第9話 姉妹の本性(助けあいをします)

 少し休憩して、コンビニの物資を全てアイテムボックスに入れてやった。

 そして弁当を取り出してスズちゃんに渡して、アオさんの餌も取り出す。

 私は炭酸ジュースだけである。


「お姉ちゃんは食べないの?」


「なんか詮索さんが【悪食】を手に入れたから【空腹耐性】を取得した方が良いってもんで⋯⋯食べずに飲み物だけで飢えを凌いで耐えようかと思ってね」


 詮索さん、聞かなくても割と言って来るよね。


《気のせいです》


「ならアタシも良いや。お姉ちゃんに付き合うよ」


「良いの? スズちゃんはやる必要ないし、集中力の低下に繋がるよ?」


「お姉ちゃんだけがするなんて、それこそ嫌だね」


「あんがと」


 スズちゃんは本当に良い子になったと改めて思った。

 こんなに可愛く優しい妹を持った私はとても幸せ者だ。

 するとアオさんも餌を私の膝の上に置き、「シャー」と鳴いてくれる。

 まさかのアオさんも一緒に耐性取得を目指すと言う。

 アオさんはそもそもそんなに食わないタイプだったけど、それでも食べないとは全く違う。


「良いの? 空腹って本当に辛いんだよ? もう土でも食いたい、雑草でも食べたいってなるんだよ?」


「シャ!」


 こくりと顔を倒して肯定してくれる。

 私の家族は家族思いの良い子ばかりが集まっている。

 ステータスの確認とかもしたいのだが、流石に夜でそんな余裕は無い。

 なので移動しながら安全地帯、まぁ安全など無いと思うので寝床を確保したい。

 私達の家には当然行けないし、近くの建物を借りるしかない。

 そこで目に入ったのはゴブリンが三体ドアのところで群がっている一軒家だ。


 何かで抑えているのか、ドアが開く気配は無い。まぁ押しても当然開かないのだが。

 どんどんしているのにこじ開けられないのは何かで抑えているからだろう。

 近づくと、家の中にも同数の三人の気配を感じる。


「スズちゃん。私の嫌いな言葉の中に困った時はお互い様と言う言葉がある」


「ふむふむ」


「やりたい事分かった?」


「勿論」


 私はナイフを抜き出してゴブリンの背後に向かってゆっくりと歩く。ジト目のスズちゃんを背後に置いて。

 当然ゴブリンも私の存在に気づき、叫んで襲いに来る。

 私は相手の攻撃に合わせて屈んで懐に入り込み、足を切断する。

 転がるゴブリンの死体が三体。ステータスが上がったおかけが案外あっさりだ。


 スズちゃんがその内二体を持ち上げる。

 私も一体顔を鷲掴みにして持ち上げる。暴れて必死に掴み掛かろうとして来たので、アオちゃんに縛って貰う。

 スズちゃんの方は地面に押し付けていた。

 そして足でドアをコンコンとノックする。


「すみませーん! 入れてくださーい!」


 だけど当然ながら返事はない。


「開けないなら窓をぶち壊しますよー! そしたらここにいるゴブリンが中に入って貴方達を襲ってしまうかもですねー!」


 純粋な脅し。

 奥から慌てて物をどかすような音が聞こえて来る。

 そしてガチャりと鍵を開けて、少しだけドアを開けて隙間を作り出す。

 そして、鋭利な刃物が飛び出て来る。何か長い物にガムテープで包丁を着けたっぽい。


 流石は強化されたステータスなだけあってかなり遅く見える。

 なので、それに合わさるようにしてゴブリンを突き出して刺してもらう。

 プスリと音を鳴らしてゴブリンが綺麗に絶命する。

 本当は危険人物な私を排除する為にした行動だろう。楽なのでありがたい限りだ。


《経験値を獲得しました》


 あ、きちんと手に入るんだ。

 と、閉めるな閉めるな。


 右足を前に伸ばして閉められるドアを停止させる。

 そのままステータスの暴力でこじ開ける。

 為す術なく開けられた。ドアノブにしがみついているのはこの家の亭主だろう。

