第6話 人生と力は比例する

 まずはタイマン同士だ。

 スズちゃんよりもレベルは低いけど多分ステータスの高い私。

 なのでホブゴブリンを相手する事にした。


「早速、バール行きますよっ!」


 相手の眉間を狙って鋭い場所で振り下ろす。

 しかし、それは簡単に弾かれて右の拳が飛んで来る。

 その拳サイズは私の顔くらいはある。でかくね?


「ははっ!」


 バールを間に挟んで吹き飛ばされる。

 かなりの衝撃が来て、ゴツゴツの地面を何回も転がる。

 瓦礫の壁に当たって停止する。


「耐性スキルは便利だねぇ。痛みは感じないけど制服が破れそうだよ」


 向こうの方では簡単に倒していた。

 流石に亜種なら簡単に倒せるようだった。

 ステータスは上がっても微々たるモノだったのかな?

 こっちは結構厳しい気がするよ。


『グガアアアア!』


 ドシドシを私に向かって走って来るホブゴブリン。

 図体が大きいので迫力がある。ここまでの迫力は初めて見たよ。

 流石は非現実的生物と言うべきなのかな。


 面白くなって来た。

 正直レベル3で挑んで良いのか分からない相手だ。

 それでも逃げるなんて選択肢は鼻から存在しないんだ。

 まだモンスターが蔓延る世界になってから数時間だけど、ある程度の覚悟は出来ていた。

 それ程の人生を私達は既に経験している。


「そもそも、私達の人生なんてそんなモンだ」


 考えを振り切って折れ曲がったバールを捨てる。

 一撃で使い物に成らなくなった。あまり攻撃は受けない方が良いな。

 相手の懐に入る込むように走り、振り下ろされる拳を跳躍で避ける。


「ぶっ刺す!」


 ナイフを抜き取り、相手の心臓に向かって突き刺した。

 しかし、私の筋力ステータスでは相手の防御を打ち破れなかった。

 刺さっても凄く浅い。


「ちぃ!」


 反撃の拳は空気を切り裂くパンチである。

 人間離れしたその一撃に一瞬肝が冷えたね。死を実感したよ。

 ⋯⋯人間じゃないけどさ。


「アオさん!」


「シャー!」


 私の首元から伸びるアオさんが相手の太い首に被り着く。

 これで毒が回る筈⋯⋯歯が通ってない!

 それだと毒が回らないから意味がないじゃないか!


 マズイっ!


 すぐにバックステップして左拳の横薙ぎを避けた。

 一撃でも諸に受けたら人生ゲームオーバーだ。

 ナイフはかなりの殺傷能力を持つので、失う訳にはいかない。

 本当は嫌だけど、やっぱり壊れてもまだ問題ないバールを使うか。


 ナイフとバールを切り替える。


『グガアアアア!』


「私に単調な殴りが効くかよばああああか!」


 こちとらスズちゃんと毎日のように訓練してんだよ!

 高く跳んで放たれたドロップキックを大きなバックステップで避けて、着地と同時に突き進む。

 ワンステップで相手の横側へと移動してバールを頭に叩き付ける為に跳んだ。


 しかし、そこで私の目の前に弾丸が飛んで来たので動きを止めて後ろに跳ぶ。

 アオさんも攻撃を伺っていたので、止められて不機嫌になる。

 そのスズちゃんの選択肢は正しかったようで、私がさっきまでいた場所に瓦礫が薙ぎ払われていた。


「ナイススズちゃん!」


 私は親指を上げてグッチョブをしておく。

 二丁のハンドガンを相手に向けて放つ。

 連続の銃声で飛ばれた弾丸は全て頭に向かうが、相手は本能かなんなのか、瓦礫で防いでいた。

 しかし、顔を掠って少しだけの血を流している。


「行くよアオさん!」


 スズちゃんがリロードするタイミングですぐさま肉薄。

 相手に考える隙を与える訳がない。

 今度は足を狙う!


