扉 その5

新しいお客様

クリスマスもお正月も静かに過ぎていった。


— マスターは以前と同じように、私にやさしく接してくれている。

— 自分にもあんなことがあったのに、もう一切何も言わない。

— 大人・・・



3月・・・

少し寒さも収まりここのところ春を予感する日々が続いている。

真奈美は相変わらずの生活をしている。でもこの春変えたことがあった。メガネを外し、髪を切りショートボブにした。

そして、ネックレスも外した。外した時は、手に痕が付くくらいずっと握りしめた。捨てることは出来なかった。いい思い出であることには違いないから・・・大切に引き出しにしまった。


マスターは驚いた。


「真奈美ちゃん。イメージチェンジだね。」


「もう春だし、少し気分転換です。」


「いいんじゃない。素敵だよ。」


— 大人っぽくなった。ますます綺麗になってる・・・


マスターはうれしかった。


「ありがとうございます。2月に昇進して、少しお給料も上がったので、これからおしゃれもしちゃいます。」


マスターは、真奈美が元気になったことを喜んだ。



4月・・・

「真奈美ちゃん。ゴメン、少し留守番頼んでいい? 買い物してくる。まだ開店前だから誰も来ないと思うけど。大体15分くらいかな。」


「わかりました。大丈夫ですよ。いってらっしゃい。」


「よろしく~」


真奈美はいつもの席で経理の仕事をしながらマスターの帰りを待った。


5分くらいで扉が開いた。


「速かったですね。」


真奈美は頭を上げた。


「あっ・・ごめんなさい。」


背の高い、すらっとした爽やかな男性が立っていた。


「あの~お店は何時開店ですか? 」


「6時半です。すみません、今マスターが出掛けているので、よかったらおかけになってお待ちください。」


男性は時計を見た。


— あと10分か・・・


真奈美は立ち上がり、カウンター席にその男性を通した。


「どうそごちらに。もうすぐ戻りますので、こちらでお待ちください。」


「ありがとうございます。」


そう言って、男性はカウンター席に座った。


「お店の方ですか? 」


「従業員ではないんです。少しお手伝いをしています。」


「そうですか。このお店素敵ですね。僕、最近この近くに越してきて、今日はオフだったので町を散策していたんです。そうしたら、素敵な扉が見えて・・・まだクローズのプレートが掛かっていたのは知っていたのですが思わず開けてしまいました。」


「お店の名前ですが、イタリア語の扉Porta って言うんです。マスターが〝この扉を開けることで新しい出会いが出来ますように〟と付けたんです。マスター学者のような顔をしているんですけど、ちょっと似合わずロマンチストで・・・フフフ」



「ただいまぁ~ あれ、お客さん? ゴメンナサイ。お待たせしました。」


「すみません、開店前に。扉が素敵で、どうしても開けたくなって入ってしまいました。今、こちらの方からお店の名前の由来聞いていました。」


— ホントだ、ちょっと顔に似合わないかも・・・


「そうですか。真奈美ちゃんありがとね。」


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