アリスイントラブル
スマホをぎゅっと握りしめた手が小刻みに震えている。
かれこれこの状態のまま三十分余りが過ぎていた。
今日は土曜日で仕事は休み。それなのにもかかわらず俺は前日に夜更かしも、二度寝もせずに午前六時には起床。
朝食はこんがりと焼き目のついたトースト二枚とコーンスープ、ベーコンエッグにバナナの入ったヨーグルトと胡麻ドレッシングのかかったサラダだ。
それをゆっくりと口の中へと放り込み朝の情報番組を見ながら、時が来るのを俺は待っていた。
窓の外では、これでもかというくらい太陽の光が明るくキラキラと世界を彩っている。鳥たちはそんな太陽に感謝でもするみたいに高い声で囀っていた。
「ふぅー……」
壁に掛けられた丸い時計に目をやり、九時になったことを確認した俺は、ゆっくりと深呼吸を一つした。
同時に額からはじんわりと粘り気を含んだ嫌な汗が滲んだ。
「よしっ、いくぞ……」
鼓舞するようにそう呟いて、俺はスマホに手を伸ばした。そして電話帳からお目当ての番号を素早く探しだす。
その番号はすぐに見つかった。無理もないほぼ先頭のようなものだ。
【アリス】
もう少し探すのに苦労したかった。俺はそう心の中で嘆いた。
しかし何分経ってもそれ以上、指は動いてくれない。時計に目をやると、すでに九時三十分を回っていた。
「何やってんだ俺……」
なんで妹に電話するだけなのに、こんなに時間かかってんだよ。
もう一回、精神を落ち着かせよう。
そう思ってスマホをベッドに投げた瞬間だった。
画面に親指が触れ、強制的にアリスへと繋げられてしまった。
慌てて切ろうかとも思ったが、くよくよ悩んでいても仕方がない。この勢いのまま乗り切ってやる。
プルルルル……。
プルルルル……。
プルルルル……。
プルルルル……。
プツン‼
出ることができなかったわけでもコール音に気付かなかったわけでもない。明らかに俺の電話に気付いておきながら故意に電話を切ったのだ。
懲りずに俺はもう一度【アリス】と表示された画面の通話ボタンを押す。
プルルルル……。
プルルルル……。
プツン。
「当たり前か」
ふんっと鼻を鳴らして俺は小さく笑った。
スマホをひょいっとベッドに投げ捨てる。
「お前の役目は終わりだ」
捨て台詞のようにスマホに向かって俺は言った。
もう諦めよう。
アリスに電話して実家に帰ることだけは伝えておこうと思っていたが別にもういいや。
行くのやめぴーー!
両手を上げベッドに身体を預ける。
ふいに夢で見た鹿沼との思い出が浮かび上がる。
ぐぬぬぬっ。
「あぁ、もう、わかった!」
やればいいんだろ!!
「電話に出ないつもりなら、アポなしで行ってやるよ。俺はもう、あの頃の俺じゃない。逃げない!
鹿沼からも家族からも高校時代の思い出からも!」
そう意気込んで俺は勢いよく立ち上がり、テーブルに置かれた2リットルペットの麦茶を一気に飲み干した。
ごくごくと大きな音が部屋中に……否、アパート中に響き渡る。
「向こうがそういうつもりなら、今から行ってやる。!逃げる時間なんてないからなアリス」
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