第17話 レアドロ目指して、百合編

 現在私は廃ビルの中を移動している。

 廃ビルと言っても人間の死体やその匂いが充満し、中の物がぐちゃぐちゃに崩さらているだけである。

 子供達には見せられないので、外でスズちゃんと待機して貰っている。

 この世界の事を教えながら近くに居るモンスターを狩ってくれれば良いと思う。

 10分間隔で交代なので、スマホをポッケにアラーム状態で入れている。


 「目的はマイホーム、私の家。そろそろ来てもおかしくない⋯⋯よねっ!」


 横にステップして背後からの奇襲を回避する。

 鉄の顎や外骨格を持ったでっかい蟻、アリアントと言うモンスターだ。

 大きさは全長一メールはあり、子供達よりも大きかった。

 外骨格が鉄で出来ているので当然その高度も高い。


 「再確認、弱点は関節でOK?」


 《その認識で間違いないです》


 「なら、狙いは首だね!」


 バールを取り出してアリアントに向かって突き進む。

 足場がごちゃごちゃしているのでアイテムボックスにしまう。

 人間の死体は入れたくないので放置する。血の池で足が奪われないように気をつけたい。

 金属系の物はアイツらの餌なので、殆ど残っていなかった。

 アイテムボックスを使っての攻撃をもう少し考えた方が良いかな?


 「ここ!」


 口が閉じる瞬間に高く跳躍して天井に足を乗せる。

 反重力を感じながら、天井を蹴ってアリアントに急接近。

 首の関節に向かってバールを突き刺し、てこの原理を利用して持ち上げる。

 ギチギチと言う音と共にアリアントの甲高い断末魔が響く。

 そして、首が切断されて頭が吹き飛ぶ。


 《経験値を獲得しました》


 転がったのはゴブリンよりも少しだけ大きい魔石だった。

 ゴブリンの魔石は極小サイズ、アリアントは小サイズだった。

 レアドロップのマイホームアイテムは簡単には出ないらしい。

 このビルはアリアントの巣なので、色んな箇所から奴らが出て来る。穴とかも空いてるしね。


 「さーて。巣に迷い込んだ餌にどれだけのモンスターが群がるかね」


 《簡単に倒し過ぎて警戒された可能性があります》


 「⋯⋯まじ?」


 やる気マックスの私に水をさす詮索さんの言葉に我が耳を疑った。


 《元々群れを形成して過ごすモンスターです。ゴブリン達と比べると少しだけ知能が高く、状況を冷静に分析する力があります》


 「まじかー。そう言えば、女王蟻的な存在はないの?」


 《この場所には居ません。アリアントはエリートアリアントが率いる場合もあります。今回はその場合です》


 「そっか。なら、狙いはエリートアリアントだね」


 とりまモンスターを探しながら移動するしかないよね。

 どこら辺にいるのか私のスキルでは完璧には見つけられない。

 こいつらは気配を消す系のスキルを持っているらしい。


 「しかも少しだけ本来の形よりも変わってるよね、この中身」


 壁が確実に多くなっているので、内装工事がアリアント達によって行われたと思われる。

 壁の見た目も統一感ないしね。

 そのせいで迷いそうになるし、何よりも私が向かったら逃げられる可能性がある。

 いっそここをぶち壊してやろうかとも考えたが、それで目立って近くのネームドモンスターとかに見つかる可能性があるのでやめた。

 そもそも出来るか怪しいしね。


 中を散歩していると昔の肝試しを思い出した。

 昔、と言っても中一の頃だ。

 その時は極道の皆さんに自衛手段の訓練と基礎知識の勉強をしている頃だったはず。

 組員旅行が行われた時に肝試しがあり、私とスズちゃんも参加した。もちろんアオさんもだ。

 幽霊とか信じていなかったし、暗い森と言うのに慣れていた事もあり怖くはなかった。


 そこで思うのが、こんな世界なら本物の幽霊がいるのでないか? と言う事。

 物理攻撃が効かない相手となると、私もスズちゃんも苦戦は強いられるだろう。

 詮索さんを使えば戦えるとは思っている。


 「にしても本当に警戒されたのかな? 見つからないや」


 仕方ないね。

 考えていた作戦を使おう。

 壁際に移動して座り込む、そして体操座りをして顔を下げる。


 「うぅ。うぅ」


 泣いているふりを行い弱っている風を装う。


 《何をしているのですか?》


 詮索さんが質問して来るなんて初めてじゃない?

