第20話 アオさん武器
「ごめんね、私のミスで痛い思いさせちゃって」
「だ、大丈夫だよ!」
元気いっぱいに見せてくれるけど、きっと死ぬ程痛いだろう。
私のミスで顔に傷を与えてしまった。はぁ、情けない。
痛みのを我慢させて笑顔を見せてくれる優希くんに感謝しかないよ。
「ユリお姉ちゃん? 本当にそんなに深刻な問題じゃないからね? そんなに深刻そうな顔しないで! 怖いよ!」
「うぅ、ごめんねぇ」
そんな事をしていると、ビルからスズちゃんが出て来た。
その顔は不満そのものと言った感じで、八個の魔石を片手て握っていた。
今にでも砕きそうなその顔とオーラに子供達が私の影に隠れる。
「お姉ちゃん、確率シビアだよ。全然出ないし、相手も出て来ない」
魔石を転がして来る。
イライラしている雰囲気に子供達がビビる。それを見たスズちゃんは落ち着いた。
そして優希くんの絆創膏に気づく。
「どうしたの? モンスターの攻撃を受けた? お姉ちゃんが居るのに?」
「うぅ、私のミスなんだよね。ちょっとふざけすぎた。めっちゃ後悔している。多分あの影に証拠はあるよ。⋯⋯後、ショットガン用の魔石集まったと思うから出すね?」
「ありがと」
アイテムボックスに入っている魔石を取り出してスズちゃんに渡して、私はビルへと入る。
「行ってきます」
子供達が手を振って見送ってくれる。
ビルの中に入ると太ももに絡まっていたアオさんが姿を表す。
そしてシュルシュルと独りで進んで行く。
さすがはアオさん、蛇とは思えない程の賢さを持っている。
ある程度の距離を保ちながら移動していると、アオさんの方にアリアントが出現する。
それを見た瞬間の私はすぐに反応する。
自分の不甲斐なさを自覚した私の神経はいつも以上に鋭いのだ。
それによって増した野生の勘は気配が感じにくいアリアントが出るタイミングを正確に当てた。
レベルが上がったし、ステータスを弄れば気配が感じやすくなると思うけど、やってない。
「アオさん!」
ステータスの影響でかなりのスピードが一瞬にして出せる。
アオさんを掴み取り、私の腕に巻き付く。
尻尾を鋭く尖らして伸ばし、【硬くなる】で硬質化し、鋭さを強化する。
それによって殴りの火力は上がり、アリアントの鉄の体も貫く事が可能だ。
「しゃら!」
「シャー!」
アオさんを武器にしてアリアントの脳天をぶち抜いた。
これはきっとスズちゃんの銃では出来ない芸当だろう。
私の筋力パラメータとアオさんの【硬くなる】スキルによって突き刺す様の武器は合わさる事によって相乗効果を生み出していた。
私とアオさんは一蓮托生、学校にいる時も極道さん達に拾われても、小さい頃から一緒に居る。
まさに阿吽の呼吸、つまりは相性抜群なのだ。
アオさんのスキルを活かしての機動力向上の他にも武器としても使える。
今後のアオさんの成長次第では、突き刺す攻撃が一番強力になる可能性だってある。
しかし、失敗した事が一つだけある。
「魔石だけ⋯⋯」
そう、それは欲しいアイテムが出てないのに力を示してしまった事だ。
今回はアオさんが独りで居る事によってアリアントを誘き寄せる事に成功した。
しかし、それが罠だと相手に知らせてしまったのだ。
出来ると思ってやってみた結果がこれである。
「アオさん、どうしようか?」
首にマフラーのように巻き付いて顔を横に持って来るアオさんに質問する。
すると、鳴き声を出さずにゆっくりと上を向いた。
上に行け、そう言いたいのだろう。
決まったなら行動あるのみだ。
うだうだ考えても相手は来ないだろうし、制限時間が終わるだけだ。
果報は寝て待て、そう言う言葉があるが、自ら掴み取りにいかないと何も起こらない事が世の中にはあるのだ。
幸運だけでは回らない世界である。
「アオさん、しっかり捕まっていてね!」
全力で走る。
マップがないのでどこに階段があるとか分からないので、とにかく走る事にした。
詮索さんに聞いても『不明』の二言で解決されてしまう。
詮索さんはシステム的な事なら答えられるけど、このような完璧なシステムだけで構築されてない場合は答えられないらしい。
宝箱とかの位置なら答えられるらしい。そう、宝箱があるのだ。
私達には恵まれておらず、なかなか見つかっていなかった。
ようやく二階への階段を見つけたので駆け上がる。
体が軽いので簡単に階段が上り終わる。
「うっわぁ。三階以降は塞がれているのかよ」
このまま最上階まで駆け上がろうとしたけど、無理っぽい。
⋯⋯そんな訳ないよなぁ。
確かに少しだけゲームっぽいけど、蟻の力だけじゃ完璧には出来ない筈だ。
それにここは現実なので、次の階に行ける道を全て塞いでいる可能性は充分ある。
つまり、こののまま他道を探しても無いと言う事だ。
だったらやる事は一つだよね?
誰だって同じ意見を持つ筈だ。
戦いになってから不思議と空腹感は感じておらず、ただ高揚感に包まれている。
「アオさん」
腕に絡まって尻尾を突き出すように伸ばす。
突き様の武器となったアオさんに感謝しながら、何かで塞がれた階段の壁をパンチする。
鉄板を殴るような金属音が響き渡り、凹む。
尻尾があった場所は貫かれており、先が少しだけ見えていた。
「わお」
小さな穴の向こう側に見えたのは、卵だった。
このビルかなりの階層があると思うのだが、三階にして卵を産み付けていた。
これらが孵ったらかなりの数になるよね、詮索さん?
《回答。その認識はあっています。これらの卵が孵ったらエリートアリアントは女王クラスへと進化するでしょう。そうなった場合、個々のアリアトンは余計に強力になります。具体的には個々の能力が強化され、女王クラスの支配下に置かれる事によって統率力が上がり、団体行動や連携力が向上します。その他に⋯⋯》
「取り敢えず危険なのは分かった⋯⋯そっかーどうせレアドロするまで倒しまくる予定だったし⋯⋯やっぱエリート狩るか」
卵を守るならかなりのアリアントが居るだろう。
子供達は連れて来たくないが、流石に私一人では荷が重い気がする。
スズちゃんの力を借りるしかない。
「シャー?」
アオさんが「僕と一緒なら大丈夫だよ!」と言っている気がする。
でも、流石にそれは過信し過ぎている気がするのでやっぱりやめておく。
確かに私のステータスは普通よりも高いし強いだろう。
しかし、それでも相手の本格的な巣穴に突っ込むには心もとない。
スズちゃんが入れば百人力である。
子供達をどうするか、が重要なのだ。
取り敢えず相談だね。帰ろ。
帰還中、アリアントと遭遇するレアイベントはなかった。
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