ステージ2
瞬殺
「悪いんだけどさ。出てってくんない?」
「へ?」
もはや老人の域に達しようとしている年配の大家、笘篠修≪とましのおさむ≫がいきなり来襲してきたのだ。しかも直接俺の自室に。
一体何事かと慌てたが、想像以上に事態は深刻だった。
要は一方的な退去通告ってやつを告げられたのだ。
あまりにも非情な大家の言葉に思わず耳を疑う俺。寝耳に水とはまさにこの事だった。
「この物件は定期借家だから契約更新がないのは知ってるよね?」
「え?なんすか、それ?」
すっとぼけた返答をした俺に業を煮やした大家の説明によれば、定期借家とは一定の期間を経過すると契約が自動解消される仕組みらしい。
契約書類をろくに見もせずサインした俺にとっては想定外の出来事だ。
だが曲がりなりにも法律である。仕方あるまい。
俺はとりあえず了承した。せざるおえなかっただけなのだが。
結局今住んでいるワンルームマンションを今月末までに引き払わねばならなくなった俺は頭を抱える。
滞納していた3か月分の家賃を支払ったばかりだというのに。オー!なんてこった!
「とりあえず残金は、、、、、3217円か。厳しいな」
肩をすぼめて歩く俺。第三者が見ればあからさまにみすぼらしい様子だろうな。
しかも年の瀬である。なのにこの仕打ち、、、あんまりであった。
だが捨てる邪神あれば拾う善神あり。
俺は新宿歌舞伎町にある雑居ビル五階のエログッズ専門店"ムッシュムラムラ"でアルバイトをしていた。
店長は道を極めた者系の結構な強面である。だが実は気さくで面倒見がいい。
俺は苦しい台所事情を店長に話した。
すると「店舗横の四畳半ほどの空き倉庫でよけりゃしばらく生活してもいいぞ」との許可をもらった。
いよっしゃ!これでとりあえずはホームレスになる事は回避できる。
だがインターネット環境などは望むべくもないつまり。手持ちのスマートフォンが俺の生命線になる。
だが一番の問題はテレビが無いことだ。くだらなさ過ぎて観ていると頭が痛くなるテレビ番組などもはやどうでもよいがテレビが無いとゲームが出来ない。
コアゲーマーである俺にとっては死活問題だ。
”空気・水・ゲーム”
この3つが俺が生きていく上でどうしても必要なエレメントだからだ。
フレッシュとは程遠い新生活をなし崩し的に始めた俺。まずは自炊にチャレンジする事にした。
空き倉庫といってもそのように使用しているというだけで実質はただの四畳半の部屋である。
だが風呂こそないものの小さいキッチンは備え付けられていた。食費の節約も兼ねて簡単で手間のかからないメニューをネット検索し、作ってみる。意外と上手く出来た。味もまあまあ美味く、体にもよさそうだ。
飯をコンビニで調達する事が多かった俺にとっては新たな発見だった。
自炊最高!でも作ってくれる家政婦さんがいればもっとよかったのに!
単なるわがままでしかない願望を俺が思い描くのも仕方のない事だろう?
「俺は据え置きゲームの伝道師、、、、、いや、、、釈迦になる」
第三者が聞けば頭がイカれているとしか思えない戯言をおんぼろソファに寝そべりながら呟く。
だが俺はいたって大まじめだ。
どうせ目指すならゲーム業界の神になってやる!
伝説、、、そう俺はゼルダになるのだ!いやダメだ、それじゃ女装しなくちゃなんない。
方向性違うって!でもリンクになるのはなぁ、、、、
ぶっちゃけただの戦士だし。ヤッパ神でないとな。
じゃあ戦いの神は?そう、ゴッド・オブ・ウォー?いかつい禿オヤジか、、、、いやぁ~ん!
とりとめのない空想に耽るのも一人暮らしの特権である。
生活自体は質素でも俺は若者らしさを十二分に満喫していた。
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