第26話 side:自宅警備管【独白】

 俺はフリーのホワイトハッカーとして活動していた。

 資産を蓄え、今では両親共に働く必要のない程には金を持っていた。

 しかし、毎日ずっと家に居る事によって両親は俺をヒキニート扱い。

 いくら説明しても理解してくれる事がなく、その証拠を出しても借金したと言われる始末。

 両親は俺の説得を諦め、俺は両親の説得を諦めた。


 部屋の中に虫が侵入していたので殺した。

 地震が大きかったせいか、ネットが使えなかっていた。その怒りも込めて虫を殺してしまった。

 両親は仕事だろう。今、この家には俺一人だった。


 《経験値を獲得しました》


 《ステータスを獲得しました》


 《カオス・ヴェルトにて初めて自宅を守りました。その功績に【自宅の守護者】を与えます》


 脳内に流れたアナウンス。次に訪れるのは『ステータス』と言う単語を言えと言う命令。

 脳内に響き渡る命令に俺は従った。

 そして俺は一つしか存在しなかった職業を選び、この家を要塞化していく事になる。


 あの日からちょうど一日が経過した。

 両親が家に帰って来ないので生きているかは不明だ。

 そして俺は敷地内から出られなくなった。出られるのだが、出たらスキルが全て使用不可能になりステータスが激減する。

 よって出られない。


 「まさかこんな世界になるとはな」


 ネットは使えない。

 だけど俺の『自宅』は水も電気も使える。

 今はフェンスの近くに設置してあるオートタレットのメンテナンスを行っていた。

 オートタレットなどの『自宅』を守る設備は極小魔石で作る事が可能だ。


 それらが終わったら家に戻る。

 『自宅内部』に居ると使える全てのスキルが普通に扱えるようになる。

 しかも性能が今は三レベル分上がるのだ。

 スキル【自宅の守護者】と言うスキルはそのレベル分、他のスキルの性能をレベル分上げると言うチート性能がある。制約として『自宅内部』がある。

 それでも一つのスキルを集中して上げるだけで他のスキルも上がるので破格の性能だ。


 俺の職業は『自宅警備管』である。これしかなかった。

 ホワイトハッカーとして活動していたので、もう少しかっこいい職業が良かった⋯⋯なんて当たり前の事を思っている。

 しかし、この職業は『自宅管理』や『自宅警備』に関しては確かに優れていた。


 「【通販】」


 目の前に半透明のウィンドウ画面が出現する。

 そこには武器やら食料やらの写真が映し出されている。

 このスキルは魔石をポイントに変えて、ポイントを使って商品と交換出来ると言うスキルだ。

 極小魔石一つで1万ポイント、1万円の価値がある。

 自宅内部から周囲のモンスターを倒すと、ドロップアイテムは自動転送されて郵便受けに入る。


 自宅内部はスキルによって強化されている。

 外壁もそうだが、中身も強化されている。まずは空間の広さだ。

 外見とは比べ物にならない程に広くなっている。俺のレベルアップに伴って広がるらしい。

 今は食料にも余裕があり、武器も潤沢に揃っている。

 『自宅警備』されている自宅にはモンスターが近寄って来るのだ。

 スキル【憩いの場所】が悪い。これはこの家が所持しているスキルだ。


 「今日はオムライスしようかな?」


 まぁなんやかんやで楽しく生き延びている。

 俺はこの家に入れば安全だ。

 俺が強くなれば家が強くなる、家が強くなれば俺が強くなる。

 家を守る事が俺の仕事だ。


 オムライスを食べる、そんな時だった。

 【自宅管理】のスキルの一つである『周囲調査』が反応してアラームを鳴らして通知を開く。

 そこには門の方をホログラム映像として映し出していた。

 ホームレスの男が助けを求めていた。


 「入れてやれ」


 相手に敵意があれば『敵意アラーム』が鳴る。しかし、その男からはなかった。

 なので招き入れる。


 「な、なんじゃこりゃあ」


 「おじさん。飯、食うか?」


 「い、良いのか?」


 「ああ。その代わり俺の話を聞け」


 そしてこの広い家に住んでも良い事を話した。

 ここでは食事、衛生面などが保証されている。部屋も普通に余っている。

 相手には嬉しい条件だろう。なんせ外にはモンスターが溢れているのだから。

 しかもここには周囲を守るオートタレットもあるのだからな。


 「ただし、貴方にはここでの兵士として戦って貰う」


 「え?」


 「武器も与える。この場所を守って貰う兵士となる。簡単な話だ。俺は貴方に安息の地と今後の生活を保証する。その代わり戦力して働いてもらう。一方的に与えられる世の中じゃないって、知ってるだろ?」


