第22話 連携プレイはお手の物

 「君達、絶対に階段付近から動くなよ」


 敵は複数体いる。

 数に囲まれても危機感とかは特に感じない。感じるのは戦えると言う高揚感。

 戦いに身を置く事が私にとって、私達にとって満足感を与えてくれる。

 その過程の訓練や武器の作成も心が踊る。


 こんな世界になる前だったらただの自衛手段⋯⋯それも普通の武術だけでも問題は無い。

 ここまで用意周到にして武器を利用する必要すらない。あくまで普通な生活を送った場合の自衛だけど。

 きっと私達にとっては辛い生活を強いられている事だろう。⋯⋯だけど、それが普通なのだ。


 私達がここまで戦いに飢えているのはきっと、父親のせいだろう。

 父親、と言うよりも血筋のせいか。ただ奴が狂っていただけ。

 それを自覚する度に吐き気が広がって行く。

 ⋯⋯でも、この血筋があったからこそ、この世界でも平然と生き残れているのだろう。

 極道さん達に色々と教えて貰ってもここまで成長しなかっただろう。


 何たる矛盾だろうか。

 だけど、そんな矛盾を抱えているのもまた、私達と言う存在なのだろう。

 私は戦いが好きだ。今までは模擬戦をスズちゃんとしていただけだった。

 でも、今は違う。完全なる命を賭けた戦い。

 これ程心踊るモノがあるだろうか? いや、無いね。


 「スズちゃん、フルスロットルで暴れるよ!」


 「元々そのつもり!」


 私は前衛である。

 手前のアリアントに肉薄して跳躍し上を陣取る。

 アオさんが尻尾を伸ばしているので鋭さがある武器となっている。

 その力は私と組み合わさる事に寄ってアリアントの鉄を貫き、倒すことが可能なのだ。


 《経験値を獲得しました》


 「ふぅ。来な」


 私の周囲にはアリアントの数々。

 同時に迫って来たので跳躍してその場から出る。さらに、上に向かって糸を伸ばす。

 しかし、ただの糸では私の体を支える事は不可能だ。

 そこで少し工夫をする。一本一本の太さは蜘蛛の巣の糸レベル。

 だからそれを何本も出して一つに纏めて利用する。


 これにより強度が上昇して人を支えれるレベルに強くなる。

 代わりにMPの消費は激しいけど、それだけの価値はある。


 「そんじゃ、これを受け取ってね」


 ここに来る前に預かったスズちゃんの手榴弾をアイテムボックスから取り出す。

 栓を抜いてタイミングを見計らい投げ落とす。

 カンッと軽快な音を鳴らして小さくバウンドしてから、爆裂する。

 この程度ではどうせ死なない事は分かっている。


 「まずは一体!」


 爆発によって生み出された火の中に私とスズちゃんは同時に入り込んだ。

 入る頃には火が収まり、少しだけ傷の着いたアリアントがその場には居た。

 スズちゃんが一体のアリアントの首を銃弾で貫き、隣のアリアントを私が貫いて倒す。

 私の場合はアオさんにも経験値が入る。


 『ジジジジィ!』


 スズちゃんの背後に瞬時に移動したアリアントはその凶刃を広げる。

 そいつの目を目掛けて弾丸を放って怯ませ、それと同タイミングで私が懐に入る。

 両刃を掴んで反対方向に向かって無理矢理曲げて行く。

 ギギギと言う音と共に刃はへし折れてアリアントは反動で宙を舞う。


 「これで鉄を確保出来るよ?」


 「なるほど」


 トドメはスズちゃんが刺す。

 モンスターは殺す前に体の部位を切り離して置くと、倒した後にもそれだけは残る。


 「と」


 そんな事を解説していたら背後から襲われたので、振り向きざまに蹴り上げた。

 これを行うと首筋を正確にスズちゃんが吹き飛ばす。

 スズちゃんは私の意図を汲み取って正確に撃ち落としてくれるので、私は自分のままに戦えば良い。


 「さて、目の前の三体ハサミ回収するから、よろしくね」


 「りょーかい」


 スズちゃんが二丁拳銃モードへと切り替える。

 私はその三体に向かって突き進み、私の横を弾丸が通過する。

