第8話 リアル狂戦士の戦い方
「ひゃははははは!」
突き出される拳がとてもゆっくりに見える。
これがステータスが上昇している結果なのだろう。
今まで感じた事の無い浮遊感を永遠と感じられる。体がとても軽い。
軽く横にステップしただけでかなりの距離を移動出来た。
アイテムボックスからコンクリートブロックを取り出して左手で持つ。
それをフルスイングでぶん投げる。
相手は左の裏拳で粉々にしてそれを防御した。
だけど、一瞬でも私を視界から消したのが間違いだ。
「こい廃車!」
『ぐがあ!』
ホブゴブリンは空を見上げる。そこには当然私が居る。
足元に廃車が出現する。
きちんと計算して動いているので計画通りだ。
「ほら、味わえよ!」
その廃車に足を乗っけて、全体重と力を込めて蹴飛ばした。
私は上へと上昇し、廃車がホブゴブリンをプレスする。
土煙が地面では起きており、アナウンスは何も聞こえない。
「まだまだ!」
足元には再びコンクリートブロックを出現させてさらに高く跳ぶ。ついでにブロックを飛ばした。
かなり高い場所に来たので体の向きを変えて地面に頭を向ける。
そして私の足にはアオさんが伸びて来る。
それを思いっきり蹴る。
加速して落下した私に乗るベクトルをナイフに乗せる。
廃車から這い出て来たホブゴブリンの背中をナイフが深く抉る。
さすがはコンバットナイフ的に設計しただけはあり、かなり深く抉れた。
廃車に潰され、ブロックは意味を成さず、ナイフで深く斬られても尚、奴は殴りを飛ばして来る。
「うっりゃあ!」
『グガアアア!』
それをナイフを使って防ぐ。
腕を突き刺し、私はズシッと体を前に動かす。
相手の顔と私の顔がとても至近距離になり、私は口を開けた。
「ガブッ!」
『グガアアアアアアアア!!』
そして私は相手の目玉を喰らい引きちぎった。
そのままバックステップで距離を取る。
ムシャムシャ。ゴクリ。
相手が見ている時に強く咀嚼して飲み込んでやった。
「懐かしい味がするよ。森の獣の残った死骸の肉とドブの水と土で固めただんごの味だ。腐った生肉。不味くて腹が痛くなったあの味だ!」
《一定の熟練度に達しました。スキル【悪食】を獲得可能になりました》
《一定の熟練度に達しました。スキル【悪食】を獲得しました》
《一定の熟練度に達しました。スキル【悪食】のレベルが1から2に上がりました》
《一定の熟練度に達しました。スキル【胃酸強化】を獲得可能になりました》
《一定の熟練度に達しました。スキル【胃酸強化】を獲得しました》
《一定の熟練度に達しました。スキル【胃酸強化】のレベルが1から2に上がりました》
なんかスキルを獲得した。
まぁ良いや。
「私はずっと考えていた事があるんだ。弱肉強食が世の摂理なら、強い奴が食い、弱い奴が食われると言うのなら、食った奴が強いってね!」
そして今後、いやもう既にモンスターと言う化け物が溢れる世界になった。
この世は既に無法地帯。
強い者が生き残る世界だ。
「だから私は強くなる!」
怒りをその魂に宿したホブゴブリンが怒りのままに迫って来る。
私は【狂化】を使いながらもスキルでデメリットを無効化している。
ステータスが上昇しながらも冷静に物事を見る事が出来る。
直線的な攻撃はもう辞めた。
「こっちだ!」
私は横に大きく移動して廃ビルとなったビルに足を乗せてさらに跳ぶ。
アスファルトを崩して生えた大きた木も、人の気配が無いビルも、今は足場として使う。
複雑な動きでひたすら相手の視界から外れて隙を見て攻撃を仕掛ける。
『グガアアア!』
「おっと」
しかし、さすがに障害物が少ない故に対応が早かった。
拳が目の前まで迫って来る⋯⋯が私は後ろに引っ張られる感覚に包まれて後ろに高速で移動する。
アオさんに引っ張られたのだ。
アオさんがいるだけで私の機動力は何倍にも上昇する。
奴は既に沢山の血を流している。
私の方が圧倒的に有利だ!
