第21話 スカーレット・フェニックス
二日後、シリウスとリセッタは指定された時刻に洞窟前にやってきた。
スカーレット・フェニックスのメンバーはまだ半分くらいしか到着していない。
それなのにトランはシリウスたちに腹を立てていた。
「新入りのくせにおせえぞ! 近頃のガキは礼儀を知らねえな」
そういうトランだってまだ二十代後半だ。
悪相だから年齢より老けて見えるが、それにしたって年寄り臭いことを言うものである。
シリウスは無視を決め込んでトランから距離を取った。
この手の人間とはなるべく関わらない方がいいことをシリウスは都会での生活で学んでいたのだ。
やがてメンバーもそろい、最後にガウレアがやってきた。
がっしりと皮鎧に身を包み長剣を背負っている。
レドックス流は大きな武器を用いた豪快な技が多い。
「よし、みんな集まっているようだね。フォーメーションは事前に伝えたとおりだ。新入りのシリウスは私の横についとくれ。リセッタはポーターだ」
「え、私だって戦闘に――」
抗議するリセッタをガウレアは優しく制した。
「嬢ちゃんが剣を使えるのは知っているさ。だからアンタにはポーターの護衛も兼ねてもらうんだ。みんなの面倒を見てやってくれ」
「なんだかいいように丸め込まれている気がします」
ブツブツ文句を言うリセッタだったがそれ以上の反抗はなかった。
「それでは出発!」
スカーレット・フェニックスは整然と隊形を整えて歩き出した。
エリアAをほぼ素通りし、最短距離でエリアBのゲートに到着した。
ここより先に進むには下級魔闘士以上が持つ鍵が必要となる。
鉄格子になった扉を開きメンバーたちは全員エリアBに入った。
「よし、小休止だ。それぞれ体を休めるように。ポーターたちは荷物を卸しても構わないよ」
ガウレアの言葉にシリウスとリセッタは驚いた。
これまでいくつかのチームを経験したがここまで計画的に休憩を取るチームは初めてだったのだ。
リセッタにいたってはそもそも休憩というものがなかった。
魔闘士たちが休憩を取るとき、奴隷は水や食料の用意をするのが当たり前だったのだ。
「二人とも驚いているようだね」
ルクシアという女魔闘士が水筒を差し出しながら話しかけてきた。
少々馴れ馴れしい感じはするがシリウスたちにも友好的な魔闘士だった。
そばかすを散らした顔は人懐っこそうだが、ルクシアは上級魔闘士でガウレアの右腕でもある。
(あれはご主人様に気がありますね。あの手の女は簡単に股を開きます。お気を付けください)
(こら、失礼なことを言ってはダメだろう。ルクシアは親切ないい人だぞ)
(アマボンはすぐに騙されますね。ああいう顔が76点、体が87点くらいの女がいちばん危ないのです。ご主人様はほだされやすいタイプ。一度関係を持てばすぐに結婚を迫られ、断り切れなくて実家に連れ帰ることでしょう。ゆめゆめ気をお許しにならないように)
(そんなことは……)
(ないと言い切れますか? 酒の勢いで寝てしまったなんて事例もございます。アマアマボンボンをご自覚ください)
(う、うむ……)
他人が聞けばひどいことを言う侍女だと思ったかもしれない。
だがリセッタの偏見はなに一つ間違っていなかった。
ルクシアはシリウスを狙っていたし、シリウスの性格はリセッタが言った通りだったのだから。
そんなルクシアが話しかけてきたので、二人は別々の意味で緊張していた。
「よかったら水を飲みなよ」
「ありがとう、だが水はある」
リセッタはルクシアに見せつけるように急に甲斐甲斐しくなった。
「はい、ご主人様。水と携帯食ですよ」
「ありがとう……」
だが、ルクシアは気にもしないで話し続けた。
「まあスカーレット・フェニックスはかなり特殊なチームだと思うよ」
「それは言えるな。定期的に休憩もあり、一番気を使う前衛はローテーション制をとっている。そのタイミングも絶妙だ。ガウレア・レドックスという人はなかなかの人物だな」
「だろう!」
リーダーを褒められてルクシアは素直に喜んでいた。
「だけどあの人に惚れても無駄だよ。何と言ってもあの人は四大魔闘侯レドックス様の四女なんだからね」
「ほう……」
「お付き合いするとしてもそれなりの貴公子じゃないとつり合いが取れないってもんよ」
「そうかもしれないな」
その貴公子の一人に連なるのだが自分の出自を語るつもりはない。
まだ戦っているところは見ていないがガウレアはただの脳筋でないことはたしかなようだ。
二十二歳で魔闘将のランクにあるのは伊達じゃないということなのだろう。
今後は彼女の戦う姿を見られるかもしれない。
ひょっとしたらレドックス流の絶技を間近で見られるかもしれないと考えてシリウスは興奮した。
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