第12話 こんな世界でも朝は良い

 ステータスもいじった事だし寝るとする。

 他人の家だからって寝れない訳では無いので、静かにソファーに身を寄せる。

 私の懐に潜り込むようにスズちゃんが登って来る。

 ベッタリくっ付いて目を閉じる。アオさんは私の頭の下に居る。

 硬い枕である。ソファーの部分を枕にした方が寝やすい⋯⋯とは言わない。


 大体普段からアオさんを枕にしているので慣れている。

 ステータスのお陰か、普段はスズちゃんの柔らかい重みを感じるのだが、感じない。正直、楽だ。

 毎回、肺がかなり押されるのでね。


「⋯⋯」


 静かに寝ていると、下半身に蠢く感覚が現れる。

 小学生の頃に森の中で生きていたので、深く眠っていてもそこら辺には敏感に反応出来る。


「なーにしてんのよ」


 当然そこに居るのはスズちゃんだ。

 スカートを捲し上げて顔を入れそうだったので声をかける。


「⋯⋯ダメ?」


「ダーメ」


「匂い嗅ぐだけでも?」


「めっちゃダーメ」


「パンツ頂戴」


「これしかないからダメ」


「交換」


「サイズが合わん」


 まぁ、こんな会話は普通である。

 私達が普通の姉妹とは少しだけ関係が深いのは自覚ある。

 具体的に何かとは言わないが、経験はある。何かとは言わない。


「大体汗臭いし、モンスターのせいで生臭いから嫌だ」


「最近ご無沙汰」


「私も普通の姉に成ろうとしているのかね」


「お姉ちゃんはアタシの事嫌い?」


 目に涙を浮かべながらそうやって問うて来る。

 卑怯な質問だ。

 今日のスズちゃんは甘えん坊すぎる⋯⋯理由は分かるけど。


「好き好きちょー好き。でもさ、今は違うでしょ。他人の家だし。何よりも⋯⋯腹が減った。スズちゃんも空腹だからって自分を見失っちゃダメよ」


「⋯⋯うん。ごめんね」


「謝る必要は無いよ。体力減らさないように寝よ」


 スズちゃんを抱き締めて眠りにつく。

 スースーと寝息を立てながら5時になると同時に起きる。

 どんな時間で寝ようとも私達は朝五時になると目が覚める体だ。


「お姉ちゃん。なんでアタシお姉ちゃんのスカートを捲し上げているの?」


「聞くな」


 寝ボケていたのかもしれない。

 ちなみに【空腹耐性】は獲得可能段階に入っていた。

 一日程度では獲得には至らず、激しい空腹感が私達二人と一匹を襲っていた。

 お腹が減ったけど、詮索さんの推奨もあるので獲得したい。


「水、炭酸、炭酸飲もう」


 炭酸ジュースを取り出してスズちゃんと飲む。んー温い不味い。

 アオさんには水を与えた。

 掌に水を置いて飲ますのだ。あまり飲まないけどね。

 皆で空腹に対して戦う⋯⋯集中力との戦いだ。


「きちんと栄養は確保しないと。ドラッグストア目指そう」


「だね。⋯⋯どこら辺?」


 私達の家は数駅分離れている。

 そして学校が終わったらすぐに帰っていたので、ここら辺の土地勘がないのだ。

 なので家に向かっているのもある程度の方角しか分からない。

 取り敢えず探すしかない。


「にしても、腹⋯⋯いや、減ってない減ってない」


 ち、ちくしょう。

 能P残しておけば良かった。


「アタシは獲得出来るけど、お姉ちゃんが出来ないなら我慢するよ」


「そんな、我慢しなくて良いんだよ。空腹は辛いよ」


「お姉ちゃんと同じ苦しみを味わえるなら、本望!」


「それは流石に怖いかも」


 取り敢えずこの家からおさらばしよう。

 情報は渡したし、後は彼ら次第だと思うので私達が関わる事では無い。

 まだ太陽が登ってなくて薄暗い。


「【気配感知】のレベルも上げたし、糸も実戦で使いたい。楽しだな」


 グローブを取り出して装備し、靴を出して履く。

 そしてドアの前に置かれた物々をどかして外に出た。

 取り敢えず神経を研ぎ澄まして【気配感知】で確認出来たモンスターを倒しに向かう。

