河童
花道は傘売りを終え、長屋に帰る。
未来は丁度洗濯を終えていた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
(花道)
イズナは帰ってくるなり険しい顔で見ている。
「何か感じたのか?」
(何か得体の知れないモノが江戸に迫っておる)
「それって依頼になるの?」
未来は問いかける。
「仕事じゃなくて申し訳ありません」
「はぁ〜。いい加減にまともに仕事してよ」
「勝手に押しかけてよく言いますね?」
そこに毎回ながら剛が依頼をもって押しかける。
「花道いるか!」
「何ですか?」
「橘家からご依頼だ。今回の報酬は前払いになる」
「早急に対応しろとおっしゃるのですか?」
「橘家は大名と深い繋がりがある名家だから充分に失礼がないようにしてくれ」
「あなたこそ勝手に扉を破壊しないでください」
未来はイズナに耳打ちする。
「ねぇ、あの人も陰陽師なの?」
(花道の上司にあたる)
「小妖怪が小娘に余計な詮索をさせるな」
剛は去っていく。
「イズナ。未来さんを頼みますよ」
橘家。
橘彦蔵は邸の庭の池で花道と話をしている。
「わしは池で鯉を鑑賞するのが趣味でのぅ。しかしご覧の通り池の水が濁って鯉は死に見るに耐えない」
「本当に酷いですね。それでいつからそうなりましたか?」
「たしか一か月前だったと思います」
花道はある確信をつく。
「河童ですね?」
「河童ですか?」
花道は印を結び、呪文を唱える。
それが苦しかったのか?
池から河童が飛び出る。
「なっ、妖⁈」
(や、やめてくれ〜!)
「この妖が我が趣味を台無しにしてくれて何という無礼知らずか?」
「橘殿。河童の気持ちも考えたらどうですか?」
「何を言う?妖なんぞの気持ちなど知る気がせぬっ!」
「棲家を奪われ、強欲になった御主は下民の気持ちを知る必要がある」
花道は橘に向けて札を飛ばすと彼は跡形もなく、消し去る。
「次に生まれ変わるならば庶民として生きよ」
花道は河童に向き直る。
「二度と人の地に来るな」
河童は花道に怯え、二度と江戸に姿を見せることはなかった。
「池の水が濁ったのは貴様の心だ」
花道は曇った西の空を眺め、邸を後にする。
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