キラータイトル
「、、、、へえ、、、こんな奴がいたんだ」
カラフルでポップな装飾に彩られた部屋の中央にあるローテーブル、その上にチョコンと乗ったノートパソコンのモニターを胡坐をかきながら凝視している女性がぼそりとつぶやいた。
彼女はサッポロポテト(バーベキュー味)の袋に割り箸を突っ込み牛のうまみを凝縮した奇跡のスナックを貪っている。
貪る女の正体は
凛音がスナック菓子を食すのは久しぶりだった。
普段はスタイルの維持と肉体のコンディションを整える為、ジャンクフードは一切口にしてはいない。
なぜなら璃音は人気の女性アイドルであったからだ。
ユニットが多い現在のアイドル業界においてピンで勝負出来る希少なアイドル。その理由はいくつもあった。
可愛らしいだけではない、ちゃんと個性を感じさせる顔立ち。眼はパッチリと大きく、目力がある。
胸と尻は大き過ぎず小さ過ぎずの絶妙なスタイルの良さ。色気のある声質と素晴らしい歌唱力。楽器の演奏やコンピュータにも精通している技術力の高さ。要はそこいらのアイドルよりもかなり玄人っぽいのだ。
"来てくれたお客さんが支払った金額以上のものを提供する"
これが璃音の信条であった。ある意味昭和テイストなプロ根性。こういった所も璃音を他のアイドルと一線を画す存在にしている大きな要素である。
14歳で芸能界入りした璃音はアイドルユニット”キャンディレイニー”のボーカルとしてすぐに注目を集めた。
他のメンバーは皆年上だったがルックスも歌唱力も璃音には遠く及ばない。
凛音は明らかに主人公属性の持ち主だった。華もある。
当然嫉妬の嵐がメンバー間で吹き荒れた。だが我関せずの姿勢を取る璃音は彼女たちを相手にもしなかった。
嫌がらせはあっても無視していた。それで収まればよかったのだがエスカレートしていったのだから堪らない。
腕に覚えのある璃音は先輩メンバーたちを叩きのめした。リーダーは璃音の超必殺技である三角跳び蹴りで病院送りにされた。
表向きは舞台でリハーサル中に転倒したという事になってはいたが。
メンバーによる嫌がらせはそれ以降すっぱり止んだ。
そうするうちに所属のレコード会社からピンのアイドルとして売り出す事を知らされたのだ。一人でやる方が気楽である。凛音はすぐさま了承した。
本意かといえば、そうではない。元々璃音はアーティスト志望である。作詞作曲も手掛けていた。
複数のレコード会社にデモテープを送ったところ色よい返事を数社から貰ったのだ。
だが金銭面で一番いい条件を出した会社と契約をしたのが間違いだった。
所属した会社は璃音のルックスの良さに着目し、まずはアイドルとして売り出す事を決定したのだ。
「最初だけだから。まずはユニットの中心、ボーカル担当ね、うん。アイドルとしてブレイクしたらすぐにアーティスト路線に移行するから。心配しなさんなって!」
そういったプロデューサーは口から出まかせばかり言うクソ野郎だった。
「枕営業?何それ?当たり前の事でしょ!なんで営業って言うかな~」
これがクソ野郎の信条である。勿論璃音は枕営業など断固としてしていない。そこまでして芸能界にしがみつく事に意味を見出せなかったからだ。
いつだって辞めてやんよ!それが彼女の心意気である。
そんな武闘派アイドル?な璃音の唯一の癒しがゲームであった。ただしプレイするのは据え置きゲーム機用のソフトに限られる。
なぜなら大きな画面でプレイしてこそ、ゲームの持つポテンシャルや壮大なスケール感が味わえるからだ。筋金入りのゲーマー、それが松野璃音の正体であった。
そのこだわりは彼女の外見にも表れている。小ぶりな耳に装着されたおおぶりのイヤリングの形状は家庭用ゲーム機を模していた。
”プレイステーション3”(初期型)
反対側、つまり左側の耳には違う家庭用ゲーム機を模したイヤリングがその存在感を魅せつけている。
”ニンテンドーゲームキューブ”
どちらも凛音が個人的に気に入っているデザインのゲーム機である。
凛音は他にも据え置き用ゲーム機をイヤリングやブレスレットにしていた。
個人的に親交のあるアクセサリー職人に頼んで創ってもらったのだ。いわばカスタムメイド。日によってゲームアクセサリーを変える、璃音はそんなシャレオツゲーマーでもあった。
だがゲーム一色になるコーディネートは敢えて避けている。あくまでもピンポイントで組み合わせる。
そんな所がオシャレにうるさい芸能人を彷彿とさせていた。
ゲーム好きのアイドル自体は決して珍しいものではない。だが彼女はデビュー当時からゲームに対しての愛情をハッキリと口にしていた。
その知識もハンパではなかった。付け焼刃な知識を披露する芸能人が多い中、璃音のゲーム愛は飛びぬけていた。
動画配信にも早くから取り組んでいる。内容はバラエティに富んでおり、自身のオリジナル曲の発表、アイドルとしての企画物、ゲームに関しての動画など様々だ。
今ではゲーム専門のチャンネルも立ち上げている。どちらのチャンネルも登録者数は既に200万人を超えていた。
薄暗い室内でパソコンのモニターをじっと凝視していた璃音は何かを決意したのか、何度も頷いた。
「据え置きゲーム推進委員会、、、面白そうなユニットね。何々、、、メンバー一人しかいないじゃない!大丈夫かな、、、まぁいいや。えい!」
据えゲー会(勝手に略称決めた)宛にDMを送る。内容は言わずもがな。
据え置きゲームに対しての熱い気持ちを書きなぐったのだ。ある意味ラブレターといえた。
ちなみに松野璃音は一度も恋文を書いたことはない。彼女は恋愛に疎い恋愛弱者だった。
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