 この家周辺はなるべく狩ってから行く事にした。


 家と家の隙間に入って隠れ、ゴブリンを視認する。

 そして糸を伸ばして口を塞ぎ、普通に引きちぎられた。

 やっぱりまだ小物を操作出来る程度だった。

 もうちょっと実戦的な仕様が良いのに、全然性能が低い。

 これでレベル7かよ。


「なんか悲しくなって来た」


「⋯⋯お姉ちゃん撃って良い? 良い? 良いよね。撃つよ!」


 ワクワクしながら銃口を構える妹にちょっとだけ引きながらもそれを手で制す。

 ここは私とアオさんがやりたいので攻撃させない。

 止めると、まじでガン開きした目でゴブリンを睨んでいた。

 隠れているので、低級なモンスターであるゴブリンは気づいてないが、スズちゃんの視線でキョロキョロしている。

 凄い。スズちゃんの殺気がゴブリンに通じている。


「鬱」


「撃っちゃダメよー」


「多分、漢字が違う」


 手を伸ばして、袖からアオさんが伸びる。

 そしてゴブリンの首をぐるぐると巻いて、叫び出さないように口を塞ぎ、私達のところまで引っ張って来る。

 はは。糸よりも優秀。


 ナイフを抜いて、そのまま頭に突き刺して倒した。

 やってる事戦士じゃなくて暗殺者な気がして来た。

 重狂戦士になって防御も上がるようになったのにだ。


 周囲のモンスターを狩って、移動を開始する時には既に6時になってた。

 時間を確認出来るからスマホを充電するのはあり。


「スズちゃんが動くとゴブリンだと一瞬で戦いが終わっちゃうよ」


「アタシの相棒強い! そろそろ小魔石が20個貯まるから火力アップの改造が出来る!」


 嬉しそうなスズちゃんを見てると私も嬉しくなる。

 アオさんが食べる分の魔石があるので、集まり難いけど。と言うか、魔石は食べても問題ないんだね。

 魔石で腹が満たされるかは不明だけど。


 周囲の家では助けを求める人達が布などを外に出して存在をアピールしてたり。

 気配がなかったりしている。

 流石に一日過ぎたので、各々の行動が分かりやすくなってた。

 外を出歩いている人は少ない。


 学校などに避難している人もいるかもしれない。

 この世界だから出来る目標が私達にはあるので、避難する訳にはいかない。


「にしても、良い朝だなぁ!」


 伸びをして気持ち良く日光を浴びる。

 見てみよう。周りを。

 人がいるかも怪しい家や助けを求めて引きこもる人達の家。

 地震の影響か生えている木の影響か、凸凹で歩きにくい道路。

 壊れた車に瓦礫の山。


 正に阿鼻叫喚な世界。

 でも、日光は変わらず輝いている。


「⋯⋯でもなんか、普段よりも日光が熱い気がする。今、春やぞ」


「だね。喉が乾くと空腹感が来るから辛い」


 そんな雑談を笑顔でして、モンスターを見かけたら速攻でスズちゃんに横取り倒されて進んでいた。

 ぶっちゃけ進んでいる道は適当だけど、まぁ大丈夫だろ!

 うん。そうであって欲しい。


 地図アプリ使えないの辛いな。


「警察の銃声かな?」


 銃の音が聞こえたので、そのような台詞を言う。

 警察か自衛隊くらいしか持ってないだろうし、そう考えると警察の方が正しい気がする。

 会いたくないなぁ。

 警察及び大人嫌いなんだよね。世話してくれた人達は別だけど。


「き、君達だ、だだ大丈夫かい?」


 そんな私達二人に話し掛けて来たのは太った男だった。

 手に持つはチェンソー。見た目は中年オヤジ。

 清潔感がないので、ニートだろう。血が付着してるのでモンスターは倒していると推定される。

 アオさんは隠れて警戒、私達も警戒しながら返事をする。

 下卑た笑いを浮かべる男に私は必死に怒りを抑えている。


「なんですか?」

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