『お願い叶えてもらおう大作戦!!!』

 ――夢の中。

 

 その時の俺は不思議と、そのことを感覚的に察していた。これは俺が見ている夢なのだと。

 

 それは今までに何度も何度も見たことのある夢だった。場所も時間帯も登場人物も何一つ変わらない。風のぬくもりも、空気の匂いも、星の瞬きも、何もかもが寸分の狂いもない。まるで映画のワンシーンをリピートしているみたいに。


 この夢はいったい何なのだろう。


 目覚めた瞬間の俺は何度もそのことについて考えた。


 もしかすると幼いころの忘れてしまった体験を思い出しているのかもしれない。そもそも体験すらしていないただの幻想なのかもしれない。


 リアルの俺はこの夢で見た内容を実際に体験した覚えはない。だけど何度も見ている内にそれは現実にあったことなのではなないかとさえ錯覚してしまうほどにはなっていた。


 そして毎回決まって、俺はその夢を俺としてではなく第三者視点として俯瞰してみているのだ。


 俺は大気に溶け込み透明な物体として、夢の中の俺自身を俯瞰してみている。


 時代はおそらく俺が幼稚園児だったころ。登場人物は当時の俺を含め全部で三人だ。だけど、俺以外の二人は黒のクレヨンで塗りつぶされたようにシルエット状にな

っていてぼんやりとしか見えない。ただ背丈が当時の俺と同じくらいなので、二人とも俺と同じ幼稚園児なのだろうなと思う。


 そして、俺以外の二人はどちらもシルエット状にないっているものの目に見える明らかな違いが彼女たちにはあった。それは一人がワンピースでもう一人が短パンを履いているという点だ。


 そしておそらく、俺以外の二人はどちらも女の子だ。


 一人はワンピースを着ているように見えるのだから何も考えなくても女の子だと判断できる、ではなぜ俺が短パンの子の方も女の子だと判断したのか、それは夢の中で交わされる会話での二人の声が明らかに幼女のそれであったからだ。

 幼児だった頃の俺の声ももちろん高いのだが他二人の声はさらに高いのである。


「今日、流星群なんだって」

 ワンピースの少女が言った。


「「りゅうせいぐん?」」

 俺ともう一人の少女が声を合わせる。


「流星群っていうのは流れ星がい~っぱい流れることを言うんだよ!」


「流れ星みてみたい!」

 短パンの少女が声を弾ませる。


「てことは、お願いし放題じゃん!」

 子供の頃の俺が目をキラキラと輝かせた。


「お願いは一つじゃないと叶わないんだよ」


「そうだよ! 欲張りすぎなんだから!」

 

「いいじゃんかー。いっぱい流れ星流れるんなら、いーーっぱいお願い事しないと意味ないじゃんか‼」


「だめだよ。お願いは一つだけ」


「そうよ、二つ以上をお願いしちゃダメだからね! 一つだけ!」

 

 少女二人が人差し指を立て、幼児俺に迫る。

 二人から迫られ、幼児俺がだんだん居心地悪げにたじろぐ。


「むー。わかったよ! そのかわりさ、俺たちだけで今夜、流星群見に行こうぜ!」


 そこで一瞬、時が止まったように誰も話さなくなる。夜のような静けさが部屋を覆う。

 幼女二人はお互いに顔を見合わせ戸惑っているように見えた。と言っても黒のシルエット状で正確な表情までは分からない。 

 そんな状況に堪えられなくなったのか幼児の俺がぱっと立ち上がった。胸いっぱいに深く息を吸いこむ。そして続けざまに威勢よく叫んだ。


「今日の夜は三人の大冒険だ‼ 名付けて『お願い叶てもらおう大作戦』!!!!」


 2人の幼女は呆れたように幼児俺を見つめ大きなため息を漏らした。

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