第16話
アバカブルで臨時収入のあったシリウスはホクホク顔で魔結晶を買った。
これでまた魔経路閉塞症の治療に近づいたのだ。
先は長いとはいえ快癒への道は近づいている。
「シリウス様ぁ、せっかく儲かったのだから、たまには美味しいものでも食べましょうよ」
キッチンでジャガイモを茹でながらリセッタは文句をこぼした。
「まあ、そう言うなって。今は少しでも治療用の魔結晶を確保しておきたいんだ。次に儲かったらなんでも好きなものを買ってやるから」
「ちぇー、久しぶりに大きなお肉が食べたかったなあ」
拗ねるリセッタはかわいそうだったが、シリウスだって虐待しているわけではないのだ。
侍女としての待遇は普通よりいい方なくらいである。
「給金は渡しただろう? それで好きなものを買えばいいじゃないか」
「あれは将来に備えて貯金です」
奴隷としての境遇が身に堪えたようでリセッタは蓄財に一生懸命だった。
「はい、ジャガイモが茹で上がりましたよ」
夕飯は茹でたジャガイモ、チーズ、ミルクだけである。
それでも飢える心配がないだけマシというものだろうか。
二人は席について食べ始めた。
「……」
フォークを止めて自分を見ているリセッタにシリウスは気が付いた。
「食欲がないのか? さっきまで肉が食べたいとか言って騒いでいたのに」
「シリウス様の食べ方を観察していたのです。やっぱりお坊ちゃまは食べ方がきれいですね。今は貧乏ですが育ちの良さがでていますよ。ビンボッチャマ」
「変な呼び方はよせよ。それにじろじろ見られたら食べにくいじゃないか」
「物腰が優美なのに食べているものは茹でジャガイモだもんなあ……。せめてもう少しいいものを食べてもらいたいですよ。そうだ! もう少し儲かるエリアへ行きませんか? このままではジリ貧です」
リセッタの提案はシリウスも考えていたことである。
「そろそろ昇級試験を受けるべきか」
イスタルの地下洞窟は奥に行けば行くほど出現する魔物は強力になる。
だが、その分だけ取れる魔結晶も多くなる特徴があるのだ。
実力をつけたシリウスとしてはもう少し奥地で探索をしたかったがエリアには厳格なルールが定められている。
シリウスのような準魔闘士はエリアAという入口近辺にしか入ることはできない。
「誰かと組んだり、強いチームに参加したりするのはダメなんですか?」
チームのリーダーが中級魔闘士であればエリアCまでの探索が可能である。
「それも考えたけど、下手なチームに参加すると取り分が減ってしまうんだよ。ほら、お前がいたザビロのチームみたいなところな」
「なるほど。だったらシリウス様に頑張ってもらって、昇級試験を受けてもらうしかありませんね」
「やはりそれがいちばんか……」
「なんです、自信がないんですかぁ?」
リセッタはシリウスを軽く挑発した。
「そんなことはない。魔力循環は7%回復したし、魔装鬼甲があれば中級魔闘士に飛び級だってできるはずだ」
「では見せてもらいましょうか、シリウス様の実力とやらを」
「なにを偉そうに」
「だってご主人様が準魔闘士では格好がつきませんよ。早いとこ上級魔闘士くらいになって侍女に楽をさせてください」
そういえばあいつは十七歳で上級魔闘士だったな……。
元婚約者セティアの顔がシリウスの脳裏をかすめた。
今さら未練はないが負けたくはないと思うシリウスだった。
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