第15話 side:ヤンキー【世界の変貌と混乱の死】

 巷で不良高と呼ばれている高校の生徒数人がサボっていた。

 河川敷で野球を行って遊んでいた時だった、大きな地震が起きて立てずに倒れる。


 「な、なんだ?」


 そのサボり魔のリーダーが呟いた。

 リーダーの青年、龍馬りゅうまが寝っ転がっていた状態から起き上がった。

 地震は数秒後には収まった。


 「地震警報なんてあったか?」


 龍馬は急いでスマホを確認するが、そこで圏外だと気づく。

 仲間の一人が叫んで指を町の方に向ける。


 「な、んだよあれ」


 そこには巨大な木が見えた。

 ビルはその影響かへし折れて崩れ倒れている。

 雲も貫く巨木はとても目立っていた。


 「あの方向はやばそうだな」


 「学校の方向だね。どうする?」


 龍馬の彼女、紗波さなみが声を掛ける。


 「そうだな。まずは街中に行ってどうなっているかを把握するしかないだろうな」


 龍馬は現状をどうにかする為に冷静を装うが、内心は混乱の渦だった。

 そこでバッドを持っていたヤンキーが叫ぶ。


 「なんじゃあコイツ!」


 それは川の方から這い上がって来ていた。

 緑色の肌、ツルツルの白色の頭、人間のように二足歩行だが手とかにはヒレが着いている。

 そう、それは逸話に出てきそうなカッパのような姿だった。


 『ハハハハハ!』


 軽快な笑い声を出してソイツは近くで叫んだヤンキーに襲い掛かる。

 ヤンキーも抵抗するようにバッドを振るうが、それを手で防がれた。体格に似合わないに力に戦慄する。

 そのまま腹に向かって叩きを受ける。それは力士が張り手のように。

 避ける事が間に合わず、腹に受けたヤンキーは骨の折れる音と共に吹き飛んだ。


 「八雲? おい、八雲!」


 当然返事はない。地面に血の絨毯が広がる。

 そこで皆が理解した。死んだのだと。

 ただ掌を当てられただけだと言うのに、あっさりと軽く死んだ。


 「うわあああああ!」


 その現実がヤンキー達に『勝てない』と言う考えを生み出し、恐怖を与えた。

 足が震えて動けない、胴体が震えて武器が持てない、混乱して頭が回ならい。


 「どうすんの龍馬!」


 (死んだ? 嘘だろ? あんな簡単に死ぬのか?)


