第22話 魔装鬼甲の強化


 エリアBに入ってもチームは危なげなく魔物の群れを倒していった。

今も一人の負傷者も出さずにシュレクトパーピアンとグロッカスという魔物の群れを全滅させている。

シュレクトパーピアンは背中に翼の生えた猿のような魔物、グロッカスは毒々しい紫色の花を持つ植物系の魔物だ。


 戦闘の終結を確認してガウレアが声を張り上げた。


「全員けがはないかい? 少しでも傷があるものは治療をするように。放っておくと化膿して後で泣きを見るからね。バックアップ班は周囲を警戒。戦闘をしたものは装備の点検だ。ポーターたちは周囲の魔結晶とドロップアイテムを拾っておくれ」


 全員が指示通りに動き出す。シリウスも梅枝に刃こぼれなどがないかを確認していたが、あることに気が付いた。


 ポーターたちは一生懸命ドロップアイテムを集めているのだが、シュレクトパーピアンの翼やグロッカスの雌しべには見向きもしないのだ。

シリウスはガウレアに訊いてみた。


「あれらのドロップアイテムは拾わないのか?」


「羽と雌しべかい? あれは買い取り対象にはならないゴミだからね」


「だったら俺がもらってもいいか?」


 ガウレアにとってはゴミ同然だが、シリウスにとっては宝の山である。

どちらも魔装鬼甲の能力を上げるユニットパーツの材料として欠かせないものなのだ。


「かまわないけど、荷物になるだけだよ」


「実験に使いたいんだ。自分は魔道具の研究をしているから」


 魔装鬼甲のことは喋らなかったが、ガウレアは疑うこともなくシリウスの言葉を信じた。


「へぇ、魔道具の研究だなんて、デュマは頭がいいんだな」


「そんなことはない。ちょっとした趣味みたいなものだから」


 慣れない嘘をついてしまったが、シリウスは嬉々として素材を集めた。




 三日間の探索を終えたのち、スカーレット・フェニックスは地上へ戻った。

その間にシリウスは大量の素材を手に入れている。

誰も必要としないので拾い放題だったのだ。


 研究室に戻ったシリウスは集めた素材を使っていくつかのユニットパーツを作製した。

ジャンプ力を上げるシュレクトパーピアンユニット、毒検知が可能になるグロッカスユニット、触覚をあげるヒルコユニット、さらには視覚を強化するアルゴスユニットまで作っている。


「ヒルコってなんだか淫靡いんびですよね」


「そうか? 口のところに無数の触角をもつヒルなんて、気持ち悪いだけだと思うが?」


「ヒルコ×リセッタの良さが理解できないなんてシリウス様は本当にダメボンですね。それはともかく触覚が上がるとどうなるんですか? エッチなマッサージができるようになったりとか?」


「なんだそれは?」


「生意気な侍女にわからせちゃう的なやつですよぉ。言わせないでください、恥ずかしい」


 だったら言わなきゃいいのに……。


「いや、魔装鬼甲にそんな力は要らないだろう? 物の温度がわかりやすくなるから敵の状態変化がよくわかるようになる。あと熱のある人なんかもすぐわかるな。当然、隠れている敵も見つけやすくなるぞ」


「なーんだ、期待外れですね」


 リセッタはどうしてがっかりしているのだろう?


「よし、これでパーツがすべて組み込めたぞ」


 魔装鬼甲にはめ込まれた各部のオーブは正常に光っている。ユニットパーツは正常に作動しているようだ。


 ユリウスは完成した魔装鬼甲を身につけた。


「いかがですか、パワーアップした魔装鬼甲は?」


「ジャンプ力はかなり上がったと思う。三秒だけだけど空中でのホバーリングも可能になったぞ。これは敵の意表をつくことができそうだ」


「触覚は?」


「人間の体温がよくわかるよ。リセッタは平熱だな。今日も健康的で大いにけっこうだ。さて、毒検知の実験はどうするかな?」


「食べてみます?」


 リセッタが差し出してきたのはネズミを殺す毒入り団子だ。

メゾン・ド・ゴージャスの地下室には大量のネズミが巣くっていたが、最近になってようやく駆逐できたところだった。


「そんなものは食べなくたって毒入りだとわかるさ。おや、嗅覚が鋭敏になっているから臭いで毒だとわかるよ」


「そこまでですか!」


「視覚はもっとすごいぞ。敵の動きがよく見えるだけじゃなく、うっすらと筋肉のうごきなんかも感じ取れるんだ。もう少ししたら着物や肌を透視できるようになるかもしれない。まあ、金属や分厚い壁などは無理だけどな……って、なんで胸を押さえている?」


「いやらしいご主人様! それはもうエロボンですよ。鉛のブラを発注しなければなりませんね。もちろん経費で」


「どういう意味だよ……」


「ご安心ください、私は主人思いの侍女です。ブラの面積は小さめにしておきます」


「見るもんか!」


「はいはい、視線に気が付いても知らないふりをしておいてあげますからね」


 シリウスはリセッタとの議論を諦めた。




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