第25話 side:生徒会長【武器はいくらでも増やす】

 「はぁ。面倒ね」


 現在は世界が変わってから二日目となっている。

 鍛冶師などに寄って生み出された武器は戦力を大きく上げている。

 効率良く狩りが出来ているので、私のレベルもそこそこ上がっている。

 今は屋上におり、召喚獣と風を感じていた。


 召喚獣には各々の感情があり、仲良くなればなるほど利用価値が上がる。

 見下げて見えるのは抗議団体だ。

 私の王政的管理に不満を感じた人がすぐにデモを起こした。

 予想よりも早かった。


 その中心には男が二人、女が一人いる。

 男が大きな声で呼びかけているけど、あの女が黒幕だとすぐに分かる。

 学校の中でマドンナと呼ばれており、人気の高い人物。

 利用価値があると思ったけど、私の邪魔となるなら排除する必要がある。


 「選んだ職業は⋯⋯確か水魔法士だったけ? うーん。水は貴重だからなるべく手下にしたいなぁ」


 内容としては私の指示の元動く事への不満だった。

 多分、マドンナとして持て囃された事が原因だろう。

 周りの反応は中々に悪い。

 だって、大人、つまりは教師達は私の駒と今のところはなっている。校長を利用して。

 気の弱い奴らは大人に付いて行きたいから問題は無い。


 心が荒い人はヤンキーへの対処に対して怯えているので反抗はしない。

 彼女に対して下心がある奴らが徐々に賛成意見に出ている。

 私のやり方は正しいと殆どの人が思っているが、それでも命令されてやるのは嫌なのだろう。


 「ちゅちゅ?」


 召喚獣である雀が鳴いて「どうしたの?」と顔を傾ける。

 頭を撫でると目を細めて喜んでくれる。コレがちゃんと戦闘で役に立つと良いのだけれど。

 召喚獣に対して出来るのは意思疎通と視覚の共有。


 「殺す?」


 「奈々、流石に今は殺しはダメよ。もっと私に依存している状態じゃないと、混乱を生み出す。あの猿を利用しなくても利用出来る程にしないと⋯⋯モンスターの群れを私の指揮で撃退、そんな功績があれば良いのだけれど」


