追加効果発動

「やっぱりもっとメンバーを増やさにゃ!」

防音仕様のレンタルオフィス内にオッサン化した女の声が響き渡る。アイドルの性なのか地声が大きい。困ったもんだ。


知っての通り松野璃音は据え置きゲーム推進委員会のメンバーになった。

肩書は副委員長。出来れば委員長の肩書を譲りたかったのだが、どうしても俺を世間の矢面に立たせたいらしい。


しかし苦あれば楽あり。人気アイドルを部下?に従える謎の男という肩書を得た俺の評価はうなぎ登り!とまではいかなかったがそこそこ上がったようだ。

「何やらよくわからんがもしかしてこいつは凄い奴なのかもしれない」的な印象を支持者達に与えているようだ。


ブログやツイッター、動画チャンネルに送られてくる俺への誹謗中傷のコメントは明らかに減ってきてはいた。

こうなると欲が出てくる。そう、もう少し規模を拡大したいという欲が。

「ちゃんとした事務所を構えて活動した~い!」


当然こうなるわな。今はその都度レンタルオフィスを予約して2人だけのミーティングをしているんだから。

だが事務所というかアジトの件に関しては俺よりも璃音がその気ではあったのだ。


という事で秋葉原で格安の事務所兼住居物件を探し始めたのだが、、、、どの物件も安くても月の家賃が6万はする。

しかも風呂がないので住居としての使用はNGであった。

それだと俺が困るんだよなぁ。


もう倉庫暮らしは嫌なの!イヤなの!

そんな折、俺のパートナーから魅力的な申し出が。

「せっかくだから事務所は秋葉原ダイビルにしない?私家賃出すし」

「マジか!お前そんなに金持ってるの?」

俺は驚いた。芸能人ってそんなに儲かるのか?


「ふふふ、、、結局この世界を支配しているのは金というシステム、、、、何でも金で解決してやるわよ!」

そう嘯く女、松野璃音。だが彼女は決して金に執着などしない。そんなタイプの女であればこの俺が手など組むわけもないしな。


良い提案なのには違いないので俺は慌ててダイビルの情報をネットで調べ始めた。

、、、だが思っていたよりも家賃は高そうだ。

しかもテナントに入っている企業は日立製作所、フジキン、エクセルシオールカフェ、サイバーエージェント、、、名の知れている企業ばかり。


こりゃハードル高いわ。ていうか高すぎ!かなり魅力的な申し出でではあったが結局却下した。副委員長に対して借りは出来るだけ作りたくないという俺の気持ちもあったからだ。


結局今回もムッシュムラムラの店長の口利きが功を奏した。特殊なデジタルガジェットを扱う店がテナントの1階に入っている中古ビルの3階が空いているらしいとの事。早速凛音と共に内覧してみた。


「へえ、、、、建物は古いけど中はそんなに悪くないじゃない。アレっぽくない?シュタゲのさぁ、未来ガジェット研究所?みたいな」

確かに俺もそう思った。


「シュタゲ?なんすかそれ?」

まさかこんな事を仰る粗忽者はいないだろうな?

シュタゲとはシュタインズゲートの略。タイムリープを題材にした傑作アドベンチャーゲームだ。


確かにこの物件はシュタゲの主人公である岡部倫太郎率いるラボメンが集うアジト、未来ガジェット研究所っぽい。

だがあちらは家賃1万円だったがさすがにここは1万では無理だ。


そうはいったものの立地はそう悪くない。駅から徒歩12分。微妙な距離だがなんせここは都内、しかも秋葉原だ。贅沢は言えない。

結局家賃を値切って、4万5千円という格安で借りる事が出来た。

やっほーい!


