第31話 我妻玲奈
魔法陣が展開され、そこから半透明の妖精が姿を表す。
これが無属性精霊⋯⋯なのか。
「名前を付けて、か。ユリノア」
「スズちゃん。気になっていたけど、スズちゃんの相棒のハンドガンの名前って?」
「ユリナ」
え、何そのユリシリーズは。
マイホームの名前もユリザリアにしているし。
なんでそんなに『ユリ』を付けたがるんだ?
私の名前だから⋯⋯って訳じゃないと思いたい。嫌な訳じゃないけど。
「ふむ。使えるのはアイテム火力強化と筋力パラメータの強化っぽいね。ユリノアが育てばもっと強くなれるかな?」
精霊は共に歩、絆を深めるとステータス面以外の性能が上がるらしい。
いまいち分からない。連携力とかそんな感じなのかな?
「シャー!」
「きゅう?」
「シャーシャー」
「きゅう!」
お、おう。
なんか二人で会話を始めた。
アオさんの言葉はなんとなく分かる。「こんにちは」「皆愛してる家族」な気がする。
とりあえずホームセンターの経験値を全て獲得するとしよう。
⋯⋯だが、一歩を踏み出した瞬間に金属音が響く。
「ッ!」
「お姉ちゃん!」
戦闘音とはまた違う金属音。
それは重く強く、叩く様な音。
鉄を叩きその形を変える為に振るい、起こる音。
「近くに鍛冶場がある!」
それは私達の戦力を大きく上げるきっかけになる。
だからホームセンターよりも先にその音を目指して進む。
ある程度の方角は感覚で分かる。
進む度に等間隔で鳴り響く金属音が大きくなる。
心臓が鼓動する。
私だって素人ながらに鍛冶はやった事がある。
私の使っているナイフも自作だ。
武器を造る工程、これは私の好きな事の一つだ。
自分の命を授けて共に戦う相棒は何者にも変え難い感情が湧き出る。
「⋯⋯」
そして私達は到達した。
モンスターが近寄って来るにも関わらず、金属を打って何かを造ろうとしている。
集中力が凄いのか⋯⋯でも、なんか違和感があるな。
取り敢えず会話してみないと分からないな。
「モンスターが邪魔かな」
彼女のやる事が終わるまで待つ事にする。
作業中邪魔さられるのは私もスズちゃんも嫌いなので、絶対にやらない。
邪魔になるモンスターを殺しておく。
そしてハンマーを動かす手を止めて私達の存在に気がつく。
「あれ? 君達いつの間に?」
「⋯⋯こんな状況でも鍛冶をするんですね」
「あはは。やっぱ気になる? ん〜まぁ家族との繋がりがコレしかないからね。それに武器があれば自分も生き残れるしさ」
彼女が打ったのは刀だった。
洋紅色の瞳に唐紅色の髪をポニーテールに結んでいる。
見事な腕前⋯⋯当然それは私よりも上の実力だ。
これは何らかのスキルも関与していると思って間違いでは無いだろう。
「私は水川百合、頼みがあります」
「水川?」
「はい」
「水川奏多って知ってる? 殺人鬼の」
ああ。最悪だ。
これ程までの腕前なら申し分ないのに⋯⋯この目はダメだ。
怨念の篭ったドス黒い目。
この目はよく知っている。嫌って程に知っている。
私達の近くにいる人達が大抵、私達に向ける自分達とは違う存在を見るかのような目。
ああ。そうか。
アイツは私達の住まう街で捕らえられているからこの付近には居ない。
だけど、自由に動ける時だったらこの辺でも暴れていた可能性はある。
「ええ。私の、クソ親父です」
「そっか。⋯⋯死ね!」
相手は私の呟きに応えるように近くに置いてあった刀を抜いて攻撃を仕掛けて来た。
グローブの裏拳でそれを防ぐが、この攻撃は本気だと分かる。
感じる重みや相手の目から感じる感情、その全てから憎しみを私にぶつけて来ている。
スズちゃんもアオさんも何もしない。
今回用事があるのは私だ。
ここを諦めてしまったら当分ないかもしれない。しかもこの人のような技術者とはどうしても繋がりを持ちたい。
無理そうな気がするけど、諦めたくない。後悔しないために。
「君の家族は、殺されたのか」
「ああそうだ! そうだよ! 私が中二の時に目の前で無惨に殺された! 分かるか、何も出来ない無力感と目の前で家族が死んでいく絶望感が、あの娘に!」
一度弾いて距離を稼ぐが、相手はがむしゃらに攻めて来る。
そこには技術は無く、あるのは「こいつは殺さないといけない」と言う殺意だ。
ただ攻撃を防ぐ。避けもしない。ただ防ぐ。
彼女の感情を受け止めるように、必死に攻撃を防ぐ。
ステータスや元の技術の差によって私には攻撃が当たらない。
そんなのは関係ないと言うように攻撃を繰り返す。
怒りが時間を増す事に増しているようだった。
⋯⋯彼女の思いは分かる。
