第32話 カジノへゴー!
洞窟から地上に戻ったスカーレット・フェニックスのメンバーはいつもに増して明るい顔をしていた。
普段よりたくさんの魔結晶を手に入れていたし、アースドラゴンのドロップアイテムで特別ボーナスが約束されていたからだ。
「みんな、今夜は私のおごりだ。夜のイスタルに繰り出すぞ!」
ガウレアの言葉にメンバー全員が喝采を送った。
魔闘士もポーターも大喜びである。
シリウスも断り切れずにつき合うことになった。
初めて入る歓楽街をシリウスは物珍し気に眺めた。
通りには煌々と明かりが灯り、香水と酒の香りに上書きされた人間の臭気が漂っている。
「ご主人様にはこういう場所へは入ってほしくないのですが、今日は特別に許してあげましょう」
「相変わらず主人より態度の大きな侍女だな」
「当然です。アマボンの75%が歓楽街で身を持ち崩すんですよ。大抵は不幸を装う女に入れあげて大金を使ってしまうパターンです」
「75%という数字は本当か?」
「当社調べでございます」
つまり何の根拠もない与太話である。
だが、リセッタの言にもいくばくかの真実は含まれている。
シリウスが騙されやすい性格をしているのは事実だ。
「約束してください。不幸な女を見ても金貨を渡さない。はい、復唱!」
「お、おい……」
「はい、復唱。してくれないと安心して楽しめません。不幸な女を見ても金貨を渡さない。はい、復唱!」
「ふ、不幸な女をみても金貨は渡さない……」
仕方がなくシリウスは復唱した。
そんなはずはないと思いながらも、ひょっとしたら騙されてしまうかもしれないという不安もあったのだ。
「まずは腹ごしらえだ。とりあえず一件目に行くぞ!」
ガウレアは店を梯子する気でいるようだ。
豪快な性格に似つかわしく、使うときは気持ちよく散財してしまうのが常だった。
美味い酒と食事で腹を満たしたガウレアたちは次の店に向かうことになった。
「さて、どこに行こうかねえ……」
通りの両側にはいろんな店がひしめき合っている。
酒をたくさん飲んだのでメンバーの気はかなり大きくなっている。
いつも嫌味ばかり言ってくるトランでさえ笑顔を見せていた。
「姐さん、カジノなんてどうですか?」
「またかい、トラン。アンタはギャンブルが好きだねえ。だけどたまにはそれも面白そうだ」
「そうこなくっちゃ! 姐さんにぴったりの高級カジノがあるんでさぁ。昨年オープンしたばかりのカジノ・オータスですぜ。そこならいい酒もあるし、食い物も上等ですよ」
「だったらそこに行くとしようか」
スカーレット・フェニックスたちは移動しようとしたが、シリウスはここで帰ることにした。
「俺たちはそろそろ帰ります。今夜はごちそうさまでした」
だが、ガウレアをはじめチームメンバーたちが納得しない。
「何を言ってるんだよ。今夜の主役はアースドラゴンを相手に一歩も引かなかったデュマだろう? 主役が帰ってどうするんだい!」
「いや、俺は引いていただけなんだが……」
北斗退歩は回避の技なのでシリウスはそう言ったのだが、ガウレアたちは許さなかった。
間が悪いことに、初めて酒を飲んで完全に酔ってしまったリセッタが余計なことを喋り出す。
「なにを言ってるんれすか、ご主人様。ご主人様は賭博の天才じゃないれすか! そんなご主人様がカジノに行かないでどうします! たとえバニーガールをエロい目で見たとしても今夜らけはわらしが許します!」
「バ、バカ。この酔っぱらいがなにを言って」
慌てて口を塞ごうとしたがもう遅かった。
聞きつけたガウレアが囃し立てる。
「これは意外なことを聞いたぞ! デュマにはそんな才能もあったのだな。これはぜひとも見せてもらわなければならんな」
トランもせせら笑いながらシリウスを煽った。
「侍女様のお許しが出たぜ。運のいいお前のことだ、少しくらいは勝てるんじゃないか?」
だがシリウスは気が気じゃない。
リセッタを引っ張って囁く。
(おい、カジノになんて行って大丈夫か? ザビロが経営する店なら知り合いに正体がバレてしまうかもしれないぞ)
(ザビロがやっているのはカジノ・クローれすよ。オータスはザビロのライバルがやっている店だから心配いりませんって!)
「なにを話しているんだい? ほらさっさと行こう!」
「そうだよ、デュマ。今夜は帰さないからね!」
ガウレアとルクシアに左右をがっちりと固められたシリウスは身動きがとれなくなり、そのままカジノに連れ込まれてしまった。
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