第33話 カジノロワイヤル


 カジノにはいったガウレアはメンバーたちに3万クロードずつのチップを渡してやった。


「さあ、これで存分に楽しんどいで!」


 メンバーは喜び、思い思いのゲームをしに散らばった。

ここには各種のカードゲームやダイスゲームなどがそろっている。


「デュマはなにをやる? 今夜はずっと横にいてアンタの妙技を見せてもらうよ」


「私も一緒に行くわ」


 ガウレアとルクシアが両脇にぴったりと寄り添い、シリウスは帰るに帰れない状況になってしまった。


「こらぁ、ご主人様から離れなさい! おっぱいが大きいからといって遠慮がないのは許しませんよ」


「そ、そうだ。姐さんたちから離れろ!」


 リセッタだけでなくトランまでシリウスたちについてきたではないか。

ガヤガヤと騒ぐ五人は注目の的になっている。

これ以上目立つのは嫌だったシリウスは近くにあったルーレットのテーブルに座った。


「へぇ、ルーレットをやるんだね。おもしろい、私もつき合うよ」


 ディーラーがルーレットを回してその中にボールを投入した。


「どうぞ賭けてください」


 客は一定時間内にボールの落ちる場所を予想してチップを張るのだが、シリウスは驚くべきことに気が付いた。

魔装鬼甲で五感を最大限まで上げるとボールの落下場所がわかるような気がしたのだ。


「締め切りです」


 ディーラーはこれ以上の賭けを締め切った。

ボールは赤の5番に吸い込まれた。


「デュマは賭けないのかい?」


 ガウレアたちはそれぞれに予想して自分のチップを賭けているがシリウスは動かなかった。


「もう少し様子を見てからにするよ」


 ルーレットで勝ちたいというよりは魔装鬼甲の能力を試したい気持ちでいっぱいだったのだ。

シリウスは五回のゲームを見送って確信を得ていた。

おそらく、次のゲームで出る数字を当てることができるはずだ。


 ディーラーがウィールを回してボールを投入した。

動体視力が上がったシリウスには各数字がどれくらいのスピードで回り、ボールがどの位置にあるのかが見えている。


「リセッタ、赤の5番に全額だ」


 ルーレットから目を離さずにシリウスは指示する。


「ええ? ご主人様、赤の5番はさっき出たばかりですよ」


「いいからそうしてくれ。5は俺のラッキーナンバーなんだ」


 そういえば元婚約者のセティアの誕生日は5月5日だった。

となるとラッキーナンバーでも何でもないような気がするが、ボールが5に落ちることは間違いない。


「もう、どうなっても知りませんからね!」


 リセッタはそう言いながらも、ちゃっかり自分の分も合わせて赤の5番の上にチップを置いた。


「大胆な賭け方をするな。一気に全部使っちまうのかい?」


 ガウレアは言いながら自分は7・8・10・11番のコーナーに1万クロードのチップを張った。

ユリウスたちの一点に集中した賭け方に対して、これは四つの数字への同時掛けで、当たる確率は高くなるが配当率は低くなる。


 続いてルクシアも動いた。


「じゃあ私はデュマを信じて赤に5千クロード賭けてみるね」


 トランはここでもシリウスに挑戦的だ。


「ケッ、赤の5番なんて来るわけがねえ。俺は黒に2万クロード賭けるぜ」


 それぞれの思いが交錯する中でルーレットはまわり続ける。


「締め切りです」


 ディーラーの声が静かに響き、客たちはルーレットの成り行きに注目する。

やがてウィールは速度を落とし、ボールはカラカラと音を立ててルーレットの上を跳ねた。

そして――。


「赤の5番です」


「やりましたね、ご主人様!」


「バ、バカな! そんなのあり得ねえ!!」


 リセッタとトランが同時に声を上げていた。

ガウレアとルクシアは酔いに任せてシリウスに抱きついている。

二つの大きな胸に挟まれてシリウスは蛇に睨まれた美少年のように動けなくなってしまっていた。


「すごいじゃないか、デュマ! まさか当てるとは思ってなかったよ」


「ありがとうデュマ。アンタを信じてよかったわ」


 ディーラーはプロフェッショナルらしく表情を変えずに当りの配当チップを配っていく。

シリウスの前には360万クロードのチップが積まれた。



「え、こんなに?」

 シリウスはわけがわからないという顔で茫然としていた。

それをみてガウレアは大笑いだ。


「なんだい、ルールも知らないでやってたのかい?」


「5番が来ると思ったからそこに賭けたんだけど……」


