岸さんゴメンナサイ  *カクテル6

次の週の金曜日、真奈美はPortaに来なかった。

連絡もなく来なかったのは初めてだったのでマスターは心配して電話をしてみた。

マスターはわざと少し明るい声で話した。


「真奈美ちゃん、風邪でもひいた? 大丈夫? 」


「大丈夫です。風邪ひいていないです。ちょっと岸さんに会いたくなくて・・・」


「岸君今日来ないよ、だからお店においで。今日は真奈美の大好きなコッパがあるよ。」


「・・・マスター優しい・・・一時間後位に行きます。」



「ご心配おかけしました。」


真奈美は前のようにメガネをかけて来た。

マスターは真奈美にコッパと赤ワインを出した。


「はい、真奈美ちゃんの好きな物。」


「ありがとうございます。・・・うーん、美味しい。やっぱり、最高・・・」


「少しは元気出た? 」


「すみません。気を使わせてしまって。」


「あのさ、岸君のこと、聞いていい? 」


「あの~」


「聞いちゃったんだよね。岸君とのやり取り・・・あの夜。」


「そうですか・・・恥ずかしい。」


「話したくなければいいけど・・・」


「いえ、お話します。岸さんのこと、ずっと気になっていました。正直まだ好きかどうか自分でもわからなかったんですけど、岸さんの話す声・・・なんだかとっても好きで・・・真柴さんのこと忘れたかったから、岸さんなら忘れさせてくれるかな、と思いました。だから、思い切ってメガネ外したりお化粧したり、いつもの自分から脱したくて・・・。でも、岸さんからいきなりキスされて。そうしたら、なんか違うって・・・確信してしまって・・・」


「じゃあ、もう岸君は・・・」


真奈美は頭を横に振った。


「わかったよ。岸君には僕からうまく言っとくよ。」


「すみません。お客さん一人失っちゃいますか? 」


「大丈夫だよ。彼には違う曜日に来てもらうから。」


「ありがとうございます。」



その後、岸は金曜日以外に数回来ていたが、その後来なくなってしまったらしい。




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〖カクテル6〗


カップルはいつも楽しげに話していた。

でもある日女性は、難しい顔をして彼氏に話しかけた。

彼は驚いた顔をして、必死で彼女に問いかけている。

男性は、いたたまれなくなり店を出ていった。

その後も女性は毎週のように店に来ている。

そして必ず『カサブランカ』を頼んだ。

女性から別れを切り出したものの、本当はまだ彼に未練がある。

でも自分からは素直になれなかった。


『カサブランカ』

“甘く切ない思い出” というカクテルワード。

あの人は今、幸せにしているのかしら? と思いを寄せる。


 ラムドライジン

 パイナップルジュース

 グレナデンシロップ。

 ビターズ

 ※アルコール度数 中


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