 龍馬も冷静にはいられなかった。紗波が揺らして必死に訴える。

 たったの一撃で人が、仲間が死んだのだ。当然混乱するだろう。

 こんな現状を楽しんでしまう方がおかしいのだ。


 「八雲を、八雲を、よくもやったなああああああああああ!」


 しかし、混乱から立ち直り怒りに狩られた存在がいた。

 八雲の兄弟、南雲なぐもである。

 手に持っていた野球ボールを怒りの力でプロ並みの速度で投げる。

 獲物を定めようとしていたソイツは不意を突かれて顔面にボールを受ける。

 その衝撃は頭まで行き、皿を破壊した。


 『は⋯⋯』


 ソイツは倒れて黒い霧となり、後に転がったのは魔石と綺麗な皿だった。

 その光景に龍馬は再び混乱するが、南雲はそれ以上の混乱を受ける。


 「なんだ、ステータスって」


 南雲がゆっくりと龍馬の方を見る。

 その目はグラグラに揺れており、焦点が合ってないようだった。復讐を終えて脳内に突然流れたアナウンス、再び混乱の渦に潜る。

 大切な人の死と言う受け止めたくない現実と共に流れたアホのような言葉。

 瞳には混乱と怒りが捻り混ざったかのように黒かった。


 「なぁ、ステータスってなんだよ!」


 「知るかようんなもん! ⋯⋯と言うか、一体どうなってんだよ」


 南雲が八雲に近づき、持ち上げる。

 当然、生きている様子はなかった。

 手に付着する生暖かい血に南雲は涙を沢山浮かべた。


 「なんで、なんでだよ。なんで死なないといけないんだよ」


 そして冷静となり、南雲はステータスを開いた。

 見える物を全て龍馬に話す。

 龍馬は仲間の言う事なので全部ちゃんと信じた。


 「⋯⋯ステータスにスキル、職業か。まるでゲームだな。いや、もしかしたら本当にゲームなのかもしれない。南雲、お前が思うがままに選べ」


 「だけど、こんなの、何選んで良いか分かんねぇよ!」


 「そんなの俺も同じだ! どうして良いか、分かんねぇよ」


 誰だってこんな世界になったら混乱する。

 ステータスだと言われて、目の前にその証拠が現れても簡単には受け入れられない。

 そんな事は当然分かっているヤンキー達。

 南雲はゆっくりと考えて、選んで行く。


 「龍馬、どうするの?」


 「なぁ紗波。今後世界はどうなると思う?」


 「あーし、バカだからわかんない」


 「もしも本当にゲームの世界だって言うなら、ルールが存在するだろ。でも、そんなのは基本的にない。あるのは殺されたら死ぬという絶対的な事実だ。死なないためにはこの世界に順応する必要がある」


 「⋯⋯?」


 「俺達もステータスを獲得する必要がある。あのモンスターのような奴を倒せば手に入るんだろ」


 「危険だよ!」


 「少なくともあのカッパみたいな奴は頭の皿を破壊すれば倒せる。⋯⋯なんで石と皿を落としかは知らないけど。今は分かっている事をやらないといけない。行動しないといけない! 見ろ、あの木を。あんなのはこの世界には本来ない! 今までの現実が全部ぶち壊れたんだ! だから、今後の現実を取り入れないといけない! 紗波、お前も戦え」


 「怖いよ!」


 「そんなの俺も怖い! だけど、やらないとダメなんだ! 助けを求めたって他人は絶対に助けてくれない! スマホが使えないから電波などは意味無いんだろうし、電気とかも使えるかわかったもんじゃない! そんな状態で政府がまともに動くと思うか! 助けを待って、誰が助けに来る? 自衛隊か? そいつらも結局は自分達の身を守る為に力を使う! 極道か! マフィアか! 警察か! 誰が助けてくれる? 何かしないと死ぬだけだ!」


 龍馬の捲し立てに紗波は言葉を失った。

 龍馬はバッドを持ち上げて、川に近づく。

 狙い通りと言うべきか、カッパがはい出て来た。笑みを浮かべて。


 「川に近づいたら出てくるのか?」


 カッパは龍馬を襲いに向かって走る。


 (さっき動きは見た。ゲームのような世界なら最初の行動は同じ筈。動きは見えない程じゃないから、一度攻撃を躱して頭に叩き込む!)


 龍馬が冷静に考えたが、カッパは口から水を放った。


 「何っ!」


 危険だと判断した龍馬はギリギリ避けるが、腹が少し裂かれた。


 「グッ!」


 想像以上の火力に驚きが隠せないでいた。

 体勢を直してバッドを構えそうにしたが、足を踏み外して転けた。

 そんな隙を与えてしまった龍馬に襲い掛かるのは当然カッパ。


 (やっちまった)


 恐怖によって動けない。

 カッパは右手を構えながら進む。そして、龍馬に肉薄したカッパは掌を突き出す。

 しかし、それは龍馬に届く事はなかった。


 「そうだよね。他人は信用出来ないし、頼りにならない。だから、あーしも戦うよ」


 「紗波⋯⋯ありがとう」


 野球ボールを両手で振り下ろしてカッパの皿を破壊したのだ。

 転がるのは魔石と皿。


 「⋯⋯みんな、八雲の為にも絶対に生きるぞ。死ぬ事は八雲への侮辱と考えろ! 仲間を侮辱する奴は、この中に居るか!」


 「居る訳ねぇだろ」


 混乱から立ち直った竹谷たけやが叫んだ。

 仲間が死んで、世界が変わった事を受け入れた仲間達が立ち上がる。

 仲間の為に生き延びる、その意思が感じられた。


 「まずは連携してステータスを獲得しよう。⋯⋯それと、ゲームような世界だけど、ゲームじゃないって、しっかり理解した方が良い」


 モンスターを殺したら素材とかに変わる。

 ゲームのような世界だけと一切ゲームではない。

 モンスターは一定の行動はしても決まった動きはしないも、その身で経験した龍馬だからこそ言える。

 死んだら復活出来ないし、明確なルールがある訳じゃない。

 ただ一つだけあるとしたら、『弱肉強食』だろう。強くなくては、強くならなくては、生き残らない。


 (紗波には感謝だな。絶対に、生き残る。見ててくれ八雲)







【あとがき】

なんか、主人公サイドよりも面白くなりそう。

仲間の死を乗り越えて、仲間のためにも必死に生きる。

他人は信用出来ない、自分たちの力で生き残るヤンキー達。

うーむ。頑張れ。

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