第13話 こんな世界でもしょうもない奴らは居る

 太った中年男性に私は自分の本質を見破られないように言葉を返した。


 「へ、へへ。い、いま。沢山のば、化け物が居るから、き、危険だよ。お、俺が守ってあげるよ」


 上から目線の態度だなぁ。


 「そのチェンソーでですか?」


 「そ、そうだよ。チェンソー○ンってね。へへへ」


 何を言っているのだろか。

 いちいちどもって鬱陶しいな。

 その視線も声音も粘り着くように鈍い。


 「遠慮します」


 「女だけじゃ、危険だよ。お、俺が守ってあげる」


 そう言って男が私の胸元に視線を落とした。そしてゆっくりと笑みを浮かべる。

 その顔が父親クソと重なったのは言うまでもない。

 だからだろう。私は既に動いていた。


 「私弱い人に守って貰いたくなーい」


 「ごふっ!」


 かなり綺麗なフォームを描いて吹き飛び、壁に当たった。

 それは一軒家でスキルで室内に人が居ることが分かった。

 すみません。


 「私に触りたいと思うのなら、美少年に生まれ変われってから出直せ!」


 そしてスズちゃんの手を持って離れる事にした。痛みに悶える男を放置して。叫んだ時に中指を立てておいた。

 数分走ってから止まって路地裏に隠れて腰を下ろした。

 訓練以外で初めて人間を殴ったからちょっとだけ精神的に疲れた。

 ⋯⋯それにしても、走っている間に数人の人とすれ違ったな。

 現実を受け止めて避難しに向かっているのかもしれない。


 「なんで殴ったの?」


 「ムカついたから。どーせ助けて体でも要求したかったんでしょうね。あの目チョー嫌い。⋯⋯それに、あの目を向けられた瞬間スズちゃん銃に指掛けたでしょ?」


 無言で目を逸らしたスズちゃん。それが答えだ。

 空腹で正常な判断もしにくい状態で今はこの世界だ。

 人が人を殺しても周囲の化け物達が殺したと勘違いする。

 それが無法地帯となった今の世界だろう。そんな状況だから、スズちゃんは躊躇いなく自分の感情で人を殺す。

 スズちゃんは私以上に身内以外の他人に関心がないから。だから私がブレーキとなるのだ。


 「余程の事が無い限り同族は殺してはいけませんよ」


 デメリットがあるのでそこだけはきちんとする。

 もしもデメリットがなかったら多分、私も本気で奴を殴っていた。

 さて、嫌な気分になっちゃったのでさっさと移動を再会しよう。

 適当に走ったので方向があっているのか分からないけど⋯⋯目視出来る看板でドラッグストアを確認したので向かう事にする。


 その近くには『マイホーム』をドロップしてくれるモンスターが住まう場所がある。

 ドラッグストアの後にそこに向かうべきだろう。

 未だに不貞腐れているスズちゃんに私はハグをする。

 不意打ちのハグに顔を染めてしどろもどろする可愛い妹。


 「スズちゃん。さっきから暗いぞ。どうしたの?」


 「⋯⋯お姉ちゃんは、美少年が現れたら、アタシに興味無くす?」


 「へ?」


 流石にこれは予想外である。

 さっきの台詞がスズちゃんに困惑を生み出したらしい。

 まぁ確かに私の性癖はショタの美少年ではあるが、そんなの現実にはいない。

 あくまで性癖の話である。


 「そんな事ないよ。私はずっとスズちゃんに興味深々だぞ」


 「お姉ちゃん⋯⋯」


 これがシスコンを加速させてしまう原因なのだろうか?

