第30話 スズちゃんの第二職業

 自動ドア(壊されている)からユニ○ロへと侵入した。

 中には数体のモンスターが居るがどれもが最下層だ。

 そして荒らされてはいるがまだ使えそうな服達がズラリと並んでいた。

 それを順番に回収していく。


 当然いきなり服が消えればモンスター達は驚いて私達の存在に気づいた。

 眠っていたのか、少しだけ動きが鈍かった。今は深夜だ。

 そんな鈍い動きで私達の相手なんて出来る筈がない。


 「念じるだけでいいんだけ?」


 属性付与をした糸を伸ばす。

 相手の首に巻き付けて力を込めて引っ張ると、骨までは無理だったが首の肉は切り裂く事が出来た。

 そしてスズちゃんがトドメの弾丸を放つ。


 「次はこっち」


 次に糸を丸めた状態で放つ。

 床を少し凹ませる程度の火力しかないので、まだ実戦では使えなさそうだ。

 次に太い紐のように糸を出してモンスターに叩きつける。

 これも大した火力がなく、金属バット以下だ。


 とりあえずそれらが分かったので後はアオさんを武器のようにして倒す。

 私達はレベルを上げないといけない。そうでなければ奴に勝てない。


 「ヴィペール」


 奴の名前を怨念を込めて呟いた。

 ある種の無意識に近い状態で呟いた。

 当然子供達を奪った事への憎しみもあるが、もう一つの憎しみがある。

 それは己への憎しみ。


 モンスターが極端に居なかったと言うのに楽観的に考えてしまった。

 気配がないからと油断してしまった。

 私の感知スキルは普通の人と比べたら当然高いだろう。

 だけど、それはあくまで人間並みの話であり、モンスターは関係ない。


 上位モンスター、ネームドモンスター。

 この世界には人間の力だけでは到底敵わない敵が存在する。

 だけど、レベルやスキルを上げる事によって対抗出来るようになる。

 だから強くならないといけない。


 スキルを強くして、レベルを上げて、そして仇を取る。


 《一定の熟練度に達しました。スキル【空腹耐性】を獲得しました》


 ピッタリ零時、そのタイミングに合わせて待っていたスキルが手に入った。

 なんで推奨したかは不明だが、それを今は聞く必要がないと思っている。

 今必要なのは強くなる事だ。

 空腹感が少しだけ紛れたのは良かった。


 私達はひたすらにモンスターを探しては狩ってを繰り返した。

 だけど、いくら雑魚を殺そうともなかなかレベルは上がらない。

 やはり大物を狙う必要がある。

 そこでやって来たのはホームセンターだ。


 なかなかに大きい。

 ここなら他の武器も手に入る可能性は十分にあるし、物資調達には丁度良い。

 だけど、一番は上位個体が居る事だ。


 「詮索さん。一応聞くけど宝箱とかあったりする?」


 《回答。34メートル後方の裏路地にあります》


 「そっか。じゃあそっち先に行こうかな」


 上位個体は簡単には倒せない筈だ。

 奪われる事はないだろう。


 そして宝箱の前までやって来た。

 ミミッキュと言うモンスターの可能性もあるらしいけど、そんなの関係ない。

 なにか良いアイテムが手に入る可能性があるのに開けない手はないだろ。

 スズちゃんが銃を構えながら警戒をする。


 「オープンっと」


 中を開けて確認すると、球体が出て来た。

 青色の球体である。


 「これは?」


 《回答。青色のオーブはジョブオーブ。最後に触れた者に壊れた際、職業を与えます。その内容は壊さないと分かりせん》


 「そっか」


 私はスズちゃんにジョブオーブを差し出す。


 「私はもう二つあるし必要ないと思う。それにレベルが上がりやすいしね。⋯⋯だからスズちゃんに委ねるよ。でも、忘れちゃいけない。この世界は戦闘職以外にもネタ職業がある。もしもそれを引いたら弱体化する可能性だってある」


 スズちゃんは迷いを見せる素振りもなくオーブを受け取る。

 それを見ながらボソリと呟いた。


 「失敗や不安を覚えて考える暇があるなら、強くなる。弱体化するならそれはそれだ。⋯⋯違う、お姉ちゃん?」


 優しく安心させるかのような微笑みを見せる。


 「そうだな」


 だから私も笑って応える。

 これでプラスに成らずマイナスになったとしても、その時はその時で考えれば良い。


 「行くよ」


 「ああ」


 スズちゃんはジョブオーブを握る力を徐々に強めて行く。

 ピキっ音が鳴ったと同時にオーブに亀裂が入る。

 それは時間を増す事に広がって行き、最後には爽快な音を立てて砕け散った。

 破片は青い光と成ってスズちゃんの中に吸い込まれるように入って行く。


 「はは。まじかよ」


 「ど、どうだった?」


 「当たりだよ、大当たり。精霊召喚士」


 詮索さん!


 《回答。大当たり⋯⋯ガチャで言うならSSR》


 それはガチャによると思うけど、高いのは分かったぞ。


 《精霊魔法士と召喚魔法士を上級者レベルまで上げる事により可能となる役職。精霊を召喚してその力を扱える》


 それって精霊魔法士じゃない?


 《精霊魔法士は魔法とは違い、精霊を媒介として魔法を使います。その属性は魔法とは少しだけ異なりがあり、精霊を使役できるモノではありません。あくまで精霊の力を借りて魔法を使うだけです》


 《召喚魔法士は召喚獣と契約を結んでその力を貸してもらいます。召喚魔法士は召喚獣依存になりがちですが、その絆や指揮能力によって強さを発揮します》


 《精霊召喚士は精霊と契約して召喚し、召喚獣のように力を貸してくれます。さらに自らも精霊を介して魔法の行使が可能であり、自身も魔法で戦える召喚士と言う位置付けになります。ただし、召喚契約が出来るのが精霊に限ります》


 私は頑張って詮索さんの言葉を伝えた。


 「属性を選んでくださいってあるんだけどさ、一番気になってるこの無ってのは? 後は闇と光を教えて欲しい」


 《回答。無属性精霊は主に強化術を扱います。ステータス上昇やアイテムの性能強化を行ってくれる精霊です。

 闇は重力などを得意分野とする精霊、光は回復などを得意分野とする精霊です》


 なるほど。

 だったらスズちゃんの戦い方的に闇精霊が良さそうだよね。

 精霊が重力操作でモンスターの動きを鈍らせ、スズちゃんは自身の重力を操ってよりトリッキーな高いが出来る。

 だから私は闇を選ぶと思っていた。


 「強化系って光とは別なんだ⋯⋯無かな」


 呟きと共に選んだのはまさかの『無属性精霊』だった。


 「え、なんで!」


 「ああ、闇を選ぶと思った? ん〜そうだね。やっぱり今の状態を普通に強化する、このシンプルが結局一番使いやすくて戦いやすいと思ってさ。それにお姉ちゃんは再生能力あるし」


 「でもスズちゃんは⋯⋯」


 「アタシが望んでいるのは安心して戦える力じゃなくて、相手を確実に葬れる力だよ。強化ならアタシとお姉ちゃんも強くなれる。何よりも強化内容によってはお姉ちゃんがさらに化ける」


 「私はスズちゃんが決める事だから止めはしないけど、後悔はしないでね」


 「全くするつもりはないよ。後悔しない為に、この選択を選ぶんだ」


 にこやかだった表情が一変して決意の秘めた顔へと変わる。

 そして私には見えないステータスプレートを操作するように指を動かした。


 「さて、どんな事が来るかな」




【あとがき】

ついに30話になりました!!

以上です!

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