 「あ、ああ。分かった」


 ホームレスは話が早くてありがたい。


 「裏切ろうとしたらすぐに分かるからな。そしてここは俺の自宅警備範囲テリトリーだ。余計な事はしないのが身のためだぞ」


 ま、脅してアレだが俺にそんなに勇気はないけどね。


 「ありがとうありがとう」


 「泣く事か?」


 「仲間も皆死んじまって、もう必死で、おめぇさんは優しいなぁ」


 「そうかね」


 銃なら扱えるだろ。

 ステータスを獲得したら俺のシステム的部下になって貰う。

 『警備員』だ。あくまでシステム的な話だけどね。

 これはただ敷地内にいるとステータスなどに補正が入るだけだ。あとは俺が管理しやすくなる。

 デメリットはない。


 外に出てモンスターを倒して、魔石回収の効率を上げてもらう予定だ。

 最初はこの家からモンスターを遠距離で倒してレベルを上げてもらう。


 『よろしいのですかマスター?』


 「ああ」


 この家は自らの人格を持っている。それはAIに近く、俺が自身のパソコンを使ってシステムを組み込めば知性も上がる。

 そのせいで今は人のように喋れるし、自らも成長してスキルの解析を行っていたりする。

 俺は敷地外に出られない事に不満はあるのだが、生きるためなら仕方ないと割り切っている。


 それからむさ苦しいイチャイチャカップルを部下にしたり、裏切りそうなキャバ情を追い返したり、子供連れの家族を部下に入れたり。

 助けた人が仲間を連れて来たりして、部下が増えた。

 部下が増えると自宅も強くなる事が分かった。


 と言うか『警備員』が増える事がそのまま俺の戦力に繋がっている。

 そしてヒョロがりの女子高生も部下に加わった。

 二日目の昼までにかなりの人数がこの家に入っている。

 様々なグループに分けて活動させて魔石回収とレベリングを行っている。


 「ここにいれば安心だな」


 「そうね。もう外に出たくないわ」


 そんなカップルの会話が聞こえて来た。

 我が物顔で机を使っている。俺の家なのに。

 なのでハンドガンを抜いてそいつらの背後を撃ち抜いた。家はすぐに修繕される。


 「え?」


 「調子に乗るな。他の奴らもだ。俺はお前らに無償の善意を与えた覚えない。俺はお前達を利用しているからここに居させているだけだ。当然、必要となれば追い出すし囮にも使う。邪魔だと思ったら経験値にすら変えてやる。その事を覚えておけ。そしてここは俺の自宅警備範囲テリトリーだ。余計な真似をしたら命は無いと思え」


 そう言って俺は自分の部屋に戻った。

 俺に反抗する奴はいない。なぜなら、この家の中にもオートタレットは存在するから。

 そんな俺の部屋におにぎりを持って来たのは二日目の13時くらいに部下になったヒョロがり女子高生だった。

 しかし、この自宅内に居て風呂にも入っているので回復能力が上がって、一度寝たら元の体に戻っている様子だった。


 女子高生にしては発育の良い女子だと記憶している。


 「なんだ?」


 「いえ。貴方って面白い人だなって」


 「ああ?」


 「だって、気が緩んでいたから気を引き締め直したんですよね? 全く当てる気がない、或いは人に銃口を向けるのが怖いのか、明後日の方向過ぎて違和感ありましたよ」


 そうやって笑顔で言ってきた。顔立ちが良いのでとても似合っている。

 ここに来た当初は痩せ細って、可愛さの欠けらも無い人だったのに。自宅すげぇ。


 「で?」


 「貴方は良い人です。それは私が一番分かってますよ。私達をここにいさせてくれているんですから」


 「それは戦力になるからだ」


 「ふふ。それでも構いません。私のレベルは今は3です。今日だけでここまで上がりましたよ」


 「そうか」


 「それも貴方のスキルで買ってくれた刀のおかげです」


 職業、侍だったけ? 彼女だけしかその職業が現れていなかった。

 もしかしたらレア職業なのだろう。


 適当におにぎりを貰って食べていると、後ろから胸を押し当てながら抱きついて来た。


 「なんであんな真似をしたかお聞きしても良いですか?」


 「必要悪って奴だよ」


 「そうですか。でも、私は騙されませんよ。⋯⋯私にとって、貴方程の光はありませんから」


 「そうかい」


 「はい。本当にありがとうございます」


 少しだけ、嬉しいかな。

 誰かに感謝されるって、良い気分だな。

 ⋯⋯でも、ちゃんとした緊張感は持ってくれないと、命を落としてしまう可能性はある。

 だから、警備員を管理するこの俺が一番気をつけないとな。

 案外、この生活も悪かないし。

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