召喚

東京都渋谷区恵比寿駅近くにあるエンタメ巨大複合施設”恵比寿ガーデンプレイス”。

その入り口付近を待ち合わせ場所に指定した松野凛音はターゲットである三上軍平の姿を見かけるやいなやその場に魔法陣を展開した。


究極の極大召喚魔法である”ブンガ・ワン・ソロ”を唱え始める。そう、彼女は伝説の魔導士マ・ツノ・リーオだったのだ!


、、、実際はそうではなかったが。彼女は普通の若い女性である。

いや、普通と呼ぶにはいささか美人過ぎていた。


軍平と璃音はお互いの服装で本人確認を行う事に決めていた。もちろんゲームグッズを見につけるというルール設定である。


軍平はグレーのハーフコートにモスグリーンのカーゴパンツというカジュアルテイストなコーディネート。


だがインナーのTシャツはゲーム業界の良心、職人集団トレジャーが手掛けた伝説のシューティングゲーム”斑鳩”である。

言うまでもなくお気に入りの一品だ。


対する璃音は濃いブルーのセルサングラスをかけ、薄いピンクの布マスクをしている。

目の覚めるように鮮やかな青のライダーズジャケットがピシッと決まっている。


インナーはシンプル極まりない白のTシャツだがシルバーのややごつめのネックレスを首にしており、それが微妙にアクセントになっていた。


デニムのミニスカートから伸びる足は抜けるように白くなまめかしい。

彼女が見につけているゲームグッズはキャップだった。


バイオハザードに登場する特殊部隊スターズのロゴが眩しい。

こんなオシャレなバイオキャップがあるなんて、、、、軍平は少し驚いた。


さらによく見ると彼女が手にしているハンドバッグ、アレは!

何とFF13の主人公であるライトニングさんとハイファッションブランド、ルイ・ヴィトンの限定コラボモデル!


こりゃ目立つわ。ていうか実際に販売されてたのか。

一体この女、何者なんだ?なんだかリッチな感じがプンプンするが、、、まさかコイツ、女詐欺師なのでは?やにわに警戒し始める軍平。


だが女詐欺師=峰不二子という安直な連想が軍平の顔をついにやつかせてしまう。

そう、彼は豊満なボディの女性が好みなのだ。突如にやつき始めた目の前の男にたじろぐ璃音。


そのネガティブリアクションにはっと気が付いた軍平は己を戒めた。

落ち着け!俺!目の前の女性をよく見ろ!彼女はスレンダーなボディをしているじゃないか。いやでもよく見ると、、、、出ている所はちゃんと出ているな。


軍平はオスの本能を押さえにかかるや何とか気を取り直した。自称紳士らしく目線を彼女のボディからさりげなく外す。


するとハンドバッグの中からチョコンと顔を出しているニンテンドースイッチライトが目に入った。またしても邪な感情に捉われる軍平。

ふ、富裕層め!