「デュマが賭けた場所はストレートアップ、36倍の配当だよ。掛け金はリセッタと二人分の10万クロードだから360万クロードになったわけさ」


「ええぇ……」


 まさかこれほどの大金になるとは思っていなかったのでシリウスは困惑気味だ。

これくらいでもうじゅうぶんだろう。


「さて、儲かったしそろそろ帰るとするか……」


 腰を浮かせかけたシリウスだったがガウレアが腕を引っ張ってそれを止めた。


「おっと、もう少し付き合っておくれよ。楽しい夜じゃないか」


「そうだ、勝ち逃げは許さねえぜ! 聞いてみりゃあただのビギナーズラックだ。勝負はこれからだからな」


 別にトランと勝負しているわけじゃないのだが、やつは熱くなりすぎているようだ。

やっぱり帰ろうとしたシリウスだったがリセッタがそれを止めた。


「ご主人様、もう少しだけ遊んでいきましょう」


「いや、俺はもう……」


「まあ、そう言わないでください。私の分のチップもご主人様にお渡しします。もしそれを二倍にできれば720万クロードですよ。三倍なら1080万クロードです」


「いや、しかし……」


「考えてください。それだけあれば洪水でダメになってしまった家具や服を買い替えることができます。必要な量の魔結晶だって買えるのではありませんか?」


「それは……」


 ギャンブルで金を手に入れることは気が引けたが、豪雨のせいで家計は火の車だった。

それに、やはり魔結晶はどうしても欲しい。

目の前には大金がある。

あと一回だけなら……。


 シリウスは椅子に座り直した。


「そうこなくっちゃ! はいはい、ごめんなさいよぉ」


 リセッタはルクシアをシリウスからひっぺがして自分が隣に立った。

そうやっておいてシリウスの耳に囁く。


(あまり派手に勝ってはカジノの人間に目を付けられます。注意してくださいね)


(ああ、ここは短期勝負でいく。次のゲームで終わらせるさ)


(金額によっては配当金を分割で払う、なんて話にもなりかねません。配当率が三倍のところを狙うのがいいかもしれませんね)


(というと?)


(ほら、あの縦のラインですよ)


(わかった。三つある縦のラインのどれかに張ればいいんだな)


 こそこそ話をしているシリウスとリセッタを見てトランが怒りを爆発させた。


「おい、こんなところで侍女とイチャイチャするんじゃねえ。そういうことは帰ってベッドの中でやりやがれ!」


「まあ、モテない男は品がないですね。私は勝利の女神的な侍女として、ご主人様にささやかなアドバイスをしていただけですよ」


「いいからさっさと賭けちまえよ。俺はお前とは絶対に違うところに賭けるからな!」


 トランは意地になっているようだ。

シリウスはボールの動きをよく観察して結論を出す。

次は黒の22番だ。

黒の22番があるのは一番左の列である。


「では、ファーストコラムに全額」


 シリウスの声にその場にいたリセッタ以外の全員が驚いた。


「お、おい、360万クロードを一気に賭けるのか?」


 豪胆で知られたガウレアもこれには心底驚いていた。


「まあ、勝負は迅速に終わらせる主義なので」


 ガウレアとルクシアはもう笑うしかない。


「わかった。私も同じ場所に10万クロードだ」


「アタシも同じファーストコラムに5万クロード!」


 二人はデュマのチップの横に自分のチップを添えた。

だが対抗心を燃やすトランはあくまでもシリウスとは違う場所にチップを張る。


「俺はサードコラムに15万クロードだ!」


 これにはガウレアが眉をひそめた。


「大丈夫なのかい? 今日の稼ぎ以上を張っているじゃないか」


「な~に、勝てばいいんですよ、勝てば!」


 ディーラーがそれ以上のベットを締め切った。

やがてルーレットは速度を落とし結果が眼前に現れる。


「黒の22番です」


「やった! 本当にアンタは幸運の天使だね!」


 ガウレアは周りの目を気にすることなくシリウスに抱き着いた。

ルクシアも運ばれてくる自分のチップにうっとりしている。


「一気に15万クロードとはね! えへへ、新しい服でも買おうかしら?」


 そしてシリウスの前には山のようなチップが積まれた。

その金額1080万クロード。

下級魔闘士にとっては二年分の給料以上の金額である。


「今夜はじゅうぶんに勝たせてもらった。帰るにはよい潮時だよ」


 今度こそシリウスは誰にも邪魔されずに立ち上がった。

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