第21話 欲しけりゃ数こなせ

 「と、言う訳なんだよスズちゃん」


 モンスターを待って狩ってはいつまでも目的が達成出来ない。

 だからこっちから大群に足を突っ込むのだ。

 獲物を待つ時は罠を仕掛けた時、今回はそんな罠はない。

 だから獲物は狩人が見つけ出して狩るしかないんだ。


 今回の場合は食料でもなんでもなく、運によって作用される。

 簡単には落ちないから、数を稼ぐ必要がある。


 「⋯⋯うーん。でも、優希くんや蘭奈ちゃんが危険だし⋯⋯」


 「そうなんだよ。そこなんだよ。ここに放置する訳にもいかない。かと言って連れて行くと狙われる可能性は十分にあるんだよ」


 それが一番難しいところだ。

 私達は子供達を守ると決めているので、なるべく危険な目にはあわせたくない。

 確かに修羅場は経験させておくに越した事はないが、前とは違って今はステータスがある世界だ。

 一回のミスで全然死んでしまうような危険な世界だ。

 私達のような生活を送っていたのなら問題ないが、そんな訳当然ない。


 「あ、あの」


 そうやって泥沼の会議をしていると、蘭奈ちゃんが声を上げた。

 向き直ると、二人して覚悟を秘めた目を向けて来ていた。

 次に出すであろう言葉なんてその目を見れば容易に想像がつく。


 「わ、私達も戦います!」


 それは嬉しい言葉だが、正直力不足である。

 私達の連携に子供達がついてこれる訳がない。寧ろ出来たら悲しくなる程だ。

 私達が本気で連携を取れば何も喋らなくてもお互いに行動出来る。

 それだけの絆が私達の間には存在するのだ。


 元々見て来て生きている世界が子供達とは違う。

 何のために生きて、何のために努力するのか、それらが全く違う。

 元となるスペックが違うのはこの世界でも反映されてしまう。

 最初にステータスを獲得した時にそれは顕著に現れる。


 「⋯⋯分かった。君達の覚悟、受け取った。だけど、絶対に無茶はしないこと。それと、深追いもしない事。少し攻撃したら経験値は入ると思うから」


 二人の頭に手をポンポンと置いて撫でる。

 これが二人の覚悟を受け取った証だ。


 「お姉ちゃん」


 心配そうな声音を出しているスズちゃん。

 そりゃあそうだ。

 今回行こうとしている場所は言うなれば敵の本拠地である。

 私達は火にいる夏の虫へとなろうとしている。それは十分承知している。

 だけど、アリアントの実力的に私達なら問題ない。私達だけなら。


 今回は子供達を守りながらのハードなミッションとなる。

 燃えるとか、そんな感情はない。

 ただ冷静に考えて、効率的に考える。

 だいたい、私達の傍以外にこの子達が安全にいられる場所がここら辺にはない。

 市役所も離れているからだ。


 「スズちゃん、私達で安全地帯に成ろうじゃないか」


 「うん。分かった」


 これが大人か同級生とかだったら普通に見捨てている可能性はある。

 そもそもゴブリンに襲われそうになって死にそうになっても助けてはいない。

 この子達が大人の助けを得ないと生きれない子供だったから、助けたのだ。


 「さて、行こうか」


 グローブを深く嵌め込み、無言でスズちゃんと拳をぶつける。

 私達の間にはこれがあれば簡潔に絆の深さは分かる。アオさんも頭をぶつける。


 「と、その前に昼ご飯食べたい?」


 もう昼なので子供達は空腹だろう。と言うか、その事を自覚したら私もお腹が減って来た。

 いかんいかん。忍耐忍耐。

 炭酸ジュースで腹を満たす事にする。子供達は遠慮して来たが、「食べてくれると食料が無駄にならなくて済むんだよ」と言って食べて貰う。

 実際、消費期限が近いのが多かったので助かる。私達は食べないし。


 食事が終わったので、各々おんぶしてダッシュする。


 「絶対に外は見ちゃダメ。背中に顔を埋めて目を瞑り、鼻で息をしないで口でする事」


 もしも途中で見かけたあの光景を見てしまったら、この子達はトラウマを覚える。

 トラウマは克服したら確かに大きな成長へと繋がるが、反対にそれまでは恐怖を永遠と味わい続ける。

 成長と精神を天秤にかけたら、当然精神をとる。

 無駄に精神をすり減らす事はしない。


 私を先頭に素早く階段まで移動して、壁まで到着する。

 アオさんで空けた穴は塞がれていた。ま、どっちでも良いんだけどさ。

 さて、スズちゃんがワクワクしている事だしやりますか。


 「ショットガン」


 私はアイテムボックスからスズちゃんより預かっていたショットガンを取り出した。

 スキルで創り出した初めての銃を握るスズちゃんの顔は満面な笑みである。

 嬉しさでいっぱいのご様子。それに、それを撃てるのだから尚更嬉しいのだろう。


 私達は少しだけ距離を離して、それを確認したスズちゃんが壁に銃口を向ける。

 そして躊躇いなく引き金を引いてバラける弾丸が壁に穴を複数空ける。

 やっぱり浅いな。

 それから一マガジンを使い切り、私は加速した。私に向けて投げられたショットガンを掴んでアイテムボックスに流れるように収納する。


 「そらっ! おじゃましますよ!」


 「レアドロ寄越せやぁ!」


 スズちゃんと同時に穴だらけの壁を蹴破った。

 中は暗かったが、すぐに正面に向かってスズちゃんが弾丸を放つ。

 ガラスの割れる爽快な音と共に太陽の光が中に入り、この場を照らす。

 少しだけ硬質感のある糸が大量にあり、卵と思われる繭がそこら中に放置されていた。

 子供達が恐る恐ると言った様子で中に入って来る。


 「優希くんは繭を燃やして行って、蘭奈ちゃんは火を広めない為に魔法は禁止なので、さっき集めた石を繭に投げてね」


 繭を焼くだけでもモンスターを狩った事にはなる。

 つまり、経験値が入るのだ。

 しかも私達の介入がないのでそれらなりに手に入るはずだ。

 私達がする事は周囲の警戒と子供達を守りながら戦い、アイテムを手に入れる事だ。

 子供達にはアリアントは攻撃させない予定だ。危険すぎるからね。

 ま、子を襲う奴と仲間を襲う奴、どっちを狙うかと問われたら答えにくいモノがあるけど。


 ここで私達は相手が来るしかない動機を手に入れたのだ。

 相手の方が強いから戦わないと言う選択肢をとるなら、次から次へと産まれる筈だった奴らは死んで行く。

 きっと上も同様だからこれを続けて行く。最上階まで誰も来なかったら逃げる。

 一回層に全ての敵が集められるのは流石に厄介だし、そこに飛び込む事はしない。⋯⋯多分ね。


 その場合は私達も繭を攻撃して経験値を稼ぎ、また地道な作業に戻るだけだ。

 最悪風呂とかなら我慢出来るしね。


 「⋯⋯来るよ」


 「気配?」


 「あんまり感じないけど、分かる。私の勘だね」


 「分かった。アタシも【危機感知】が仕事したら言うね」


 最初は二体、飛び出て来た。

 そして優希くんに向かって突き進んで来る。

 私達が居るのにそんな都合良く⋯⋯行く訳ないよね!


 「行くよアオさん!」


 アオさんの尻尾が少しだけ突き出す様に伸びて腕に絡まる。

 これで殴れば相手の外骨格を貫通して脳を貫ける。

 経験値獲得を告げる世界の声のアナウンスを受け取る。

 さぁ、大量狩りの開始じゃ!

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