扉 ～カクテルの味は恋の味?～

葛城さんの秘密・・・

キャンプの後、また葛城達は忙しくなった。それでも毎晩の電話と金曜日のPortaでのみんなとの飲み会、そして葛城のマンションでの週末お泊りは変わらなかった。きっと努力してくれているんだと思うと真奈美は幸せだった。

でも一つだけ気になっていることがあった。

— 前に聞いてしまった葛城さんが忘れられることって何なんだろう・・・

— これは知らないほうがいいのかもしれないけど・・・

— でも気になる・・・

真奈美は悩んだ末に華に連絡を取ってみることにした。

「華さん。」

「あっ、真奈美ちゃーん。元気? キャンプ楽しかったね～。また行こうね。」

「はい。お世話になりまして、ホント楽しかったです。」

「ね～、楽しかった。ぜったいまた行こうね。で、今日はどうしたの?」

「あの・・・お聞きしたいことがあって・・・」

「えーっと、葛城君のことよね。」

「はい。」

「知っていることならなんでも教えますよ。どうする? 昼間家に来る? 子供居てうるさいかもしれないけど・・・」

「いいですか、お邪魔しても・・・」

「うん、来て来て。なんならこれから来る?」

「はい。」

「じぁあ場所ラインするね。」

真奈美はプリンを途中で買って加納家に向かった。

「いらっしゃい!」

華は明るく出迎えてくれた。

「丁度良かった。今息子が寝たからその間に話しましょ。さてと、何が聞きたいのかしら?」

「あの、先日加納さんと榊さんが話しているのを偶然聞いてしまったのですが、“これで葛城も忘れることが出来るな”って・・・その忘れられることって何かが気になってしまって・・・」

「あー・・・そう・・・聞いてしまったのね。まったくあの二人ったら・・・真奈美ちゃん、今葛城君は真奈美ちゃんのこと本当に好きだと思う。よく会社でのろけ話しているみたいだし、何も心配することはないわ。だからホントなら聞かなくてもいいことだと思うけど、気になっちゃったんならしょうがないわよね。お話しするわ。葛城君には大学時代から付き合っていた女性がいたの。大学卒業してからも付き合っていて、みんな彼女と葛城君が結婚するのを疑わなかった。しかし、そんな彼女が今から7年前に病気で亡くなってしまったの。あまりにも急な別れだったから、葛城君はそれを受け入れられなくてとても見ていられないほどだった。それからはずっと仕事に打ち込んでいたわ。打ち込むというよりは逃げていたというかんじかな。その後まもなくして今度はご両親を不慮の事故で亡くされて、葛城君はなんだか人生に絶望していたと思う。それからは誰ともお付き合いしなかったのよ。だからね、私たちは葛城君が真奈美ちゃんのことを気になっていると聞いた時からうれしくてね、みんなで応援しようって決めたのよ。」

「葛城さん・・・そんな辛いことがあったのですね・・・」

「そうね。加納と私は大学の時からずっと葛城君と一緒だったから、当時はとにかく心配したわ。葛城君は大学卒業して間もなくして一人で会社を始めていたのだけど、彼女が亡くなった後、加納は葛城君のことが心配で自分の勤めていた会社を辞めて葛城君の会社に入ったの。榊君は葛城君とよく一緒に仕事をしていたから、彼も同じように心配だったのよね。それで彼も葛城君の会社に入ってきたわ。それからは3人で黙々と仕事をしていた。徐々に氷が解けるように葛城君の心も溶けていったの。そうそう、ジョニー君は榊君とその当時から付き合っていて、あんな感じで明るいでしょ。だから彼はいつの間にか会社に入っていたのよね。そんな感じで、とにかく葛城君の周りにはおせっかいな人がいっぱいいるのよ。」

「葛城さんの人徳ですね。」

「そうね。彼は人を引き付ける魅力がある。でもなんか放っておけないところも併せ持っているのね。」

「なんかわかります。」

「今葛城君はとても幸せそうだわ。真奈美ちゃんのおかげね。」

「私、その彼女さんと比べたらきっとダメダメだと思うし、特になにも葛城さんにしてあげられていないけど、私なんかでいいんでしょうか・・・」

「何言っているの。真奈美ちゃんは葛城君の側に居ればいいのよ。葛城君が真奈美ちゃんと居たいっていうんだから今のままでいいの。」

「私も、彼の側にずっと居たいです。」

「大丈夫よ。きっともうすぐいいことがあるわ。」

華はやさしく真奈美に微笑みかけた。

子供が目を覚まし、すごい勢いで泣き始めたので華は急にバタバタし始めたので、真奈美は華にお礼を言って加納宅を後にした。

　真奈美は華から聞いた葛城のことを帰りの電車の中で考えた。

— 葛城さんは昔の彼女のことはきっと忘れることはない。私が真柴さんのことを忘れられないように。でも、私は葛城さんとお付き合いを始めてから真柴さんとのことは淡い思い出になりつつある。だから、葛城さんもできれば昔の彼女のことはそうなって欲しい。

— 今私は葛城さんとお付き合いしているんだから葛城さんを信じよう。

真奈美はそう心に決めた。