第4話 先制攻撃の火力がおかしい件

 ゴブリンを倒してレベルアップじゃ!

 そう息巻いて私はアイテムボックスからメリケンサックを取り出すイメージをする。

 七秒経てば出現する。

 そして、私の横を通り抜けて三つの弾丸がゴブリンの頭を貫いた。


「へ?」


 そしてメリケンサックが虚空から現れて虚しく地面に転がる。

 その時には既にゴブリンは全て魔石へと姿を変えていた。

 虚しく転がる魔石に私はなんとも言えない感情が芽生えるのを感じた。

 ま、まぁ今回は妹に譲ったと言う事で。


「気を取り直して次行こ次!」


「お姉ちゃん」


「なに?」


 スズちゃんはじっと私を見てくる。

 メリケンサックを仕舞いながら何かと私も目を見る。

 すると、脳内にアナウスが流れる。


《水川鈴菜がパーティ申請して来ました。パーティを組みますか?》


「わお。そんな機能があるのか」


「なんとなくで試したら行けたっぽいね」


 当然イエス。

 念の為アオさんに確認を取ると、彼女もじっと私を見て来る。


《アオイが仲間になりたそうにこちらを見ています。仲間にしますか?》


 人と動物とでは少し違うみたい。当然仲間に入れる。

 これはシステム的な仲間と言う事で問題ないだろう。

 そもそも仲間以前に私達は家族である。森の中を死ぬギリギリまで生きた絆がある。


《肯定。貢献度によって経験値配布などが可能になります》


 おお!

 それはナイス!

 貢献しなかったら経験値は貰えないって事なのか。


 新たなゴブリンを見つけたので走りながらメリケンサックを取り出す。

 殴れる射程になった瞬間に出せると言う時間をきちんと計算している。

 ⋯⋯たが、再び私の横を金属の閃光が通過した。

 また綺麗に脳天をぶち抜いてやがる。


「ゴブリンは頭で三発だね。楽で良いや」


 しかも貢献度がないので私達には経験値が当然入らない。

 再びのモンスターは狼のような奴らだった。

 ナイフで戦うと判断したので、颯爽と駆けるが、それよりも速く弾丸が狼を貫く。


「ちぃ。ギリギリで反応された」


 こちらを見て迫って来る。ナイフも取り出せた。

 今度は私にも出番があるかと思ったが、二発目であの世へと旅立った。

 私の最速と銃弾では銃の方が速いようだ。⋯⋯やばくね?


「お、ヘッドショットって言うスキルが手に入った。お姉ちゃん、どう言う内容か調べて〜」


「あ、うん」


 さっきの戦いでレベル3に上がったっぽいね。

 ステータス画面出すとパーティメンバーを確認でき、レベルと名前は確認出来た。

 はは。

 私とアオさんは未だにレベル一だと言うのに。


 そして何度目かのゴブリンを発見。相手は三体。

 洗礼された動きで銃を抜き取り構える妹の前に手を全力で伸ばす。

 なんかいつもよりも銃を抜いてから構えるのが速い気がする。ステータス向上の効果かな?

 後、一秒でも遅れていたら目の前のモンスターが消滅するところだった。


「なに?」


「なに? じゃないよ! そろそろ私に殺らせて! レベル上がらないの!」


「良いじゃん。お姉ちゃん上がりやすいんでしょ? それに職業とかもお姉ちゃんの方が強い。上がる速度も速い。だったら優先的に私のレベルを上げる必要があると思うんだよ」


「確かにその通りかもしれないけどさ! それだと姉としての立つ瀬がないのよ! それにさ、モンスターって言う殺しても問題ない奴らが居るのに、殺せないって辛いんだよ!」


