけ血を流した鈴菜がやって来た。
その手にはアタイが見た事のなかった大きさの魔石が握られている。
掌サイズだ。
「武器のないホブゴブリンを見つけたからさ、アオさんと一緒に狩って来たよ。ホームセンターには近寄ってない。⋯⋯へへ、楽勝よ」
「スズちゃん!」
揺れて倒れる鈴菜を百合が抱き抱える。
余裕と言いながらもその顔には余裕が全くない。
こんな危険な状態では護衛も出来ないだろうし、その場合で全力で打つとなると⋯⋯。
「気にしないで始めるよ。スズちゃんが持って来てくれたんだ。遅らせる事も妥協も出来ない」
「分かった。今からやろう」
この魔石を使って、この世には存在しない鉱石に変換した。
小魔石一つでも良い物と交換出来た。
これを使って二本の刀と二本の短刀を造り出す。
当然鉱石の量が足りなくなるが⋯⋯同程度の魔石を落とすモンスターが近くにいるらしく、百合が向かった。
鈴菜は休んでいる。
アタイに休んでいる暇はない。
鈴菜とアオイが全身全霊で満身創痍に成りながら笑みを浮かべて持って来てくれた魔石を使った鉱石だ。
その気持ちをアタイは受け取った。
それも詰め込んで、今最高の刀を打つ!
我妻家の後継者じゃなくて、一人の鍛冶師として。
想いを繋ぎ合わせる為に、アタイに休んでいる時間なんては無いんだ。
もっと自分自身が自分を鍛冶師として認められるように、打つ!
今までと感じる音が違う。
打つ感覚が全く違う。
スキルの影響もあるだろうが、何よりもアタイの変化が大きい気がした。
打つ度に思い描かれる両親の姿。憧れの二人に肩を並べる為に必死になっていた自分が蘇ったようだ。
そして百合達の姿も浮かぶ。
出会って間もないけど、彼女達は全てにおいて全力で挑む姿勢がある。
それはアタイを侵食して、今、こうしてアタイは刀を打っている。
初めての感覚だ。ここまで研ぎ澄まされて、周りの事が一切気にならなくなったのは初めてだ。
深い深い深淵の奥でただ一人刀を打っているような感覚。
誰もおらず空気すら流れない。そんな虚無な空間。
だけど響く。
金属を叩く音が。新たな魂が芽生えようとしている瞬間が。
これ程の高揚感を、アタイは今まで完全に忘れていた。
トラウマが原因だなんて言い訳も出来ない程に今はこれに魅力されている。
アタイの新たな道標の為に打ち込む。
アタイにちゃんとした道を示してくれた百合の為に打ち込む。
そして何よりも、コイツの為にも打ち込むんだ!
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