ブラジルは遠すぎる *カクテル3
金曜日が来た。
— まだ迷っている・・・仕事も手に付かない。ミスばかりしている・・・
— 心臓の高鳴りが・・・顔がこわばる・・・
Portaに着いた。
マスターは何も言わない。
真柴は21:00近くに駆け込んできた。水曜日から殆ど寝ていないみたいだった。
「早速だけど真奈美、どうかな、考えてくれた? 」
真奈美は真柴の顔を見た途端、涙が出た・・・なかなか言葉が出ない。
「真柴さんのこと好きです、大好きです。でも同じくらいここPortaが好き。Portaがないブラジルで暮らす勇気がない。・・・私には無理・・・行けません。ここで真柴さんが帰るのを待っていてはいけませんか? 」
「そうか・・・」
真柴は頭を抱えた。落ち込んでいる・・・
「真奈美・・・僕は真奈美のこと、大好きだ! バックに入れて無理やりでも連れて行きたい! 離れるのはつらい! 僕を待っていてくれるという気持ちはうれしいけど、今回はいつ戻ってこられるかわからないんだ。3年なのか、5年なのか・・・10年かもしれない。だから待たすことも出来ない。強制はできない。もう一度聞く、それでも一緒に来ては貰えないか? 」
真奈美はずっと下を向いて、泣いている。
沈黙が続いた。
「・・・会社に戻る。また連絡する・・・」
真柴は後ろを振り返ることなく速足で店を後にした。
真柴からその後連絡はなかった。真奈美もしなかった。
次の週の金曜日、マスターから聞いた。真柴がブラジルに発ったことを・・・。
あまりに急な別れ・・・何も考えられなかった。
時が止まったようだった・・・
それでも真奈美は金曜日にPortaに来た。
優しいマスターは何も言わず迎え入れてくれた。何も無かったかのように・・・
— 前に戻っただけ、楽しかったあの日々はきっと夢だったんだ・・・・
そう想いたかった。
無意識にネックレスをギュッと掴んだ。
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〖カクテル3〗
夏の終わり、いきなりの雷雨。雨に濡れた男性が飛び込んできた。
先に来ていた女性と待ち合わせのようだ。
彼女が差し出すハンカチで雨をぬぐい、彼は静かに席に着く。
二人で静かに少し話していたけど、男性は先に帰っていった。
女性は、バーテンダーに “『ギムレット』をシロップ少なめで”、と頼んだ。
気丈にも女性は、このカクテルを沈黙の中飲んでいる。
『ギムレット』
イギリス海軍の軍医であったギムレット卿が、ジンを飲みすぎる将校たちの健康を案じてジンにライムジュースを加えたと言われている。
レイモンド・チャンドラの小説「ロング・グッドバイ(長い別れ)」に出てくる“ギムレットには早すぎる”というセリフはあまりにも有名。
飲み口の鋭いギムレットは、失恋の痛手に刺さる一杯だ。
カクテル言葉は “遠い人を想う/長い別れ”
ドライジン
ライムジュース
シュガーシロップ
※アルコール度数 高
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