 でも、スズちゃんが可愛いから仕方ないよね。うん。私悪くない。

 こんな世界だし旦那が出来るかも不明だしね。

 私はスズちゃんの耳元に口元を近づけて囁く。


 「スズちゃん、七時上空に飛んでる雀を撃ち抜いて」


 「ッ!」


 その言葉と同時に銃を引き抜いて狙い違わず雀を撃ち抜いた。

 貫かれた雀はその体を光に変えて空気に溶け込んだ。


 「なんで急に?」


 「昨日の途中からずっと私達を追って来てたんだよね。見つけたのは勘。⋯⋯多分生徒会長だぞ、あれ」


 「うげぇ。あの人?」


 私もスズちゃんも生徒会長があまり好きでは無い。対してあっちも好きではない。

 寧ろ彼女は私達の事を超嫌いな事だろう。

 あの人、生き残る為なら私達よりもなんでもするぞ。

 それすら自分の体も利用する程に。


 「鳥肌立って来た。あそこ行こ」


 ドラッグストアに向かっていると、銃を構えながら路地裏から出て来る大人が現れた。

 また大人だよ。

 まぁ、流石に一日経過したらある程度の人は次の行動を決めるよね。

 避難するか、籠城するか、戦うか、楽しむか。


 そしてその大人は私達の嫌いな人種だった。

 スズちゃんの静かな殺気が私の背中に当てられてくすぐったい。

 くすぐったいってよりも凍り付くようにゾワゾワする。

 向けられているのはその大人である。


 「き、君達大丈夫か! 今、近場の高校に避難している。君達も速く!」


 私達は制服なのに、冷静ではないのか避難を促して来る。

 この近くの高校は多分、私達の高校。

 その制服を着ているのに避難しろとは不思議だ。逃げ出したとは思わないのかな? もしかして登校中だと思われている?

 ま、冷静な判断なんて出来ないよね。


 「例えば何が危険なんですか?」


 「良く分からない化け物が徘徊しているんだ! だから君達も速く! 僕が守るから。警察は市民の安全を保証する!」


 あの男違って正義感溢れる瞳だ。嘘偽りのない瞳。

 大人にしては綺麗なその警察官にスズちゃんの殺気も収まった。

 こんな警察官もいるんだなって思ったりした。

 私達の警察官イメージは悪い物しかないからだ。


 「それって、あれですか?」


 なので私は指を刺して警察官の背後に居た虎のようなモンスターを指さした。

 初めて見るモンスターの種類にちょっとだけ興味が湧いたが、警察官は怯えながら拳銃を向ける。


 「遅いよ!」


 しかし、抜き取った時には既に相手は攻撃姿勢である。

 気づいてからの反応が遅い。そのままでは死ぬだけだ。

 警察官にも良い人は居ると教えてくれたので助けてあげる事に決めた。

 ナイフを高速で抜き取って腹を切り裂いた。それで攻撃キャンセルだ。


 そのまま回し蹴りで飛ばす。

 スズちゃんが追い打ちで警察官よりも速く銃を抜いて放った。

 虎の断末魔が響き、アオさんがトドメを刺しに伸びて噛み付いた。

 そして魔石へと変わる。サイズはゴブリンと同程度だった。

 極小サイズの魔石だ。


 それを回収して私達は再び道を歩く。

 腰が抜けて座っている警察官に振り向く。


 「と、言う訳で大丈夫ですので、さようなら」


 「もうちょっと練習した方が良いよ。遅い」


 あの虎、詮索さん曰くアニマルタイガーというモンスターらしい。

 いかつい見た目の割に対して強くない。


 ドラッグストアに向けて移動をしていると二人の子供を発見した。

 なんで子供だけで居るのかとても不思議だったのだが、それどころじゃなかった。

 ゴブリンに襲われそうで怖気づき、行動出来ない様子。

 ゴブリンが棍棒を振り上げた瞬間、スズちゃんがゴブリンを殺した。


 「大丈夫!」


 私達は二人の子供に近づいた。

 涙を流していた子供二人に私達は優しく抱擁し、助ける事を決意した。

 大人は嫌いだ。でも、子供は好きだ。

 それに、この二人が昔のスズちゃんに重なって見えてしまったから。

 頼れる相手が居ないのなら、私達が頼れる相手になろうではないか。





【あとがき】

次回、生徒会長目線

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