岸さんからのアプローチ

11月のある金曜日、少し遅くに岸さんはportaにやって来た。彼のいつもの指定席はカップルで埋っていた。

マスターは、岸に私の隣の席を勧めた。


「岸君、こちら真奈美ちゃん。毎週いるから気になっていたでしょ。僕が経理ダメだから手伝ってもらっているの。」


「初めまして、真奈美です。マスターにはいつも良くしてもらっています。」


「こちらこそ、岸って言います。よろしくね。そうか、経理をしていたのか・・・(パソコンを見て) まだ仕事中? 」


「いえ、今日はもう終わりました。」


真奈美はパソコンを閉じた。


「よかったら少し話し相手になってくれる? 」


「あっ はい。私でよろしければ。」


岸は頬杖をついて真奈美をじっと見た。

真奈美はその視線に顔を赤らめた。


「真奈美ちゃんって呼んでいい? 」


「はい。みんなそう呼んでくれています。」


「いつもメガネ掛けているの? イャ、仕事中だけなのかちょっと気になっちゃって。」


「殆どメガネ掛けています。」


「ちょっとメガネはずしてもらっていい? 」


「えっ? 」


岸は、そーっと手を伸ばしてきて真奈美のメガネをはずした。


「やっぱりその方がいい。」


真奈美は恥ずかしくて真っ赤になった。


— この人いきなり何するの・・・


「いきなりゴメンね。僕 実はメガネ屋なの。でもね、ホントはメガネ掛けていない方が好き。会社では言えないけどね。ハハハ。」



マスターが戻ってきた。


「あー岸君、真奈美ちゃんの素顔見ちゃったのぉ? 隅に置けないな~。」


「僕メガネ屋ですからね。メガネに興味あったんですよ。」


岸はマスターにウインクした。


「マスター、真奈美ちゃんは誰かのもの?  僕、さそってもいいの? 」


「僕に聞かないでよ。本人に聞いてよ。少なくとも僕のではないよ~」


マスターはおどけて言った。


「真奈美ちゃん明日暇?  デートしてくれない? 」


真奈美は慌てた。


— どうしよう、マスターどうしよう・・・


マスターに頼るような目で見た。


「真奈美ちゃん、岸君の身元は保証するよ。あとは自分でね。楽しんで。」


「あの岸さん、まずはゆっくりお友達からなら・・・」


「OK。」



マスターが他の人と話始めると直ぐに岸が真奈美の耳元で言った。


「僕しつこいから覚悟してね。」


岸の低めの声でゾクッとした。久しぶりにうずいた。


真奈美の鼓動が高鳴った。


— あー、私どうしちゃったんだろう・・なんだか・・・久しぶりの感覚・・・


岸は真奈美の顔を見で微笑み低い声で言った。


「今日もデートしようか。近くに遅くまでやっている夜景のきれいなバールがあるんだ。行く? 」


真奈美は恥ずかしそうにうなずいた。


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