 きっと詮索さんすら分からないような事を私はしているのだろう。

 でも、今は言葉が出せない。

 狩人は弱った獲物を逃さない。そして、弱肉強食の世界で、弱い奴は速攻で食われる!


 「やっぱりこっちの方が楽だね!」


 私の背後からハサミを広げて出て来たアリアントの顎を掴んで引っ張る。

 逃げようとするが、私の力の方が上のようだ。

 これが二百代の筋力パラメータの力!


 「ほら、引き籠ってないで、出て来てよ!」


 そして釣り上げる。

 相手の腹が良く見える形となった。

 たった一回しか使えないだろうこの手は有効だと証明された。

 弱ったフリは獲物をおびき出すのに最適だ。

 狩人が狩られる時は、相手の力を完全に把握出来てない時。


 「出て来いレアドロ!」


 ナイフを引き抜いて一閃させる。

 首が綺麗に切断されて胴体が落ちて、魔石へと変わる。

 魔石以外のアイテムらしき姿は見当たらなかった。


 《経験値を獲得しました》


 《レベルが7から8に上がりました》


 「お、レベルアップ。⋯⋯詮索さん、私に獲得されて良かったって思った?」


 《元来、固有スキルを譲渡する方法はこざいません》


 「⋯⋯こいつ」


 さて、次行こ。


 ◆


 「スズお姉ちゃん、ゴブリン一人で倒せたよ!」


 「な! 僕も手伝ったし!」


 「おぉ。二人とも凄いよぉ」


 ワシャワシャと二人の頭を撫でる。

 お姉ちゃんに撫でられるのが好きなアタシだけど、撫でる側も中々良いね。

 今度お姉ちゃんを抱き締めながら撫でてみよう。喜ぶかな?


 ちなみにこの二人の職業は優希くんが火魔法士、蘭奈ちゃんが風魔法士と言う後衛アタッカーを選んでいる。

 まぁ、前に立って戦いたいと思える人は少ないだろうし、子供でも戦いやすいとなるとコレだろう。

 なのでアタシ達とはステータスの上がり方が大いに違っている。

 それでもこのまま一緒に行動を共にする事は出来ない。いずれ別れる⋯⋯だからパーティ設定は組まない


 目指しているのは市役所だ。

 【詮索】に安全地帯はないかと聞いたら、市役所だと答えられた。

 なので、子供達をそこに向かって案内すると決めたのだ。

 お姉ちゃんはビルの中で戦っているのだろう。


 「スズねーも強いの?」


 「ん〜どうだろうね。アタシは時と場合によるよ。優希くんの方が強いかもよ〜」


 「ほんと!」


 「ほんとほんと! 君は才能があるぞ〜」


 そう言って撫でると純粋に喜んでくらるから心が和む。

 純粋な子供って良いよね。

 優希くんにだけ対話していると、蘭奈ちゃんの頬が膨れていた。

 怒り方も子供っぽくて超かわいい。子供だけど。


 「蘭奈ちゃんも才能あるから、頑張ろうね」


 「⋯⋯うん!」


 頭を強く倒して元気に返事をする。


 『ギガャアアアア!』


 「うるさい」


 ハンドガンを一瞬で抜いて背後から出て来たゴブリンの脳天を貫いた。

 改造によって火力が上がった事により、しっかりと脳天をぶち抜けばゴブリンはワンパンで倒せるようになった。


 《経験値を獲得しました》


 《一定の熟練度に達しました。スキル【気配感知】を獲得しました》


 そんな事なんてどうでも良く、アタシは子供達と会話を続ける。


 子供達は鈴菜の姿を見て思った、『強い』と。

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