目の前で大切な存在が死んで行くと何も出来ない苦しさと悲しさが込み上げて来るんだ。
「そんなの知ってるよ」
「あぁん?」
「私も知ってるよ! 目の前で大切な人がソイツに殺された。何も出来ないで歯を食いしばって、ただ眺める事しか出来なかった、貴女の感じた感情は全部、私達は五歳の時には感じてるさ!」
「なっ!」
相手の攻撃が止まる。
⋯⋯教えてあげないといけない。
私を殺しても意味が無いと。そして私達の目標などを。
きっとそしたら、彼女の怒りの矛先は変わる筈だ。
「私は母親を五歳の頃、目の前で殺された。父親にだ! その時は何が起こったか全く分からなかった。ただ、逃げないと死ぬって事は分かった」
「⋯⋯」
そして私達は必死に逃げたのだ。森の中を彷徨って野生動物の死骸を食い漁る日々を送ったのだ。
何回も腹痛などに襲われたし、何回も母の死が夢に現れる。
極道さん達に育てられて尚、トラウマは蘇る。
何回も聞こえるのだ。耳元に聞こえてしまうのだ。耳を塞いでも聞こえるのだ。
母親の苦しむ嘆きの声が。私達を守れなかったと不甲斐なさを込めた声が。
思い出すのだ。沸騰した水の熱さを。アルコールの気持ち悪さを。漏電した電気が全身に回る痛みを。野生動物の生肉の味を。
その全ての人生を、アイツを思い出す度に感じるのだ。その度に苦しむ。
私達の事は皆にすぐにバレる。アイツとの繋がりを強く感じさせるこの髪の毛のせいで。
染めたってすぐにボロは出る。何よりもそんな事をする時間があるなら一秒でも多く強くなろうとしていた。
その時に向けられのは『殺人鬼の娘』そして近寄って欲しくないと願う目。
それらを既に私達は経験している。
「攻撃しないで見て欲しい。私の言葉を証明するだけの証拠になると嬉しい」
そして私は制服を脱いだ。
「何を⋯⋯」
戸惑う相手を無視して、私は制服を脱いだ。
スズちゃんは辛そうに歯を食いしばり、目を背けた。
アオさんはゆっくりと地面に降りる。
「⋯⋯っ!」
そして私は背中を見せた。
刻印が押されて、未だに残る爛れた跡。森の動物に襲われて出来た生々しい傷。
整形手術で露出してしまう部分は治せたけど、流石に酷い背中は無理だった。
永劫の傷。
殆どは父親によって付けられたモノだ。
「アイツは私達を自分の武器にしようとしていた。⋯⋯これが証拠だ。奴は色んな人を殺した。何十人と殺しただろうし、今はもっと増えている可能性がある。⋯⋯アイツは悪魔だ。私達はアイツが死刑になるならと、少しだけ安堵していた。⋯⋯だけど、まだアイツは生きている。そしてこんな世界だ。絶対に生き延びている」
「⋯⋯」
「私達はあの悪魔を殺す為に行動している。もしも奴を憎むなら、私にその想いを預けて欲しい! 必ず、奴をこの手で葬る! その為に協力して欲しい。嫌だと言うのなら、せめて鍛冶場だけでも貸して欲しい」
私は制服を着ながら相手の答えを待った。
何分、何十分とした後に、彼女は言葉を出す。
そこには憎しみがなく、刀を納刀しながら爽やかな声で呟く。
「女性として見せたくないモノを見せてくれた。君の言葉には重みがある。信じるよ。後、他人に自分の領域は荒らされたくないんだけど?」
「なら手伝ってくれないかな? とある事情があって武器が欲しいんだ」
「分かったよ。中に入りな。話はそれからだ」
「感謝します」
未だに苦しそうなスズちゃんを抱き締めて落ち着かせて、私達は彼女の後ろを歩いた。
彼女が打ったであろう武器が壁に飾られている。
うん。やはり腕は良い。見た目はどれも完璧だ。
「スカスカ」
だけど、近くで見て分かった。中身がない。
想いが篭ってない訳では無い。ただ、どこか迷いが込められていた。
あの私を攻撃した武器は彼女の家族が造り出した武器だろう。
「百合さんは武器に精通しているのかな?」
「ちょっとかじった程度だよ。あと百合で良いよ」
水川は嫌だろうしね。
「アタシは鈴菜。こっちは精霊のユリノア」
「あと、この子はアオイ」
「自己紹介あんがとよ。アタイは
【あとがき】
補足ですが、奴が警察に捕まった時には本当にかなりの数を殺めています。
死体処理をして証拠を隠滅する方法をいくつか用意出来ていたからです
被害者が集まり協力し、なんとか追い詰めて警察が逮捕したと言う形です。
その時に数名の警察官は殉職、数名は辞める事態になり、発砲の許可も降りたようです。
それでもすぐに死刑にはならなかった⋯⋯捕まってから二年は経ってます。
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