第7話 鈴菜の時間稼ぎ

 アタシに任された強敵。

 正直嫌だなって思う。死にたくないし、でもお姉ちゃんと一緒に居たし。

 まぁ、なので戦う訳なのだが。

 ぶっちゃけ押されている。


 距離を離したら適当に拾った瓦礫を投げられる。しかもそれがかなりの火力だ。

 アタシの相棒が泣きそうになるくらいの火力。やっぱり世の中力だな。

 二丁拳銃ではなく、片手にハンドガンを握り締めて走る。

 片手は空けておく。


 お姉ちゃんが何をしたいのかある程度分かっているので、時間稼ぎを行う。

 相手の顔目掛けて一発残して全弾ぶち込むのだが、それも適当な物で防がれる。

 確実な驚異として相棒を見てくれたようで嬉しい限りだ。ちくしょう。


『グガアアアア!』


「ちょいちょい!」


 連撃やめれ!

 あんたの一撃はアタシにとっての致命傷なんよ。しかもさ、アタシのステータスでは動きが見えないんよ。

 相手が動かしたなって言うタイミングには既に突き出されているのよ。

 つらい。とにかく辛い。

 相手の視線、肩や腰の動き、足の位置でどこにどのタイミングで攻撃するのか予測するしか方法がないのよ。


「ここ!」


 攻撃の隙間を縫って銃口を向けて即放つ。

 しかし、アタシの動きは奴にとっては遅いのか腕を盾に防がれた。

 しかも返しに飛んで来るのは空気を切り裂く蹴り上げだ。

 横ステップで避けて、跳んで回し蹴りを顔面に放つ。

 鈍い音を出して相手の顔で止まる。


「ですよねー」


 アタシの力では奴の防御を突破出来ない。

 放たれる攻撃を顔面を蹴って後ろに跳ぶ事により回避する。

 相棒ハンドガンの攻撃じゃないとなんの意味もないのだ。

 ここまで非力なアタシ⋯⋯相手が筋肉ダルマなだけか。

 数値化されたステータスがなんもかんも悪いと思いますはい。


「シィ!」


 攻撃をさっきからギリギリで回避しているアタシに何か褒美はないのか?

