第30話


 スカーレット・フェニックスはエリアDの入口まで来ていた。

今回の探索は魔結晶の採取量が少ないわりに戦闘ばかりが多い。

リーダーのガウレアは「そんなこともあるさ」と余裕を持っていたが、メンバーは全員が少しイライラしている。

探索の給料は歩合の部分もあるので、魔結晶の採取量が少なければそれだけボーナスも下がってしまうのだ。


 小規模な戦闘が終了するとトランがシリウスに噛みついた。


「余計な真似をするんじゃねえ! あの程度の雑魚は俺一人で倒せたんだ!」


 トランはピンチを助けてもらったのにも関わらずシリウスに腹を立てているのだ。

ガウレアの前で恥をかかされたと思っているのかもしれない。

だが、シリウスが手を貸さなければトランは確実に負傷していたはずだ。


「それは悪かったな」


「ケッ、すかしやがって。二度と俺の邪魔をするなよ!」


 トランは足を踏み鳴らして行ってしまった。

その一方でガウレアは感嘆の声でシリウスに話しかけてきた。


「いったいアンタはどうなっているんだい? 会うたびごとに強くなっている気がするんだけど」


「遅れてきた成長期かな?」


 とぼけておいたが、理由ははっきりしている。

魔力循環量が26%まで回復したこと、魔装鬼甲の能力が上がっていること、そしていくつもの実戦を経験したシリウスの技量が一気に上がったためだ。


「下級魔闘士試験に合格したんだって? でもデュマの実力は中級以上だぞ。すぐに次の試験を受けた方がいい」


「そうか?」


「そうに決まっているさ。デュマが階級をあげておいてくれた方が私にとっても都合がいい。次の試験は絶対に受けるべきだよ」


「どうして?」


「それは! まあ、いろいろだ……」


 ガウレアはデュマを父親に紹介したいと考えていたのだ。

父上だってデュマのことを気に入るはずだ……。

ガウレアはそんな思いを胸に秘めている。

上位チームのリーダーとして常に頼られる存在としてやってきたが、ガウレアだって誰かに甘えたい夜くらいあるのだ。


 夕暮れ時になってスカーレット・フェニックスはエリアDの奥地に到達した。


「大した収穫もないままここまで来ちまったね。まあ、ぼやいていてもしょうがないさ。この先の空き地で今夜は野営だよ」


 ガウレアの声にチームはほっと溜息をついた。

一日中歩き続けて全員が疲労の色をにじませている。

魔闘士もポーターもすぐにでも食事をとりたかった。

だが、先を急ごうとする一行をシリウスが止めた。

魔装鬼甲のおかげで野営予定地の異変を感じ取ったのだ。


「ガウレア、少し待ってくれ。少々まずい事態だ」


「どうしたんだい、デュマ?」


「かなり大型の魔物がこの先にいる。おそろしく厄介な敵だと思う」


 シリウスの進言を聞いてトランが口を挟んできた。


「やい、適当なことを言ってるんじゃねえぞ」


「いや、確実にいる。音も匂いも伝わってきているんだ」


 シリウスの能力を買っているガウレアはトランを黙らせた。


「デュマ、アンタの見立てでは、その魔物は何だと思う?」


「おそらく、アースドラゴンだ」


 ガウレアは小さく口笛を吹いた。


「もしも本当ならとんでもないことだね」


 アースドラゴンは地下洞窟の中でも屈指の魔物である。

狩るには上級魔闘士の力が何人も必要になるほど凶悪だ。

だが洞窟に潜る人々はアースドラゴンの姿を求めてやまない。

なぜならアースドラゴンがいるところには必ず良質の魔結晶がたくさんあると言われているからだ。


 しかもドラゴン系の魔物は高額で取り引きされるレア素材をたくさんドロップする。

ゆえにアースドラゴンは富と厄災の両方をもたらす存在の象徴でもあった。


「姐さん、どうしますか?」


 ルクシアが心配そうに尋ねた。

今回、スカーレット・フェニックスの魔闘士は十二人いたが、そのほとんどは中級魔闘士で構成されている。

魔闘将であるガウレアはいいとして、上級魔闘士はルクシアだけで、後は全員が中級魔闘士なのだ。

そしてシリウスにいたっては下級魔闘士である。


「狭い場所での戦闘だから全員で攻撃は無理だね。少数精鋭でやるしかない」


「人選はどうします? あたしと姐さんは当然行くとして、もう一人くらいは必要じゃありませんか?」


「そうだね……デュマ、来てくれないか?」


 ランクがいちばん低いにもかかわらずガウレアはシリウスに同行を求めた。

それほどガウレアはシリウスの腕を信用していたのだ。


「俺でいいのか?」


「私の目は誤魔化されないよ。アンタ、まだ力を隠しているだろう? 今日は存分に働いてもらうからね」


「別に隠しているわけじゃない」


 そういいながらもシリウスは支度を始めた。


 ガウレアは残りのメンバーに指示を出す。


「私たち三人が様子を見てくるからみんなはここで待機だ。万が一戻ってこない場合はすぐにこの場を離れるんだよ」


 不安そうにするメンバーをガウレアは励ました。


「安心おしって。本当にアースドラゴンがいるのなら大儲けは間違いなしだよ。みんなにも特別ボーナスを出すからね!」


 ガウレアを先頭にしてルクシア、シリウスの順に続いてアースドラゴンのいる場所へと向かった。

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