第13話 バカバカボンボン、エロボンボン


 落ち着き場所が決まったシリウスとリセッタは魔闘士ギルドにやってきた。

ここでは魔物の状況や魔結晶の買い取り、特別な依頼などを知ることができる。

また、魔闘士の昇級試験などが行われるのもギルドの敷地内だった。


「ほぁ~、相変わらず強面の魔闘士がたくさんいますね」


「都中の魔闘士が集まってくるから当然だ。俺も以前はここの掲示板で臨時雇いの仕事を探したもんさ」


「ああ、ザビロの編成したチームですね」


「ろくでもない仕事だったがな」


 シリウス魔装鬼甲を装着してギルドにきた。

ここには装備を付けたままやってくる魔闘士も多い。

中には顔面にひどいけがを負った者もいて、仮面やヘルムはそこまで珍しいものではなかった。


「ご主人様、掲示板はあれですね」


 シリウスたちは人々でごった返す掲示板を確認した。

この掲示板にはギルドの討伐依頼だけではなくイベント情報なども掲載されていて、庶民にとっては新聞の代わりにもなっているのだ。


「お、また刀剣市が開かれるみたいですよ」


「ほう、俺は行ったことがないな」


「年に二回ほど地下洞窟前通りで開催されるのです。武器だけではなく包丁なども売られるのでお父さんに連れて行ってもらったことがあります」


「リセッタのお父さんは料理人だったな」


「はい、美味しいものは作れなかったけど、大盛りだからお客さんは多かったんですよ」


「そうか……」


 死んだ親のことを思い出してリセッタは悲しく微笑んだ。


「あ、安心してくださいね。私の料理の腕は確かです。お父さんが作るものよりずっと美味しいものを作るとお客さんも褒めてくれたものです」


「さあさあ、カジノ・オータス新装開店の情報はこちらだよ!」


 読み上げ屋が人々の興味を引きそうな記事について大声を張り上げている。

識字率が低いので掲示板の近くには読み上げを職業にしている人もいるのだ。

一回の料金は10クロード。70クロードで小さな丸パンが一個買えることから考えるとそれほど割りのよい仕事でもない。


「あ、あそこにゴブリンの討伐依頼がでていますよ。どうやらエリアAの端っこで大量繁殖したみたいですね。なになに、ゴブリンの指輪一つにつき100クロードの報奨を与えるですって!」


「それは困ったな」


 ゴブリンの指輪はゴブリンユニットを作製するための素材である。

討伐の証拠としてギルドに提出するわけにはいかない。


「残念ながら報奨金はもらえないぞ」


「そんなぁ……」


 肩を落とすリセッタをシリウスは励ました。


「ゴブリンの巣にはゴブリンチーフもいる。そちらのドロップアイテムであるナイフは使わないから、換金できるよ。ゴブリンチーフのナイフは一つにつき500クロードだってさ」


「どちらにせよ収入は少ないですね……」


「最初は我慢してくれ。俺の力が戻ったら必ず借りは返すよ」


「絶対ですよ。約束を破ったらスケベビッチ・チッパイスキーに改名ですからね!」


「わかったから大きな声を出すな。恥ずかしい……。俺はこのまま討伐に行ってくるから、リセッタは一人でメゾン・ド・ゴージャスに戻ってくれ」


 ところがリセッタは首を横にふった。


「どうせなら私も連れて行ってください。実戦の中で腕を磨きたいです」


 リセッタは武術を学び、将来は魔闘士としてやっていきたいようだ。


「基礎となる青門十二式を教えただけじゃないか。自分の身を守ることだってまだ難しいぞ」


「それでもかまいません。荷物持ちくらいはしますので、ご主人様は討伐に専念してください。その方がきっと稼ぎも上がります!」


 シリウスは思案した。

エリアAは洞窟の中でも比較的危険のない場所だ。

今回はゴブリンが大量発生したようだが、特別ボーナスが出るとあって他の魔闘士たちも多く詰めかけるだろう。

危険は少ないか……。


「わかった。だけど絶対に無理をするんじゃないぞ。いざというときは振り返らずに逃げるんだ」


「お任せください! 逃げ足にだけは自信があります」


 偉そうに小さな胸を張るリセッタに不安を覚えたが、彼女の剣の筋は悪くない。

というより、天性の素質があるようだ。

シリウスは軽くリセッタを小突いて洞窟の入口へと足を進めた。



 迫りくる五体のゴブリンをシリウスの梅枝が流れるように斬っていく。

ブルドラン流における渓流瀑けいりゅうばくと呼ばれる技である。

その名のとおり傾斜のある岩の上を流れる水の如く、剣は滑らかに淀みなく敵を切り裂く。

ゴブリンの血で赤く染まった刀身からは紅梅の花びらが閃いた。


 リセッタは呆けたように口を開けてシリウスの一挙手一投足を目で追っていた。


「はぁ……、相変わらずご主人様の戦闘はエロいですね。普段はバカバカボンボンって感じなのに」


「なんだよ、それは?」


「甘ちゃんのお坊ちゃまのことですよ」


 リセッタには遠慮というものがない。


「おい、師匠をバカにするな」


「だから今は褒めているじゃないですか。ユリウス様の剣技は美姫の舞にも劣りません。エロエロです」


「うれしくないよ」


 エロいはともかく、師匠として認めてはくれているということだろうか? 


「だけど、ブルドラン流の動きはまだまだこんなもんじゃないぞ。魔力を巡らせられない体では全然だめだ」


「これ以上エロくなるのですか? それは鼻血ブーですね!」


 鼻血ブー? 

なんだか遠い昔に聞いたことのあるフレーズだが、リセッタの目は真剣である。

恥ずかしいが褒められれば悪い気はしなかった。


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