 すぐに懐からマガジンを取り出して交換する。これはノールックで行う。

 いちいち見てたら相手の攻撃を受けてしまう。


「貫けや!」


 相手の攻撃の合間を狙って再び放つ。

 今度の狙いは足と心臓を同時にだ。

 だが、今度は相手が高く跳ぶ事によりその弾丸を回避した。

 凄い力だ。


「うそん」


 そして両手を組んでそのまま落下して来る。

 範囲攻撃だなーって勝手に予測したので走って離れる事にした。

 刹那、背後からすごい衝撃が襲って来て地面から足が離れる。

 衝撃波に体は揺らされて少しだけ吹き飛んだ。

 ゴツゴツとしたアスファルトの地面を頃ごって何かに当たり停止する。

 めっちゃ痛い。制服も少し破れたし、頬から血が少し流れた。


「衝撃だからまだ良かったよ。たく」


【危機感知】もっと仕事しろよ。

 お姉ちゃんが【気配感知】持ってるからアタシは取らなかったけど⋯⋯相性的に【気配感知】でも良かった気がする。

 さて、どうしたもんかな。


《一定の熟練度に達しました》


《スキル【観察】を獲得しました》


《一定の熟練度に達しました》


《スキル【予測】を獲得しました》


《一定の熟練度に達しました》


《スキル【思考加速】のレベルが1から2に上がりました》


 脳内に流れる世界の声(お姉ちゃん命名)のアナウンスに苛立ちが湧き上がる。

 初期スキルってポイント使わなくても獲得出来るのかよ、と。

 それだったら獲得じゃなくてレベルアップに使うわ。

 ある程度の初期スキルなら熟練度だけで獲得出来そうだし。


『グガアアアア!』


「やれやれ。距離を離したらダメだって言ったじゃんかアタシ」


 敵は近くの瓦礫を両手で鷲掴みにして持ち上げる。

 もう何するか分かっているので、遮蔽物になりそうなモノに潜り込んで身を潜める。

 同時に襲って来るのは周囲の地形をボコボコに破壊する瓦礫の投擲だった。

 轟音が鼓膜を破りそうで必死に抑える⋯⋯それでも貫通して聞こえるよ。

 一つでも自分の身に命中したら一溜りもない。


 終わったのを音で確認したのと同時に身を出してサイトを覗く。

 しかし、その先にはあの巨漢モンスター、ボブゴブリンが見当たらなかった。

 刹那、アタシの【危機感知】が薄くだが上に反応を示した。

 上を見れば落下して来る緑でかい物体を補足した。


「ちゃんと仕事してくれたじゃんさっきはごめんね!」


 すぐさま前方に駆け出してその攻撃を避け⋯⋯衝撃波が痛い。

 頭を守りながらゴロゴロと転がり、停止する。

 そして、ようやく本命の火力が登場してくれた。


 ◆


 名前:水川百合

 レベル:4

 職P:0

 能P:1

 HP135/65

 MP22/1

 筋力:138

 敏捷:118

 防御:13

 知力:14

 器用:13

 職業:狂戦士Lv9

 固有スキル:【詮索】【亢進】

 技能スキル:【武芸Lv5】【隠密Lv1】【遠見Lv1】【暗視Lv1】【自己再生Lv5】【気配感知Lv1】【熱源感知Lv1】【アイテムボックスLv5】

 耐性スキル:【打撃耐性Lv5】【斬撃耐性Lv1】【精神苦痛耐性Lv4】【精神攻撃耐性Lv5】【熱耐性Lv1】【ウイルス耐性Lv1】【痛覚耐性Lv3】【火耐性Lv1】【水耐性Lv1】【毒耐性Lv1】【電気耐性Lv1】【落下耐性Lv1】

 魔法スキル:無し

 強化スキル:【怒りLv3】【狂化Lv5】【斬攻撃強化Lv3】【攻撃力強化Lv3】【HP強化Lv1】【MP強化Lv3】【筋力強化Lv6】【敏捷強化Lv2】【防御強化Lv1】【知力強化Lv1】【器用強化Lv1】


【精神攻撃耐性】、これには【煽り耐性】【侮辱耐性】などの精神的攻撃の耐性スキルを複数獲得して手に入るスキル。

 だが、私達は幼い頃の生活のお陰で獲得出来る段階になっていた。

 そして、そのレベルを【狂化】と合わせた。

 理由は簡単で、デメリットの理性を失うをレジストするためだ。


 そして強化系のスキルをメインに上げた。

 職業で手に入ったスキルはレベルを上げないでおいた。

 さて、行きますか。


 戦闘の方を見ると地面を転がるスズちゃんを捕捉した。

 手を伸ばして声をかける。


「大丈夫そ?」


「諸に攻撃貰った訳じゃないからそこまでHPの減りは無いよ。もう少し早く来てよ。アタシの攻撃、もうなんの意味もない」


「そうなの?」


「まず、殴るや蹴るの攻撃は無意味だね。銃は警戒されて確実に防ぐ主に『腕』でね」


「おっけー。まぁ最初は私一人で行くよ。見ててねお姉ちゃんの戦い方って奴を」


 私はナイフを持ちながら歩き出す。

 スズちゃんは良い情報をくれた。

 銃弾を防ぐ時に腕を良く使う、と言う情報。

 それはつまり、相手は遠距離、或いは中距離の攻撃を腕で防ぐ癖があるのだ。

 同時に撃たれた場合は瓦礫などで防ぐのは既に知っている。


 ならばやりようはあるってもんだ。


「流石に【怒り】は使えないよね」


 なんで【怒り】も【狂化】も同じ『理性を削る精神攻撃』なんだよ。

 別々だったら両方とも耐性的に使えたのに。


「まぁしゃーない。【狂化】」


 私の体に黒い模様が浮かび上がり、同様の黒色のオーラが迸る。


《【狂化】の効果で理性を失います》


《【精神攻撃耐性】により完全に抵抗レジストされました。理性を保ちます》


 これでステータスが一気に上がる。

 さらに【斬攻撃強化】により斬撃時に置ける相手への与ダメージを三パーセント上昇する。

【攻撃力強化】により攻撃時に置ける相手への与ダメージが三パーセント上昇する。

 これらは【怒り】と【狂化】と違いパッシブだ。


「さぁ、行くよボブゴブリン!」


『グガアアアア!』

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