 生きている私に心底怯えた顔を示した。⋯⋯そう言えば返り血で顔が真っ赤だ。制服も。


 それに刺した感覚もあるだろう。

 殺した相手がなんで? 的な感じかな。

 なので笑顔で片手を軽く上げる。


「やっほ」


「う、うわ⋯⋯もごもご」


 叫び出しそうだったのでアオさんで口を塞ぐ。

 ついでに邪魔されそうなので腕と足を縛って貰い、中側に向かって投げた。勿論片手で。

 それでありえない力があると信じて貰う為だ。

 スズちゃんもゴブリン二体連れて入って来て、玄関に倒して踏みつけて抵抗させない様にする。


「娘さん一人と奥さん一人か」


「い、いや来ないで! 来ないでよ!」


 お、奥さんやい。そんなに私が怖いか?

 包丁で刺した、生きている。男を片手で投げる怪力。

 そして不法侵入(しかも笑顔で)からの左手にはナイフ。

 あ、うん。怖いね。


「まぁいいや。まずは娘さんから」


「や、止めて! この子には手を出さないで!」


 成程。

 この母親は娘の為なら自分の命を駆けるくらいの覚悟はありそうだ。


「だったらどうしたら良いと思う?」


「⋯⋯何をしたら、良いんですか」


 ここで私が男だったら「体」とでも言うのだろうか?

 ぶっちゃけ思うよね。こんな状況で体を求めて何の意味があるのかと。

 もっとあるだろうと思う。

 食料、武器、道具、思い付く限りでも多くある。

 だけど私が求めているのは寝床だ。そしてギブアンドテイクである。


「ゴブリンを一体殺せ」


「な、何を言っているの?」


 私はグローブを嵌めている右手で壁を軽く殴った。壊れないよにね。

 ちょっと揺れた。ステータスすげぇ。

 そして怒気の籠った叫びで再び同じ言葉を出す。


「ゴブリンを殺せ」


「そ、それでこの子には手を出さないんですか?」


「それは貴方の行動次第だ」


「わかりました」


 はい私の勝ち!

 ここ注意事項ね。娘に何もしないって約束してないから。

 スズちゃんが苦笑いしているのが分かるよ。

 でもさ? 私って優しくない?

 脅せば簡単に寝床は提供して貰えると思うよ?

 でもね、それだと安全とは言い難い。


 なので私の嫌いな言葉『困った時はお互い様』と言う都合の良い理論を使う。

 私は安全な寝床が欲しい。

 ならばどうするか? 相手に利益を与えて自ら提供して貰えば良い。

 ギブアンドテイク、良い言葉だ。


 私は彼らにステータスと言うこの世界で生き残れる力を手に入れさせる。ついでに情報を少々。そして保存の効きやすい食べ物など。

 そして彼らからは一時的にこの家を貸して貰う。

 生きる力や術、そして食料を提供されたのに寝床を貸さないなんて事はないだろう。


 奥さんはさっきの包丁を手に持ち、一体のゴブリンに目を瞑りながら振り下ろした。

 スズちゃんが当たらない様にゴブリンの位置を変える。


「え?」


「良く見ないと刺さらないよ。良く見て、良く狙いを定めないと。じゃないと殺されるのは貴方だ」


「ん〜! ん〜!」


 旦那さんがブチ切れだ。

 スズちゃんは平然とゴブリンの頭を少し上に上げて、怒りの瞳と牙を見せつける。

 それに怯える奥さん。⋯⋯そこで私を見る。

 ナイフを持って娘さんの手に頭を置く私を。娘さんにはナイフを立ててないよ? ただ持ってるだけ。


「ああああああああ!」


 叫びと共にゴブリンに向かって強く突き刺す。そして絶命する。

 またもや経験値ゲット。


「え?」


 奥さんは少しだけ冷静だったようだ。⋯⋯さて、次はこの子だ。

 まだ怯えている娘さんに私は笑顔でナイフの持ち手を向けて渡す。


「次は君がアレを殺せ」

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