第24話 今更不法侵入とか考えても仕方ない気がする今日この頃

 頭がグワングワンする。

 【バーサーク】の副作用的な奴で、頭の中を掻き回されたこのように酔った。

 映る世界が反転したりねじ曲がったり、吐き気すら現れる。

 仰向けで倒れてそれが収まるのを待つことにする。


 グウウウと腹の音が響く。

 完全に敵を絶滅させたせいか、安心感が湧いて張り詰めていた気持ちに緩みが生じたようだ。

 そろそろ耐性獲得しても良いと思う。


 スズちゃんは無事なので、レアドロアイテム以外、つまりは魔石を拾い集めてくれた。

 これらはお目当てのアイテム『マイホーム』に使う用である。

 『マイホーム』は最初に拾った人が所有者となる。

 この所有者システムが厄介であり、スズちゃんが所有者になるとアイテムボックスには収納出来ないのだ。


 スズちゃんが許可したら武器とかは収納出来るけど、システムで所有者が定められたアイテムは不可能なのだ。

 そんな意味の分からないクソシステムに嘆きながら、五分後に私は完全回復した。

 ステータスを開けばホブゴブリンとの戦闘後のようにポイントが溜まっていた。

 そこで気づく、パーティメンバーのアオさんの種族名が変わっている事に。


 「化蛇かだ?」


 「シャー!」


 鳴き声で私達の視線を集めて、最大八メートルくらいまで伸びて、そして金属のようなシルバー色に変色する。


 「詮索さん、これは?」


 《回答。予測ですが【メタルボディ】だと思います。【硬くなる】からの進化だと思われます。アリアントを倒したり魔石を数個食べた事によってその進化に至ったと推測されます》


