短編

獅子吼れお🦁Q eND A書籍化

体に悪いものほど美味い

「ですから、シェフは呼べません」

「この私が、呼べと言っているんだ。こんな店を潰すなど、簡単なんだぞ?」

 私がここまで言ってようやく、店主はため息をついて、頷いた。

「わかりました、白状します。実は当店には、特定のシェフはいないのです。毎回、お客様にあわせたシェフを呼んでいるのです」

「何?」

 そんな店など聞いたことがない。

「庖丁式をご存知ですか?神に捧げる料理を、ケガレることのないよう、手で直接触れることなく作る儀式です。逆に言えば、庖丁式に則らないすべての料理はケガレているのです。勿論、疫学的な意味ではなく」

「何が言いたい」

 私が怒鳴ると、店主は薄く笑った。

「お客様が当店にいらっしゃると聞いて、試しに声を掛けてみたら、思った以上に大勢のシェフが集まりました。あなたが潰した店のオーナー、あなたが自殺に追い込んだシェフの息子、他にも沢山」

「ま、まさか毒を」

「とんでもない!ただ皆さんに、文字通り念入りに、作っていただいただけです。体に悪い物ほど美味と申しますから。たっぷりの怨念、さぞ美味だったことでしょう」

 私は思い出す。特に絶品だった、手捏ねのハンバーグ。

「では……シェフを呼びましょうか?」

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