《一定の熟練度に達しました。スキル【立体移動】を獲得可能になりました》
相手の攻撃を避けて隙を作らせては攻撃を仕掛けるを繰り返す。
ヒットアンドアウェイである。
それだけの身体能力はこのステータスが支えてくれる。
軽すぎで扱いずらい程だ。
自分の体なのにそうじゃないと感じてしまう。
《一定の熟練度に達しました。スキル【立体移動】を獲得しました》
お? 少しだけ壁とか木とかを足場に跳躍するのが上手くなった。
スキルって偉大だなぁ。
しかし⋯⋯あやつ私の動きに全集中しているな。
段々と私の動きが追えるようになっている。
このままだと負けてしまうのは私だろう。
だけどさぁ、忘れちゃいないか?
私には一緒に戦ってくれる家族がいる事に。
刹那、乾いた銃声が鳴り響き、ホブゴブリンの横頬を貫く閃光が通る。
それを自覚したホブゴブリンがスズちゃんの方を見た。
そしたらすぐにアオさんが奴の首元に巻き付いて私をその場所に引っ張る。
さすがは私達と長い間過ごしていたアオさんだ。
なんやかんやで戦い方が身に付いている。⋯⋯なんか複雑だな。
ペットに戦わせるってさ。
ま、良いか。
「そりゃ!」
引っ張られる動きに合わせてナイフを一閃させて切り裂く。
痛みで振り返ったら背中を銃弾で貫ける。
既にステータスの高い私の攻撃の方が危険だと判断したのか、私を先に殺そうと行動して来る。
だから私も相手をする。
攻撃を細かな動きで避けて反撃し、アオさんも足を集中的にカミカミする。
銃声が響けばホブゴブリンの足が貫ける。
私は基本的に上半身を狙う。
『グガアアア!』
「バレた!」
足を潰して倒そうかと判断した。
だからスズちゃんは足をずっと狙っていたのだ。
気づかれないように上半身を攻撃しながら攻撃を避けていたのだ。
スズちゃんの方に迫るホブゴブリン。スズちゃんは冷静に一撃放ち、ドロップキックを避けた。
「お姉ちゃんの動き全く見えなかったんだけど」
スズちゃんの不満の声が聞こえて来る。
だから笑って答える。
「これがお姉ちゃんの力です」
「ズルー⋯⋯ふふ。行こっ!」
「勿論だよ!」
そのまま二人で駆ける。
銃声を鳴り響きかせながら隣を走るスズちゃん。
私は加速してスズちゃんを後ろに置いて、銃弾を腕で防いでいたホブゴブリンと対峙する。
ナイフを鋭く突き出す。浅く横っ腹を裂いたが私は完全無視された。
「スズちゃん!」
アオさんがホブゴブリンの足に絡み付くが意味がなかった。
ホブゴブリンはそのままの勢いでスズちゃんに殴り掛かるが、跳躍で避ける。
そのままホブゴブリンの上を通って体操選手のように移動し、脳天に再び銃弾を放った。
スズちゃんの落下に合わせてその下を私が通り、刃を上にしたナイフを振り上げる。
シャキン、その金属音を聞いてホブゴブリンは地面に倒れた。
そして、魔石へと姿を変える。
《経験値を獲得しました》
《レベルが4から5に上がりました》
《レベルが5から6に上がりました》
《レベルが6から7に上がりました》
そして私達も地面に倒れる。空に顔を向けて。
すっかり夜だ。雀のが飛んでいる。
隣に倒れたスズちゃんと顔を合わせる。
短い髪の毛が前へと垂れており、少しだけ琥珀色の瞳が隠れていた。
だけど、はっきりと見える。
勝利の喜びに浸っている瞳が。
無言でナイフとハンドガンをコンっと合わせる。
アオさんがその真ん中に頭をコツンっとぶつける。
「やったね」
「うん。大勝利だよお姉ちゃん」
「シャー!」
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