お互いのファッションをしっかりチェックしていた2人は挨拶すらしていない事にようやく気がついた。慌てて口を開く。


「どうも、松野璃音といいます」

「どうも、三上軍平といいます」

「、、、、、、、、、、、、、」


お互い無言の沈黙が数十秒間続く。まるで性能の低いゲーム機のロード時間並であった。

しかも芸能人にまるで興味がない軍平は待ち合わせの相手が人気アイドルだという事にも気づいていなかった。


だが彼女が一般人でない事は一目瞭然だった。その肉体から醸し出されるオーラがハンパないからである。


「あの!!!」

「あの、、、」


尻上がりと尻下がり、正反対のイントネーションが微妙なコラボを奏でた。とても同じ言葉とは思えない。意外と2人は相性がいいのかもしれなかった。


先に言葉を紡いだのは璃音だった。

「動画観ました。中々面白かったです」

「ありがとう」


軍平は素直に返事を返した。直に褒められると何やら照れくさい。

軍平はいたたまれなくなったが同時に誇らしさも感じていた。


「、、、、、、、、、」

だが無言の沈黙がまたしても数十秒続く。まるで出来の悪いゲームのロード時間のように。


実際の時間はそうでもないのかもしれないが体感時間としてひっ!じょうに長く感じてしまう。


ゲームの場合、ロード時間というファクターは非常に重要だ。快適にプレイ出来るかどうかを担う部分であり、ヘタをすると作品の評価に関わる場合もある。


だが今璃音と軍平が置かれている状況はそこまで深刻なものではなかった。

それに先ほどの沈黙よりも若干短かったのが救いといえば救いだったからだ。


「あの、、、」

「あの!!!」

同じことを繰り返すまるでベタなショートコントのような展開に二人は思わず吹き出した。


「とりあえず喫茶店でも行きましょう」

凛音の誘いに合意した軍平は彼女の後をついていく。


2人は通り沿いにある明るくこじゃれた茶店に入った。普段の軍平なら絶対に立ち入る事のないリア充御用達のオシャレな店だ。


窓側にあるボックス席にお互い腰を下ろす。早速メニューを見はじめる璃音。勝手知ったるのか素早く注文を決めた。


オーダーはストロベリーティー&プチケーキセット。

対する軍平はストロベリーパフェを頼んだ。


ここはコーヒーが無難なんだろうが、食べたいものを食べたいときに食べる、もしくは飲む!というのが彼の信条なのでこれは仕方がない。


それにしてもただの偶然か何かのコラボなのか?ユニゾンともいえるイチゴ繋がりに璃音の顔が少しばかり引きつっている。


注文を終えた璃音は装着アイテムであるサングラスとマスクをパパっと外す。ようやく全貌を現したであろうその顔を軍平はまじまじと見た。

目鼻立ちのハッキリしたお人形さんのように非常に整った顔立ち。


軍平は少し驚きつつ彼女の顔を更にガン見した。

外科整形では決して実現する事の出来ないナチュラルな造形。まさに神が与えたもうた芸術!


そこまで言うとアレではあるのだが相当可愛らしい顔つきをしているのは間違いがない。パッチリお目目に通った鼻筋、小ぶりな唇は思わず吸い付きたくなるほどだ(変態か!)


凛音のファッションは全体的にあか抜けた印象を見る者に与えている。

髪は長めでポニーテールにまとめてあった。結構な栗色をしているがこれ以上やるとケバくなるというポイントの手前でちゃんと抑えてある。


化粧もナチュラルメイクっぽい。元の素材がいいのだろう。すっぴんでも羨ましがる女子は多いであろうと思われた。

軍平は意を決して尋ねてみる。


「あの、、、もしかしてタレントさんかなにかですか?」


すると彼女は何か信じられないものを見るような目でこちらをねめつけた。

どうやらその時その時の感情がその都度顔にしっかりと出るらしい。実にわかりやすいキャラだ。


しかし数秒もするとにこやかな笑顔に変貌する。その変わり身の早さに軍平は舌を巻いた。


「、、、、、ええ、まあ。一応アイドルやってます」

「アイドル!へえ、、、凄いなぁ」


「あなたは?」

「ゲーム業界の釈迦を目指しています。なんちゃって!」

シラーっとした空気が辺りを漂い始める。


「え、え~とそれはいいとして。中々面白い事やってますね、据え置きゲーム推進委員会なんて」

「あ、ありがとうございます!色々苦労しておりますが」


「で、話というのは他でもなくて、、、、私を据え置きゲーム推進委員会のメンバーとして加えてもらえませんか?」

「は?、、、そうっすね、、、、いいと思います。ていうか歓迎します!やっぱり同士がいないと張りがないというか。一人は寂しいっすから」


「そうでしょう?じゃあ決まりっていう事で」

「ハイ、よろしくお願いします!」


どちらが委員長なのかわかったもんではないリアクションを取る軍平。

よく考えもせず即決した事にまるで疑問を感じていない。だが数瞬後、彼は後悔する事になる。

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