第20話 初陣


 洞窟にやってきたシリウスたちは魔結晶を探しながら魔物の出現を待った。


「スカーレット・フェニックスの出発は明後日だ。それまではみっちり修行するからな」


「望むところです。強くなって私をいじめた奴らを見返してやるんです」


 意気込むリセッタの目に迷いはない。


「その意気だ。戦闘になったら迷わないこと。いざとなったら俺が助けに入るから思いっきりいくんだ」


「はい! 決して迷いません、真っ向勝負のマッコウクジラです」


「お、おう……」


 わからない、自分の弟子がなにを考えているかわからない……。

混乱しつつもシリウスは地下洞窟を先導して歩いた。


 やがて二人の前にリザードマンの亜種が出現した。

三体セットで出現することが多い魔物だが出てきたのは一体だけだった。


「黒トカゲか……」


 曲刀と盾を持つ姿は一般的なリザードマンと同じだが、知能はもっと低い。

頭髪はなく、ツルツルとした頭が黒光りしているのでこの名前がついた。

エリアAでは中くらいの脅威だが今のリセッタならなんとかなるだろう。


「よし、こいつはリセッタに任せるぞ」


「は、はいっ!」


 勢いよく一歩を踏み出したリセッタだったが、初陣の緊張が体を縛り付けてそれ以上前に出ることができない。

対する黒トカゲも仲間がいないので攻撃をためらっていた。


 リセッタも黒トカゲもそのまま距離を取り合って睨み合っている。

だが、隙を見せれば魔物は情け容赦なく襲い掛かってくるだろう。


「決っして背中を見せてはダメだぞ。敵の気迫に飲まれるな。平常心を保つんだ」


「そ、そんなこと言っても、なんだか凶悪な目をしていますよ。こいつ、ひょっとしたら未来の魔王なんじゃないですか?」


「あり得ない。こいつはただの黒トカゲだ。四天王最弱にさえなれないタマだぞ」


「そんなことを言われてもですね……」


「リセッタならやれるさ。難しいことは考えずに初手を当てることだけを考えろ」


「初手を……当てる」


 リセッタの心の内で覚悟が決まったようだった。

わずかに左足を前に出して足場を固めている。

これなら心配はいらないだろうとシリウスは安心した。


 魔力を巡らせた足が力強く地面を蹴り、高速の踏み込みとなってリセッタが敵に迫った。

青門十二式の基本中の基本である切り込みだ。

だがその鋭さには目をみはるものがある。

たまらずに盾でガードした黒トカゲだったが次の瞬間にはリセッタを見失っていた。


 攻撃と同時に横移動したリセッタは黒トカゲの死角から第二撃を繰り出す。

脇腹を水平に斬られた黒トカゲはたまらずに倒れこんでしまった。


「みごとだ!」


「ハア……ハア……」


 荒い息をつきながらリセッタがシリウスを見上げる。


「私……ちゃんと、やれてましたか?」


「ああ、いい攻撃だったぞ」


「ハア……ハア……、エロかったですか?」


「それはよくわからん……」


 リセッタはどこを目指しているんだ? 

だが、やはりリセッタが天才であることは間違いない。

才能の開花はもう少し先だろうが、現時点でエリアAくらいならものともしない動きをしていた。


「よし、この調子でガンガンいくぞ」


「はい、スーパーエロエロガールを目指して頑張ります!」


 シリウス様と出会い、最悪だった自分の人生に光明が灯った。

この明かりを絶やさないように私は強くなる。

シリウス様のよこにあって恥ずかしくないくらいにエロくなってみせる! 

リセッタの決意は固かった。




 一日の探索を終えてシリウスとリセッタは地上に戻り、そのままギルドに向かった。

ユニットパーツに使わないドロップアイテムをいくつか手に入れたので、それを換金してもらうためだ。


 人で込み合う掲示板の前を通ると、顔を知っている読み上げ屋が大声を張り上げていた。


「トロット亭が秋の新作スイーツを出すよ! カジノ・オータスではバニーガールというセクシーな女の子の衣装が登場だ! 下級魔闘士の試験の情報も出ているよ! 読んでほしい記事があれば声をかけてくれ。どれでも一つ10クロードで読み上げるよ!」


 さっそく掲示板を見に行こうとするリセッタをシリウスが止めた。

リセッタは興味があるものを見つけるとすぐに見に行ってしまうのだ。


「先に換金をしてしまおう。それからでも遅くない」


「はーい。荷物を持って歩くのも面倒ですものね」


 不必要なドロップアイテムを換金すると全部で3200クロードになった。


「悪くない額になりましたね。これだけあれば何食分かにはなりますよ。調味料も買い足しておきましょう」


 ご機嫌なリセッタにシリウスは金を渡した。


「これはリセッタが稼いだものだから好きに使うといい。今日はよく頑張ったな」


「ご主人様……。本当にぜんぶいただいてもよろしいのですか?」


「好きに使うといい。さっき掲示板のところに出ていた新作スイーツを食べにいったらどうだ? それとも貯金か?」


「えーとですね、このお金はご主人様と二人で稼ぎました。だから、二人でスイーツを食べに行って、残金をすべて貯金するというスペシャルコースを希望します!」


「俺も行くのか?」


「はい、当然です」


 リセッタはシリウスの腕に掴まり、ぶら下がるように引っ張っていく。


「こらこら、そんな子どもみたいなことをしては……」


「子どもじゃなくて、乙女です!」


 変な娘だ。

ブルドランの屋敷では見たこともないような侍女である。

無邪気に甘えるリセッタを見て不思議な気持ちになるシリウスだった。


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