 「それは危険。一個上の上位個体だけでもここ壊滅」


 「ええそうね。そうなるのは嫌だわ。⋯⋯あのマドンナさん、別名知ってるわよね?」


 「誰でも股を開くビッチ」


 「そう。尻軽ギャル女⋯⋯実際は貞操はかなり硬いけど、わがまま」


 彼女を利用しない手はない。

 水川姉妹には他者を寄せ付けないオーラがあり、友達とかはいなかった筈。

 だけどあのマドンナには一部だけでも支持している人がいる。

 彼女を私の武器に出来れば⋯⋯さらなる統率が可能となる。


 「そうだね。まずはどうしようか」


 一つ案が思いついた。私の得意な事だ。

 依存──これを出来れば私の勝ちだ。


 「奈々、霧矢に伝えて欲しい事がある」


 「はい」


 生徒会副会長、私の忠実なる部下であり武器。

 私に依存的になっている都合の良い男。

 こんな世界になってから敢えて関わり合いは奈々を通してだけ行っている。

 今は彼を利用する事にする。


 デモが続く中、私は雀に命令した。

 奴の頭に糞を落とせ、と。雀は忠実に従って糞を落とし、すぐに召喚解除して姿を消す。

 もしもように持っていたネバネバの白い液体(めっちゃ臭い)を入れたペットボトルを取り出す。

 それを私の姿が下からバレないように振りまいた。誰に当たっても構わない。


 数秒後には下から混乱の声が聞こえて来る。

 その中で一人、異様な程に冷静な男があり、「女子から先にプールで体を洗うんだ」と宣言した。

 その通りに生徒達は動き、デモは中止になる。


 「これで良い?」


 「奈々、良い仕事よ。ご褒美をあげるわ」


 「キス、して欲しい」


 「良いわよ」


 まだ彼女には仕事が残っている。

 狙い目はオタクの中でも現実に理想を持っている系の人⋯⋯確か農家の一人に存在している。

 そいつを使うか。甘い汁を与えてやるだけ。

 誰も見てない、誰もいない安全な空間⋯⋯そうね。あそこで良いわね。


 「ありがとう」


 「いくらでもするわよ。奈々、もう一つ仕事を頼んでも良い?」


 「もちろんです!」


 「さっきの女の下着⋯⋯上でも下でも良いけど、とにかく感情を荒ぶらせる物を盗んで。そして生徒会室の机で良いわ。置いて。そして──って人を生徒会室に呼んで」


 「はい」


 奈々は疑う事をしないで私の命令に従って動く。

 学校内に動かしていた召喚獣が見つけていた、少しだけ不満を抱いている不良のグループを発見した。

 今は教官職業の教師の元で訓練をするのをサボっている。

 私はその人達の元に訪れた。


 「あぁん? これは生徒会長様」


 私に少しばかりの怯えがあるようで、全員頭を下げて来る。

 その顔には怒りの炎が灯っていた。


 「今は訓練中の筈だけど?」


 「あー実は⋯⋯」


 「まぁ良いわ。実はね、良い話があるのよ。この学校で生きたいのなら、重要な事よ」


 これである程度の準備を整えた。

 後は彼らがどれ程彼女を壊してくれるかにかかっている。証拠は残さない。その為の準備をするのだから。


 そして昼、ゴブリンの大群がこちらに向かって来ており、明日の正午には戦いになると予想された。

 それは今は関係ない。

 実は今、体を洗っていたら下着が盗まれたと言う事件が起こった。

 当然責任を問われているのは支配者であるこの私だ。


 「ねぇ、どうしてくれるの? ちゃんと見張りくらい用意してよ!」


 マドンナが詰め寄って来る。


 「実は先程拾い物が生徒会室に届いたんですよ。もしかしたら、鳥かなんかが盗んで落としたんじゃないんですか?」


 「野生の普通の鳥が今飛んでいると? アンタの召喚獣じゃないでしょうね?」


 「そんな重たい物は持てないわ」


 彼女は生徒会室に向かった。

 そして私はニヤリ、笑った。順調だと。


 ◆


 生徒会室の扉を強く開けたマドンナの女子生徒の目に飛び込んだのは、下着を顔に当ててオカズにしている男だ

 当然ドアが開いた事に気づいてその男と女子生徒の目が交差する。


 「いや、これは⋯⋯」


 「嫌やあああああああ! クソデブのゴミがああああ!」


 気持ち悪さが怒りへと変わって殴りかかろうとした瞬間だった、隠れていた不良集団が出て来た。

 それは男子生徒も驚きのようだったが、不良集団は殴りかかっていた女子を止めた。


 「は、離しなさいよ!」


 「嫌だね。こっちは許可貰ってんだ! お前も楽しもうぜ!」


 「ちょ、止めなさい! 止めろ!」


 ステータスの暴力、当然女子に勝ち目はなかった。

 口を抑えられて言葉が出せず、服に手が向けられる。


 「おい豚! お前も楽しもうぜ。今日だけは兄弟だ! ひゃははは!」


 「んーんー!」