 「なるほどね。アオさんやるじゃん」


 これが進化か。

 少しだけ角っぽいのが生えている。

 アオさんの変化はそのくらいで、私は『マイホーム』を拾う。

 見た目は小さな家⋯⋯サイズはジオラマ的と言うか小石サイズだ。

 きちんと見てないと見失ってしまう。


 《使用者を設定しました》


 《使用者が認めた者のみが入れます》


 世界の声が脳内に響いてそう告げる。

 中身を確認したいところだが、モンスターの血で臭いこの場に長いしたくない。

 魔石と素材を全て回収して私達は外に出た。


 「凄い開放感」


 既に夜である。月が地面を照らしている。

 今日も助け合いで家におじゃましたいと思ったけど⋯⋯この付近にはモンスターが居なかった。

 ⋯⋯いや。おかしいぞ。


 「どうしたのお姉ちゃん?」


 「不自然な程にモンスターの気配を感じない」


 不穏な空気が流れる。しかし、考えても仕方ないので場所を移動する。

 来た場所はマンションである。

 人の気配がしない場所を選んでドアノブに手をかける。


 「ちゃんと鍵閉めてるんだ」


 「ピッキングする?」


 「道具がないし私達にそんな技術は無い」


 「アタシある程度知ってるよ」


 まじかよ。

 ま、そんな事はしないで普通に鍵を破壊する。

 防御面で少々不安が残るが仕方ない事だ。


 「さ、入ろ」


 「い、良いのかな?」


 「大丈夫大丈夫。犯罪なんてやってなんぼよ。⋯⋯って言うのは冗談だけど、折角なら隠れられる場所が良い。気にせず入ろ」


 中に入ってドアを適当な物で塞いで、晩御飯を取り出す。

 それらは子供達に分け与えて私達は空腹に耐える。


 「食べないの?」


 「ぼ、僕の分けるよ?」


 子供達の優しさに私もスズちゃんも心の涙を流す。

 アオさんも少しだけ柔らかい気配を出している気がした。

 しかし、子供達から貰う程でもないし、少ないけど実際はまだある。

 この優しさはきっと親の育て方が良かったのだろう。私も育ての親が良い人達だった。

 やっぱり子供は成長する環境で大いに変わると思う。このまま育って欲しいものだ。


 「大丈夫。君らだけで食べて。お姉ちゃん達はとある事情で食事を抜いているんだよ」


 私は『マイホーム』を取り出した。


 「んじゃ、確認してくるよ」


 中に入る、そんなイメージをすると掃除機に吸い込まれるように中に入る。

 自分の体が小さくなっているのかとかは不明だし、詮索さんに聞いたら長くなりそうなので考えないでおく。

 見た目は木の床で冷たく、大きさは六畳くらいで決して狭くは無い。

 どうやって風呂とか付け加えるのかと考えていたら、新たなウィンドウが展開された。


 サイズLv1

 オプション:無し


 拡張、極小魔石1×サイズLv

 キッチン、増設小魔石1個、強化極小魔石1×Lv

 浴室、増設小魔石1個、強化極小魔石1×Lv

 その他のオプション


 ってな感じ。

 ホブゴブリンの魔石とエリートアリアントの魔石で良さそうだ。

 エリートアリアントの魔石はアオさんに与えたいところがある。スキルの関係上強化に繋がるらしい。

 それに食べないならキッチンは必要ない。


 拡張すると個部屋を用意出来るようになるらしい。

 そこら辺は極小魔石で良い見たい。部屋とかは増設ではなく拡張に含まれるようだ。

 『拡張・強化』は極小魔石、『増設』は小魔石、『ホームスキル』は中魔石が必要らしい。

 中魔石はまだ見た事がない。


 ホームスキルはこの『マイホーム』自体を強化するオプションらしい。

 取り敢えず出来る分の増設と強化を相談しながら行う。

 強化によって増えるのは、浴室の場合は洗濯機や風呂場の質の向上とかがある。


 「うーん。中々にやり込み要素があるな」


 その為には魔石が必要。

 『マイホーム』ってのは嫌だし名前を与えてみるか。


 「そうだなぁ。移動型便利水川拠点⋯⋯良い名前が思いつかないな。スズちゃんに聞くか」


 どうせ相談しながら増やす予定なので外に出る。

 外ではハンドガンの調節をしているスズちゃんとご飯を食べて寝ている子供達の姿があった。

 ぐっすり寝ていらっしゃる。可愛い顔だ。


 「どうしたの?」


 「色々とご相談がね」


 そして我々の拠点の名前はスズちゃん命名の『ヴァルハラ』ではなく『ユリザリア』に決まった。

 意味は不明だけど、なんとなくで思い浮かんだ言葉らしい。

 次に強化と増設を行った。他のオプションも付け加える。

 家具などは極小魔石、炊飯器とかはキッチンを増設しないと出て来ないらしい、水道も同じ。


 今回はキッチンは増えていない。エリートアリアントの魔石をアオさんに与え、浴室だけを増設した。

 待望の洗濯機はドラム式で乾燥機機能付き、風呂場は私とスズちゃんが同時に入っても窮屈感を感じない広い浴槽。

 シャワーも当然あり、極小魔石を引き換えにシャンプーなども設置出来た。無くなったら都度魔石と交換だ。

 浴室をメインに強化したので快適な空間が広がっている。

 魔石はアリアントの殲滅でかなり手に入ったのもありがたかった。


 部屋は二つ用意した。私とスズちゃん、子供達の部屋だ。

 ドアの前にはネームプレートが嵌められている。

 私達の部屋はダブルベッドに現在使用する必要のないタンスだけと言うシンプルな部屋だった。窓はない。鏡はある。

 蘭奈ちゃんと優希くんの部屋は二段ベッドにタンスと鏡だ。

 正直、タンスに入れるような服が現在手に入っていない。


 近くの店で服の調達は普通にありだ。

 制服だけだと、洗っている最中はずっと裸なので辛い。

 スズちゃんは変えの下着があったけど、私にはないのだ。持って来てない。

 スズちゃんのおっさん臭い目から目を背けながら子供達を二段ベッドに寝かせて、洗濯機も動かして、風呂に入る。


 「久しぶりの風呂だぁ」


 「言うて一日入ってなかっただけどけどね」


 「毎日入りたい」


 ちなみにリビングにはソファーがある。後でそこでステータスを弄る予定だ。

 今後の予定と言うか目標は変わらないけど、現在目指すのは市役所だ。

 子供達を置いてから私達の本来の道に戻る。

 市役所に向かっている間に服などの物資調達、あるか分からないけど、鍛冶場があると嬉しいな。ナイフの整備や今回手に入った素材で武器を作りたい。


 「とりあえずは蘭奈ちゃん達の安全確保かな」


 「だね。二日目もお疲れ様だよ、お姉ちゃん」


 「やね」


 私達は丸一日入らなかった風呂を堪能した。





【あとがき】

生徒会長サイド、自宅警備員サイド、死刑囚サイドで明日から三日間お送りします。

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