第2話

「あーっ、うぜー」


 あの後は散々だった。

 宿題をやっていないからと理由を付けられ、桧山だけ給食を取り上げられた。

 おまけに当たり散らされ、ヒステリー尽くしの更年期三昧である。


「じゃ、じゃあさっ、なんか面白いことしようよ!? フードコート行ったり、髪染めたりさ……」

「んー……」


 アマネの提案に、桧山は少しの間考え込む。

 目が殆ど前髪に隠れて分かりにくいが、アマネは能天気で感情豊かな奴だった。


 桧山はふと、あるものに気が付いた。

 それは、桧山と特に仲が悪いグループの、家が小金持ちのデブが自慢していた財布だ。

 持ち主は便所にでも行ったのか、椅子の上にぽつんと放置されている。


「よし、アマネ! あれとってこい!」

「わかったよ!」


 善は急げで、桧山は早速アマネに指示をした。

 給食の片付けが終われば、次は昼休み。自由に出歩こうが教師も文句は言えまい。

 アマネから受け取った財布をポケットにしまい込み、桧山はほくそ笑んだ。


☆★☆★☆


 昼休み開始のチャイムが鳴り、桧山とアマネの二人が真っ先に来たのは裏庭だった。

 今時珍しいことに、この学校は裏庭で動物を飼っているのだ。


「お~よしよし」

「桧山くん動物好きなんだね」

「あぁ、こいつらは人間よりよほど利口だ」


 豚の檻に近付き、隙間から豚に触る。

 触り心地は良くないが、ブカブカ言いながら複数で寄ってたかって来るのが面白いので暫く豚の皮膚を撫で回した。


「おっと、忘れるとこだった」


 暫し豚に気を取られていた桧山は、檻に脚をぶつけ、ガサッという物音によって我にかえる。

 丸めていたビニール袋を広げ、手袋のようにして目的のものを集めた。


「フフ……アマネ、今日はお前の好きな所に遊びに行ってもいーぜ」

「えっ!? じゃあ、桧山くんが今着てる服のショップとか……俺も着てみたくて……」


 アマネは、桧山が履いているダメージジーンズを遠慮がちに指差す。

 制服のズボンと似ている点は色味くらいしかないジーンズに、洒落っ気のない女教師はわりと長時間騙されていた。


「あァー? オメー、パクってんじゃ駄目だっての。もっとお前に似合いそうなんあったし、そこ連れてってやるよ」

「本当!?」


 勝手に決めた桧山は、感激するアマネをよそにビニールの口を縛る。

 これで悪事の準備は整った。

 アマネを従えて、意気揚々と校舎に戻る。


 臭い下駄箱から靴を出す時、こんなにも心踊った朝があっただろうか。否、ない。

 とにかく桧山は、これからしでかすことは絶対に楽しいと確信していたのだった。

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