「そんな殺人鬼みたいな発言やめてよ」


「それはごめんだけどさ! とにかく戦わせて!」


「はぁ。わかったよ。今回は見てます」


 渋々っと言った様子だけれども、私に譲ってくれた。


「ありがとう!」


 ちなみに魔石は漏れなくアオさんに食われている。

 スズちゃんもアオさんを気に入っているので許しは得ている。

 だが、スズちゃんのスキル的にも魔石は残していたい。

 ま、今は良いか。


「なんでメリケンサック? なんのためのグローブよ」


「メリケンサックはサンドバッグ相手にしか使ってなかったし、活躍させたいのよ。何よりも拳で殴った方がストレス発散になるっ!」


「戦闘狂め」


 と、言う訳で私は走った。

 意気揚々とゴブリン三体の前に踊り立つ。

 私を認識しても既に時遅し、鋭い突きの打撃が一体のゴブリンの顔を捉えた。

 骨が砕ける音を響かせながら顔が凹む。

 しかし、脳内アナウンスが無いと考えるとまだ生きている。


 爪先で顎を蹴り上げる。

 ただの靴な訳がなく、鉄が仕込まれている特別性だ。

 軽いゴブリンの体は簡単に宙に舞うので回し蹴りで踵を突当てる。

 断末魔すら残さない内に一体のゴブリンを撃破した。


《経験値を獲得しました》


《レベルが1から2に上がりました》


「はは! 最高だよ! ようやく私の番だ! そう思わないか詮索さん!」


《理解不能》


 あ、そう!

 いずれ理解出来るよ。

 優等生のフリを続けて自分達の『素』や家族構成をバレないように過ごしていた私のこの思いを!


 そのまま二体目のゴブリンに向かって攻撃を仕掛けるが、持っていた棍棒を横薙ぎで振るわれる。

 グローブの性質を利用して防ぐのも良いが、折角なので普通に回避する事にした。

 屈んで回避。頭上では棍棒が空を切って空振りに終わる。


「こちとら対人戦の訓練は幼い時からしてんだ!」


 人間に近い見た目のゴブリンなら対処は簡単だ!

 本当に極道の皆様に拾われて感謝感謝だよ。

 任侠を重んじる昔ながらの組織で本当に良かった。


「それじゃ、反撃行きますよ!」


 懐に入り込むように避けたので、そのまま顎に使ってえぐいアッパーを入れ込む。

 そして反対の拳で顔面を陥没させて地面に押し倒して、踵落としで完全撃破する。


《経験値を獲得しました》


 その隙を狙って背後に現れるゴブリンは棍棒を掲げている。


「にひぃ!」


 どうやって反撃してやろうかと考えていると、襟元からアオさんが伸びる。

 ゴブリンの首に被り着いて動きを止めた。


 わお。凄い力。

 しかもよく見ると噛まれた箇所が紫色に染色されている。

 完全に毒やん。


「おっかしいな。アオさんって無毒な筈なんだけど⋯⋯毒あってもそんなあからさまな毒ですよ状態はないだろ。あの蜂の魔石食ったから? そんなのあるの詮索さん?」


《戦いに集中する事をおすすめします》


「真面目だね。アオさんトドメ」


「シャー!」


 苦しみながらもゴブリンは立ち上がって私を殺そうと無意味に足掻く。

 棍棒を杖にして立ち上がったが、その体にアオさんが巻き付く。

 そして首を正確に締め付けて、相手の目に向かって顔を突っ込む。


「えぐいえぐい」


 予想以上にトドメの刺し方が正確でグロかった。


「これで良き?」


《⋯⋯魔石とはモンスターの経験が詰まった心臓のようなモノです。つまりはスキルなどが蓄積されているので、それを摂取すると適正なスキルを獲得する事があります》


《種族の分類が大きく違うので内部に蓄積されたスキルと本来持っていたスキルか性質が組み合わさったスキルを所持した可能性が高いです》


 確かに、奴は蜂だった。

 何かしらの毒スキルとアオさんのスキルか何かが合わさって毒系のスキルを手に入れた可能性は高い。

 にしてもスキルってやばいね。

 生態系変えるやん。


《この世はステータスが全てです》


「そのようだね。努力はスキルとして反映されてるし、案外理不尽要素はないかも?」


 いや、固有スキルがそれらを変えている可能性があるな。

 ま、今は考えるのは良いか。


「そう言えば詮索さん。モンスターって正しい言い方なの?」


《本来は魔物です。魔性なる生物、略して魔物。使用者に合わせているだけです》


 ゆーて私もゲームとか悔しくないけど。

 魔物よりもモンスターって方が言いやすいし分かりやすいから良いね。


「気が利くね。それ程のサービス精神で良いんだよ。それに簡潔で良いね。わざわざ細かくやる必要はないの。うんうん。詮索さんの成長を感じるよ」


《詮索はスキルであり決められたプログラムで構築されたシステムです。人工知能でもありません。既に決められたプログラムがある為に成長は存在しません。故にその考えは⋯⋯》


「うんそうだね。詮索さんは何も変わらないよ」

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