遂にゲーマーの聖地である秋葉原に事務所を構えた据え置きゲーム推進委員会。

今後さらにその活動を広げる為、新たな人員の確保に向け動き出した。

いわゆるスカウトってやつ。だがどうやって?俺は副将である璃音にその方法を尋ねた。


「オーディションでもするのか」

「これ以上素人増やしてどうすんのさ。ゲーム好きの有名人を引き込むのよ!」

「そういえば、、、コラボ希望のDMがいくつか来てたな」


璃音が据え置きゲーム推進委員会の副委員長になってからコラボ依頼のDMが目に見えて多くなってきてはいた。

だがそのほとんどはこちらの知名度を利用して自分たちの支持者を増やそうと目論む有象無象の輩たちだ。基本金儲け主義者なので理念も大義もやる気も愛情もない。


だが中にはマジモンに尖った連中もいる。

アンチアップデーター。


インターネットが普及してからというもの、未完成品ともいえるバグだらけの作品を発売し後日アップデートで対応するという不届きなゲームメーカーが現れ始めた。

さらに格闘ゲームに多いのだが、本来最初から使えるようにすべきキャラクターやステージを後から有料DLCとして発売する行為が後を絶たない。


アンチアップデーターはそういったメーカーに抗議する連中だ。

彼らはメーカーに対し文書やメールで何度も何度も不満をぶつける。更に実際に会社に突撃し小競り合いを起こしたりその様子を動画で撮影しSNSで拡散したりもした。


彼らの言い分自体は正しいものであり、その為一定の支持者を持ってはいる。

メンバーにもよるが基本的に思考は柔軟で、アップデート自体を否定しているわけではない。作品の修正や魅力を広げる機能は歓迎。

DLCが追加される事についてもそれが有料(適度な金額であれば)であっても容認しているらしい。


彼らはしっかりとした組織を形成しているわけではない。

ハッカー集団アノニマスのように個人個人が匿名で動く。インターネット上で集い連絡を取り合いながら時には団結し活動しているようだ。


アンチアップデーターである各々のメンバーの差異化は名称の後に会員番号を付けること。

非常に特徴のあるデザインのマスクをしている事もそうだ。

上向きの矢印がマスクの中心に書かれ、その上にバツ印が施してある。


つまり←がアップデートを現わしており、バツ印はそれを否定するという事だろう。

先ほど、メンバーの差異化はそれほどないと言ったが、厳密には大きな違いがある。

幹部のみ白いマスクの着用が義務付けらているらしい。一般メンバーは黒だ。

俺が秋葉原で見かけたアンチアップデーターは黒ベースのマスクをしていた。


ある日のこと当委員会にアンチアップデーターから当委員会にメールが届いた。

メールの内容?もちろん開示する、とりあえず見てくれ。


”私はアンチアップデーターと名乗るゲーム粛清者である。会員番号194番。インターネットありきのゲームなど商品とは認めない。

貴公もそう思わないか?我々ゲーマーは未完成品のバグチェックを金を払ってさせられているのだ!こんなバカな事がまかり通ってもいいのか?

日本のゲーマーは舐められている!この正しいにも程がある意見に賛同されるのであればぜひ返事を頂きたい。かしこ”


何だか昔の人のような口ぶりだ。もしかしてタイムトラベラー?

だが彼の言う事にも一理ある。俺も正直最近のゲームメーカーの節操のなさぶりには腹が立って仕方がない。


例えばこうだ。気に入ったゲームソフトを数か月前に予約して指折り数えて発売日を待つ。さぁ、いよいよ発売当日!

ようやく購入したゲームをワクワクしながら起動すると、、、、バグ、バグ、バグ、バグの嵐。


酷いのになると進行不能になる致命的なバグまである始末。ちゃんとテストプレイしたのか?それとも知ってて納期優先で発売したのか?

そう思われても仕方のない悪魔の所業だろ、これって。


「なめんなぁぁぁぁぁ!!!!」

何度絶叫しコントローラーを叩きつけようとした事か。勿論実際にそんなことはしない。

コンちゃん(コントローラーの事?)に罪はないからだ。そんなわけで最近はもう怖くて発売日には買えない体になってしまった。誰がこんな体にした?責任取って頂戴!


ただ据え置きゲーム推進委員会としてはそうもいってられない。新作ゲームのレビューという忖度一切なしの大事な仕事があるからだ。

そんなわけで当委員会としてもアンチアップデーター達を一概に否定は出来なかった。


言うなれば彼らも裏切られた同士なのかもしれないからだ。しかし一緒にやっていくのはさすがにね、どうかと思う。

璃音もそう感じたのだろう。

「気持ちはわかるけど、、、」その姿勢は崩さなかった。

彼らと共同戦線を張る事にはあまり乗り気ではないようだ。


「アンチアップデーター?そういえば最近ちょこちょこ見かけるわね、、、、う~ん、言ってる事はわかるんだけどさ、なんかややこしそうな連中よね。

抗議行動が過激というか。いくらうちらが人材不足だと言ってもさ。ぶっちゃけシカト決めた方がいいと思う」


「だよな。それに俺らを単に利用するつもりかもしれねえし」

「うん。ただメンバーは数千人を超えるっていう噂もある」

「マジ?そんなにいんの?」

ビックリした俺は思わず聞き返した。大組織じゃねえか!無視して大丈夫か?不安が顔に出たのだろう、凛音は笑っている。


「かと思えば10人程度の少数精鋭でやってるって噂もある」

「、、、、でもメールを送って来た奴は194号って名乗ってんぞ。少なくとも200人はいるんじゃねえの?」


「ああ、アレ。番号は自己申告制みたいよ。確か12000号ってのが沖縄に出没したみたい」

「何だそれ」

思わずズッコケそうになった。意外とお茶目な連中なのかもしれない。

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