 私に当たる事無く横を通り過ぎた凶弾はアリアントの目を貫いて視覚を奪う。

 その隙を狙ってハサミの付け根を狙ってアオさんの尻尾で貫き破壊する。


 「金属音が良いね」


 ハサミを回収したら片手でアリアントを持ち上げて上に投げる。

 そしたら弱点をスズちゃんが狙ってきちんと倒してくれる。

 流石に実力差に気づいたのか、アリアント二体が後ろに下がって行く。

 逃がすわけないけど⋯⋯。


 「魔石が頭に落ちたし」


 先程空中で倒して貰ったアリアントの魔石がピンポイントで頭に落ちた。

 痛みは感じないのだが、なんというか出鼻をくじかれたような気がする。


 「大丈夫お姉ちゃん?」


 「大丈夫だけど、なんと言うか気持ち的に落ち着いた?」


 て、何か背中を向けて逃げそうになっているアリアント。

 流石に逃がす訳には行かないので私がすぐに接近する。


 「アオさん!」


 『シャー!』


 アオさんが一体のアリアントの首に巻きついて、私の腕にも巻き付く。

 それを引っ張りながらもう一方のアリアントの片足を掴んだ。


 「悪いけど、逃がさないよ!」


 そうやって引っ張っていると、私の後ろからダダダと走る音が後ろから聞こえて来る。

 そして、私の上を高く跳ぶスズちゃんの姿が見える。⋯⋯丸見えだ。

 ま、気にする事でもない。


 回転して勢いを乗せて踵をアリアントの脳天に落した。

 鈍く高い金属音が響いて白目を向いて魔石へと変わる。

 多分、私達と同じタイミングで走っていたのだろう。


 「アオさん、強く持ってなよ!」


 アオさんの胴体を掴んで力を込め、そのままより強い力で引っ張る。

 釣り上げたアリアントは足をばたつかせながら私に向かって落下して来る。

 アオさん武器が無いのであの骨格を貫く事は出来ない。


 「せいやっ!」


 なので足を突き上げた。

 私達の靴も当然の様に凶器となるように改造されている。

 鉄を貫く事は出来なかったが、凹ませて天井まで突き上げた。


 「よいっしょ!」


 そこをスズちゃんが襲いに掛かる。

 銃を懐のホルダーにしまって、胴体を腕を使って覆うように掴んだ。

 強く力を込めて落下に合わせて床に向かって頭を叩き付ける。

 その勢いは当然強く、ハサミをへし折りながら倒した。


 「ハサミの一部でもそこそこの量の鉄だな。詮索さん。これって純粋の鉄だよな?」


 《肯定》


 「さて、⋯⋯転がった魔石回収しますか」


 「だねー」


 流石に敵はもうおらず、落ちている魔石を拾うだけに終わった。

 卵の方も優希くん達が処理をして、今はステータスを弄っている所だった。

 こうやってやればレベルは上がるけど、やっぱり実戦経験が足りない。


 「⋯⋯でも、戦わせたくないなぁ」


 その考えはきちんとスズちゃんにも伝わっているのか、それとも同じ考えなのか。

 同情したような分かったかのような目を向けながら肩に手を置いた。

 私はその手に手を重ねて微笑む。

 アオさんは私の頭の上に登って、頭でポンポンしてくれる。


 「そうだね。守るって決めたし、ちゃんと戦えるようになるまでレベル上げをさせるよ」


 ステータスが上がれば戦えるようになる。

 技がなくても彼女達の武器は魔法なので、ステータス次第でいくらでも強くなる。

 そのためにもレベリングする必要がある。

 上に上がれば卵の量も増えたりするのかな?


 「スズちゃんさっきの戦闘でレベル上がった?」


 「上がってない」


 「私も」


 やっぱり経験を多く得た戦いの方が得られる経験値は多いのだろう。

 私達は元々技術を学んでいたし、経験値の獲得率が悪い可能性もある。

 ある意味バランスが良いのかもね。


 「さて、次行こ」


 ここにはもう、用が無い。

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