「そりゃ!」


 片手のフルスイングが相手の分厚い筋肉で受け止められた。

 HP1くらいの攻撃は与えていると信じたいところだ。まじで頼む。

 アオさんが絡みに行くがそれを視線で止めさせる。


「アオさん毒を吐いて!」


 相手の攻撃を短い動きで避けて、跳んで相手の顔と高さを合わせる。

 アオさんが伸びて相手の目の前で毒を吐いた。

 それは効くのかすぐさま距離を取られたが。

 しかし、そうしたら飛んで来るのはかなりのダメージを与えてくれる銃弾の雨だ。


『グガアアアア!』


 危険だと感じたのか、地面を抉ってそれをスズちゃんに向かって放った。

 知性だけではなく生存本能も高い。

 立って銃を使っていたスズちゃんは近中距離が得意だ。

 投げられた瓦礫くらい簡単に躱せるし、反撃の弾丸が飛ばせる。

 相手の袋萩をそれが貫く。


「今度はどうよ!」


 全力の跳躍で相手の上を取り、そのままバールを振り下ろす⋯⋯のではなく【アイテムボックス】からコンクリートブロックを取り出した。

 取り出す意識をして五秒したら出す事は可能。

 それが分かっているのなら調整は可能。

 さらに手に触れている物は一瞬で収納可能なので、バールは収納する。


「砕けとけ!」


 そのまま全力で脳天にコンクリートブロックを振り下ろした。

 砕ける心地良い音を鳴らしてブロックが粉々となり、相手は頭から血を垂らした。

 ブロックの角で殴ったかいがあっただろう。


「お姉ちゃん!」


 かなりの大ダメージを与えた事にドヤ顔をしていたら、私の見えない速度で回し蹴りが飛ばされた。

 その場所には何かしらメタリックな光を放ったアオさんがいた。


《回答、スキル【硬くなる】だと断定されます》


 別に求めてないのに空気の読めないスキルの詮索さんの言葉に当然反応出来ない。

 激しい衝撃が横腹に来て一気に吹き飛ばされる。

 体に浮遊感を感じて落下して行く。


「ぐっ」


 頭を守りながら受身を取ったが、ゴツゴツとした今の地面では上手く出来ない。

 かなりのダメージを体に受けた。

 ステータスを確認すると、HPが15になっていた。

 アオさんいなければありゃ死んでたわ。


「油断した」


 やっぱり純粋な技術とパラメータでは無理っぽいな。

 それが分かっただけでも御の字か。

 つーか、あの速度は意外過ぎるって言うか、キレのある足技が意外だって言うか。

 殴りが強いって思ったけど、そう言う訳では無いらしい。


「お姉ちゃん!」


「スズちゃん、時間頼むよ」


 そう言って私はステータスを弄る事にした。

 最悪と言うべきか、幸運と言うべきか、近くに他のゴブリンの群れがいたらしく、ノーマルのゴブリンが三体寄って来た。

 ボロボロの体だけど、私にはとあるスキルがある。


「【自己再生】」


 MP的に二回再生して終わりだが、HPが50回復して、骨が繋ぎ合わせて回復出来た。

 きちんと体が動かせるのなら、こいつらって最高にアリだな。


「アオさん手ぇ出すなよ」


 ナイフを抜いてスズちゃんにホブゴブリンを任せてゴブリンに向かって進んだ。

 まずはあいつらの頭上を一回見て、その後は一番近くにいたゴブリンの心臓にナイフを突き刺した。

 そのまま回転させて刃を上向きに、切り上げ裂いて絶命させる。鮮血が制服をべっとりと汚す。

 心臓を突き刺したので魔石は落ちなかった。

 魔石を破壊して倒したら死体が残る仕様らしい。


 そして残った二体の上には【アイテムボックス】から取り出した廃車があり、落下して二体を潰した。

 魔石が地面に二つ転がり、スキルのお陰でなんとかもう一度このアナウンスが聞けた。


《経験値を獲得しました》


《レベルが3から4に上がりました》


 そしてステータスを開き、今必要な事を最速で行う。

 今の状態で勝てるって甘い考えをしていた私は後でスズちゃんに叱って貰う。

 流石に舐めすぎた。この世界を。何よりも、モンスターを。

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