 ドアは静かに閉まり、この場の近くには生徒が近寄れないように生徒会メンバーが行動をしていた。

 生徒会は生徒会長の武器、つまりは利用価値の高い存在しかいない。

 絶望した恐怖の声が生徒会室から響くと言うのに、一切の助けを出さない女子が一人、ドアの前に居た。


 ◆


 二時間、若さ故かだいぶ長かった。

 途中から泣き叫び助けを懇願する声すら聞こえてこず、ドアが開けられる。

 満足そうな顔をした男共が順に出て来た。


 「最高だったぜ」


 私の肩に触れそうだったので弾いた。


 「つれないね」


 「私に従うなら、時々この時間を用意しても良いわよ? それだけの事が出来るって証明したでしょ?」


 「そりゃあいい。正直今でもおめぇは嫌いだが、この生活も悪かねぇな!」


 「そう」


 ま、今はこのままで良いでしょう。

 次に壊すのは君達だって知らないまま、私の指示に従って貰うわ。

 私は静かにスマホの録画画面を消した。


 男共が消えるのと同時に奈々が現れる。

 そして一緒に少しだけ離れて、足音をわざとらしく立てて生徒会室の中に入る。


 「⋯⋯っな! ──さん! 大丈夫ですか!」


 私達は焦った様子で急いで近づき、服はビリビリに破られてヌメヌメとした裸体を晒したマドンナを抱え上げた。

 嫌悪感などは見せずにただ優しく抱きしめる。

 奈々はハンカチで体を拭いてあげながら生産系の職業が作った服を与える。


 「何があったの? 大丈夫? こんな⋯⋯酷い」


 悲しいと心の底から頑張って思い込み、言葉を漏らす。

 上手い言葉が出て来てないけど、問題ないだろう。


 「教えて。誰にやられたの。⋯⋯私は貴女にどんな風に思われていても、絶対に味方だから。だから教えて、君を襲った人達を。罪には罰を与えるから」


 「う、うぅ」


 どんなに汚くても平然と関わってくれる優しさ。

 これは死にたいと思う程のトラウマに光を差し込める。

 その光に縋る。なぜなら、他には選択肢がないから。

 床には血も混じっている。⋯⋯掃除が大変そうだ。


 「奈々達は君の味方だよ。怖かったよね。辛かったよね。きっとそれは奈々達は完全に理解出来ない⋯⋯でも、寄り添ってあげる事はできる。辛い時、いくらでも頼って。奈々達は味方だよ」


 「ええ。奈々の言う通り。私達は君の仲間であり味方だ。どんな形になろうとも、君を守るよ。だから今は、大いに泣いて」


 「うぅ、うああああああ!」


 絶望と希望、たった数時間で起こった出来事に脳内は冷静に判断出来ていない。

 しかし、その混乱の中で結論を植え付ける。

 『男は怖い』『生徒会長と奈々は味方』この二つ。

 これで彼女は男には頼れず、マドンナとして傲慢に振舞っていたからそれ以外に頼っても助けてくれる相手はいない。

 結局私達に頼るしかない。


 私達はいくらでも彼女の思いを受け止めよう。

 この子が利用出来るのなら、私はなんだって彼女に与えてあげよう。

 これでまた、一つの強力な武器が出来た。

 男共を利用しやすくなった。


 「私達は君を襲った人とは違うよ。『愛』を持って接してあげれる」


 「うん」


 「え?」


 疑問を顔に出した元マドンナに声を出させないように唇を合わせた。

 次に奈々もだ。

 それから男達とは違う、『愛』を持って接した。

 そして彼女は私達と言うどんな状況でも守ってくれそうな希望を『受け入れた』。


 これからよろしくね。


 私は奈々と目を合わせた。艶かしい声を出させながら。

 計画通り、と。

 私の学校要塞計画はまだ始まったばかり。

 反逆因子は徹底的に潰して私の独擅場にする。

 誰も逆らえない、誰もが命令を聞く。そうしないといけない。


 完全なる要塞であり、私が王となる。

 それまでは我慢を続けるしかないけど。

 でも、きっとその我慢は報われる。そのために私は行動するのだ。


 「ごめんなさい。貴女達の考えに反対して。場に合わない事したから、こんな目に会うのかな?」


 「そんな事ないわ。これは私のミス。君に与えてしまった傷は簡単には埋めれない。でも、絶対に埋めるし守るから。ね、奈々」


 「もちろん」


 「本当にごめんなさい」


 簡単すぎて、拍子抜けだ。

 これで私達の『愛』を否定すると言うのなら、もっと激しく壊すつもりだったけど、やっぱり元が脆弱だと楽で良い。

 水川姉妹もここまで簡単だったら良かったのに。


 さて、ゴブリン集団に対しての対策と『罰』の準備を始めよう。

 ゴブリンの後は不良集団、奴らを壊して道具にする。

 一つ、一つ、丁寧に積み重ねていく。

 これが私と言う人間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る