マルチプレイ
「で話は変わるけどさぁ、私のツイッターとかインスタにもコラボ依頼は来てたのよ。だけど売名目的の売れないアイドルやタレントばっかり!もうこちらからスカウトするしかないわ」
まるで一昔前の少女マンガのヒロインのように瞳をキラキラさせて握りこぶしを作る璃音。やおらに立ち上がり演説でもぶっぱなしかねないテンションだ。
嫌な予感がした俺は彼女に釘をさすことにした。
「、、、、お前さぁ、やたらテンション高いけど、、、もしかしてドラッグとかやってんの?うぉっ!」
副委員長の必殺技が委員長と呼ばれる男に向かって炸裂した。いわゆる飛び蹴りってやつ。ただし三角飛びバージョン。
一旦部屋の壁に向かって飛び、そこを支点に獲物に襲い掛かる。ゲーマーならわかるだろう?そう、ファイナルファイトの人気者、忍者野郎ガイの三角跳び蹴りだ。
副委員長の必殺技は嘘みたいに奇麗に委員長、つまり俺の頭部をしっかりと捉えた。随分余裕のある表現の仕方だが痛くないのかって?痛いに決まってんじゃん!
無理してんだよ!もう、野暮な事聞かないで。うう、、、、いてえ、いてえよ~!
それにしても、、、、璃音は曲がりなりにも女である。三角跳び蹴りをしたことによってミニスカートの中のパンツが丸見えになっているのだ。
本人にもわかっていたはずだ。ええ、もちろん見ましたよ、しっかりとね。
だが本人には全く気にする様子が無い。いわゆる見せパンではないようなのだが、、、いいのか?
もしかして今日は俺にとってのラッキーデイなのかもしれない。
そんな俺のささやか幸せ気分など気にも留めず、平常モード?に切り替わった璃音はいやにご機嫌だ。
必殺技がこれ以上ない程に奇麗に決まったからだろう。
先ほどの話題である人材スカウトについて聞いてもいないのに話をし始めた。
「私が目を付けているのはサーラね」
「サーラ?外タレか?」
おバカな子供を見るような目つきで璃音は俺を睨みつける。
「今人気のコスプレイヤーよ。ゲームに対する愛情はハンパないし。もちろんにわかじゃないわ。動画見てみたらわかるわよ」
俺は早速サーラ事、
コスプレについての動画が半分、残りの半分がゲームについての動画だった。
据え置きゲーム機についての動画があったので早速観てみる事にする。
、、、、サーラはマジモンのゲーマーだった。アーケードゲームの基盤をたくさんコレクションしており、アップライト型アーケードゲーム機やSEGAのアストロシティまで自室に置いてある。
当然家庭用ゲーム機もかなりの数を所有していた。部屋の壁一面が巨大な棚になっており、大量のゲームソフトがその中で存在感を放っている。
しかもゲームの腕前がハンパではない。高難度を誇るアクションRPGであるデモンズソウル、ダークソウルシリーズ、ブラッドボーン、SEKIRO、、、、
日本が世界に誇るゲーム制作集団フロムソフトウェアの傑作の数々を難なくクリアしている。
サーラは一度も死なず、しかもノーダメージでこれらの作品をクリアしていた。実況プレイをアップしていたが、当然編集で胡麻化しているわけでもない。
実況プレイは全てゲームスタートからクリアまでの実際の現実時間の短さを競うRTAと呼ばれるスタイルで撮影されていた。
フロムソフトウェアの最新作であるアクションロールプレイングゲーム”エルデンリング”も世界最速でノーダメージクリアした実況プレイが現在ゲーム界隈で話題になっている所だ。
全く信じられん。俺はまだ序盤で躓いているというのに。
サーラの凄い所は苦手なジャンルが無い事だ。シューティングゲーム、ベルトスクロールアクションゲーム、格闘ゲーム、どれもが一級品の腕前を誇っている。
反面ロールプレイングゲームやシュミレーションゲームなど反射神経を要さない思考型タイプのゲームに関してはあまり興味がない様子だ。
”格闘ゲームといえばモモハラ”
世界中で開催される数々の大規模な格闘ゲーム大会で優勝をかっさらう日本で最も有名なプロゲーマー、それがモモハラだ。
モラハラではないぞ、念の為。
先ほどの格言、”格闘ゲームといえばモモハラ”は多くのゲーマーが知る、もはやことわざと言っていいほどの文言だ。
だがサーラは一部ゲーマーに神とも崇められているモモハラを相手に一歩も引かない戦いで魅せた。
ゲーム雑誌の企画でモモハラと相手の土俵である格闘ゲームで勝負したのだ。
対戦は一度だけではなく、数回行われている。その度に互角かそれ以上の戦いを見せていた。
彼女はもはや現代におけるゲームの女神と呼んでも差し支えない存在になっている。璃音もゲーム好きで鳴らしているのだが正直格が違う。
それに璃音はアクションゲームに関しては俺に負けず劣らずのへっぽこヌルゲーマーだ。
「いや、これ無理じゃね?向こうがこっちを相手にしないだろ。こんなにスゲー女なんだから」
”サーラを委員会に迎える”というスカウト行為自体は素晴らしいのだがその実行にはかなりの難易度の高さが伺えた。
ベリーハード、もしくはアルティメットか。俺らの手には負えない!正直そう思った。だが璃音はあくまでもポジティブな姿勢を崩さない。
「そこはさ、私の知名度を利用するのよ。この子多分私の事知ってると思うの」
その自信は一体どこから来るのか?俺には見当もつかない。
「そりゃそうだろう。ゲーム大好きな女の有名人って限られてるからな」
「彼女もにわか女子ゲーマーには嫌気がさしていると思う。だ、か、ら、私なら彼女のお眼鏡にかなう資格、あるんじゃない?」
相変わらず自信に満ち溢れている。大した根拠もないのによくここまで尊大、いや偉そうに言えるな。
でもアイドルってこれぐらいのメンタルがないと成功しないのかもしれん。
そう感じた俺はこの一件を凛音に丸投げすることに決めた。
「じゃあサーラ勧誘の件はまかせる」
「アイアイさ~」
いつの時代の決めセリフだ?ってな感じの返答。お前いくつだよ!そう言いたかった、でも我慢した。だって三角跳び蹴りはもう嫌だから。
俺はさりげなく話題を変える。
「そういえばさ、凛音、ランドラインって知ってる?」
俺がそう問いかけると当然といった面持ちで得意げな答えが返ってきた。
「ああ、伝説の据え置きゲーム機でしょ?でもあれって本当にあるの?都市伝説じゃないの?」
俺はランドラインについての考察動画を創りコッソリとアップしていた。凛音は関わっていないので再生回数はそこそこだ。
だが一人の女性と思われる視聴者が執拗にコメントしてきていたのだ。DMもしっかり送られてきている。
「ランドラインについての動画を創って上げたんだ。そしたらメッチャ食いついてきた女がいてさ。宮崎蘭っていうんだけど。これ本名かな?」
「マジ?宮崎蘭、、、どこかで聞いたような」
「ちょっと偏執的な程だから、ヤバい奴かもしんないんだけど」
俺がそんな言葉を付け足すやいなや璃音は何やら考え込む姿勢を取り出した。
そして熟考を完了したのか数十秒後、滑舌のよい奇麗な声がその愛らしい口から紡がれていく。
だが次第に怒鳴り声と聞き違うような大声に変化していった。
「あ、思い出した!宮崎蘭ってばあのトンデモ女じゃない!」
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